さてさて、ジョブズ先生の休養にあたって、その偉大なる半生を振り返ろうと組まれた、特別大長編企画【ジョブズ半生期】!
今回はその第5部(1985年−1987年)です。
たった3年? と思われる読者様もいらっしゃるかと思いますが、ジョブズ先生にとっては新会社を設立したり、自分の遺伝子に思いを馳せたり、非常に盛り沢山な3年間です。
1985(part1)この年、ジョブズとウォズは当時の大統領、ロナルド・レーガンから第1回アメリカ国家技術賞(技術分野ではアメリカ合衆国で最高の栄誉とされている賞)をもらいます。
受賞の前か後なのかははっきりしませんが、とにかく受賞したころ、ジョブズはウォズがAppleを退職していたことを知ります。かつての親友なのに退職したことすら知らなかったんですね。
ウォズはAppleを退職後、カルフォルニア大学バークレー校にロッキー・クラークという偽名を使って入学し、CS/EE(電子工学)の学位を取得します。
1985年はジョブズにとって而立の年。サン・フランシスコで開かれた、ジョブズ30才の誕生パーティーではThe First Lady of Jazzとも称されるエラ・フィッツジェラルドにショーを行ってもらっています。また抜群のプロポーションと金髪で知られる、スーパモデルBo Derekを訪ねて、Macユーザーになるように口説きますが、彼女はMacにもジョブズにも関心を向けず。。。
他には、たまたま見たビデオによって、ヨーロッパに核兵器の照準をあてるためにAppleⅡが使われていることを知り、プレイボーイ誌でその事を快く思っていないとコメントしたりしています。
それから、この年で一番重要な事件が!
まず、Apple社内でのジョブズの立場が危うくなり始めます。
Appleの役員らはMacの売り上げ台数予想が実際と大きく異なっていることでジョブズの責任を追求し、ジョブズの経営スタイルへの不満を表し始めます。
ジョブズのマーケティングの補佐をしているMike MurrayはAppleがかかえている問題をメモにまとめ、その多くの原因がジョブズにあることを示しました。
この後ジョブズは、「現実歪曲空間(reality distortion field)」と称されている、知らず知らず人々を巻き込み、感動させてしまう能力を以前ほど発揮できなくなってしまいます。
役員会とスカリーはジョブズからMacグループでの権限を取り上げること、Lisaのプロダクトラインを中止することを決定します。
ジョブズは、中国への出張中にスカリーを追い出そうと計画しますが、副社長の告げ口によってスカリーにばれてしまいます。
計画を知ったスカリーがジョブズに問いただすと、
「君はAppleにとって害となっていると思う。この会社を経営するのに相応しくない。」とジョブズは開き直ります。これを受けてスカリーは翌朝、緊急会議を開き、
「会社を経営しているのは僕だ、スティーブ! 会社のために君に出て行ってもらいたい。今すぐ!」と発言し、会議に集まった役員に、ジョブズかスカリーか、を選ばせました。
その間、ジョブズは終始発言しなかったそうです。
ジョブズは、自分がペプシから引き抜いてきたスカリーのリーダーシップを再確認し、それを賞賛しましたが、その一方で、なんとかスカリーに打撃を与えようともしたようです。
そんなこんなで、1985年5月28日火曜夜、ジョブズは会長職以外の全ての権限を失うことになりました。
友人らはジョブズが自殺するのではないかと心配したようです。
1985 Part 2Appleから事実上必要とされなくなったジョブズは次のステップについて思いを巡らせます。
NASAに行ってスペースシャトルに乗る? 政界に進出する? バイオテクノロジーを勉強する?
