スペースシャトルよ、さらば!
とうとう現行のスペースシャトルの打ち上げ計画も、あと7月に最後の1回を残すのみとなってしまいましたが、その後のNASAの構想はどんなものになっているのでしょうか? しばらくはロシアの宇宙船「ソユーズ」に頼りっぱなしになっちゃう状態も続くようですが...
そんな疑問の答えが、ついにクリアーに解決してきそうですよ。長らく謎に包まれていたNASAが練っているスペースシャトル後の宇宙計画の概要が、とうとう正式発表されちゃいましたからね。スペースシャトルに別れを告げるのは寂しいような気もしますけど、いざ未来の宇宙船に目を向けてみることにいたしましょう。
はい、もう次世代のNASAの宇宙船には、現在のスペースシャトルの影も形もないような気がするのはボクだけでしょうか? どちらかというと、以前のアポロ計画の時代にまで、やや逆行しちゃったようなデザインにも見えます。ちなみに新たな宇宙船の正式名称はMulti-Purpose Crew Vehicle(MPCV)と発表されていますよ。
MPCVのベースとなっておりますのは、月有人探査計画を実現する新宇宙船としてロッキード・マーチンが開発を進めていた「Orion」です。スペースシャトルの