結果、ジョブズは、自分の情熱が革新的な製品を作ることに対して向けられていることを再確信するに至り、新たなベンチャー企業を立ち上げることにします。
そこでAppleにベンチャー企業を立ち上げることと、会長職から退く意思を伝えます。Appleは始め、彼を会長職に留め、彼の新しい会社に投資することを検討しましたが、ジョブズが技術者を引き抜いていることを知り、ジョブズには完全に退職してもらうことにしました。
ジョブズの退職は実にドラマチックに演出されました。時刻は夕暮れ時。ジョブズがMike Murrayに退職届を渡す様子をプレスが見守ります。この時ジョブズはプレスに向けて、こんな風に発言しています。
もしAppleがコンピューターをただの日用品と考え、ロマンスを失い、人類が生み出した発明品の中でもコンピューターは信じられないくらい偉大であるということを忘れてしまったのなら、自分にとってAppleとはもう失われてしまったということだ。だがもし、まだこんな風な考えを持っている人がAppleにいるなら、僕の理念がまだAppleに残されていると感じることができるだろう。たとえ、僕自身が何万マイルも遠くにいたとしても。
退職すると、ジョブズは、Appleの経営に信頼がおけないとして、当時持っていたApple株400万枚以上(1100万ドル以上)を売りに出します。この時、1枚だけ売らずに手元に残しておきますが、その理由は、感傷からだとも、4半期報告を受けるためとも言われています。
この年マイクロソフトがWindows 1.0をリリースします。これは初期のMac OS GUIs を真似して作られています。(まぁMac OS GUIsもXerox GUIsを真似してるんですけどね。)
スカリーは、ビル・ゲイツにMacの技術をWindowsで使用することを許可したのです。そして代わりに、WIndows版Excelの販売を延期してもらい、Appleがこの市場参入するための足場をつくる時間を稼ぎました。
ジョブズは新会社をNeXTと名付けます。
最初のプロジェクトは高等教育のためのワークステーションでした。
これはジョブズのバイオテクノロジーに関する興味に端を発しており、学生が買えるほど安く、しかし高度な研究のシミュレーションに耐えうるほどパワフルであることが求められました。
ビジネスウィーク紙の記事から、NeXTの前広告担当者Andrea Cunninghamのコメントを紹介します。
ジョブズがやりたかったことの1つは、世間にAppleはただのラッキーだったわけじゃないってことを分かってもらうこと。それからスカリーは彼を追い出すべきではなかったと証明することだ。
またこの年、AppleはLisaの生産を中止します。
1986NeXTのブランドを確立するのためのデザインをPaul Rand(IBMのロゴを作ったデザイナー)に依頼します。報酬は10万ドル。上の画像はその一環でデザインされたNeXTのロゴです。
このころ、娘のLisa(当時7才)との関係を築き始めます。また、所有していたApple株を売り終わります。
それから、ルーカスフィルムのコンピューターグラフィック部門であるPixarをたった1000万ドルで買収します。しかも内500万ドルはPixarの運営に使われるという条件で!
ジョブズがPixarを買ってくれたおかげで、ルーカスもスター・ウォーズの株を売らずに離婚費用を用立てることができたそうです。
好条件に見えた買収ですが、ジョブズは、「1986年にPixarにどれだけ維持費がかかるか知っていたら、Pixarを買わなかったよ。」とコメントしています。
1987ロス・ペロー(米実業家)がジョブズをテレビで知り、投資したいと電話をかけてきますが、ジョブズは冷静を装うため、わざと1週間待ってから返事をします。
ペローは2千万ドル出資して、NeXTの株16%の保有者となります。
それからジョブズは1985−1987のどこかで、彼の生みの親の詳細について知りました。そして、妹がいる事も。
母、Joanne Carole Schieble、スピーチセラピスト。
父、Abdulfattah Jandali、シリア人の政治学者。
妹、Mona Simpson、現在小説家として活躍中。
そして、Mona は著書「Anywhere But Here」の出版パーティーにジョブズを連れていき、パーティーの出席者に2人は兄妹だと告げます。
Monaの小説「A Regular Guy」に登場するメインキャラクターのモデルはジョブズだという噂もあります。
(ちなみにMonaの夫Richard Appelは「ザ・シンプソンズ」の脚本家で、マージ・シンプソンの母親の名はMonaから付けられているとか。)
この何年か前に、彼の性格は産みの親や遺伝子からではなく、どんな体験をしたかから作られていると主張していたジョブズにとって、自分とMonaがとても似ていると感じることは非常に衝撃的なことでした。
Steve Lohrはニューヨーク・タイムズ誌にこう書いています。
妹との交流は、ジョブズに運命を冷静にとらえる感覚のようなのものをもたらした。彼は切迫した状況を全てコントロールすることに固執しなくなり、自然に訪れる結果にもっと信頼をおくようになった。つまり、遺伝子とは妙なもの、ということだ。
会社関連では、NeXTのロボット工場をフリーモントに建設します。これは賃金を抑えるためではなく、回路をより正確にはんだづけできるレーザーを使い、品質を向上させるためだそうです。
いやぁ、濃厚な3年間ですねー。
自分で設立した会社Appleを、自分が引き抜いてきたスカリーに追い出され、それに屈するものかと、新会社を設立し、他の会社を買収したり、投資家を見つけたり、工場を建設したり。しかもその間に、今まで認めていなかった娘との交流や、前には存在すら知らなかった実の妹の交流も始めています。
波瀾万丈なジョブズ。これからどうなるんでしょう?第6部もお楽しみに!
Brian Lam(米版/mio)
・【ジョブズ半生記 Vol.1】スティーブはどのように生まれたか
・【ジョブズ半生記 Vol.2】悪ダチとつるみ、インドで荒修行を経て、偉大なるアップル創業までの知られざる至極のエピソード
・【ジョブズ半生記 Vol.4】ついに!初代Macが発売されました。
・【ジョブズ半生記 Vol.5】Appleを追い出され、ルーカス監督を助け、遺伝子に思いを馳せる30才のジョブズ
・【ジョブズ半生記 Vol.6】楽園追放中に運命の恋、結婚。アップル暗黒時代
・【ジョブズ半生記 Vol.7】Appleに復帰! iPodにiPad、iPhoneが登場。病気と戦いながらもジョブズ節を発揮!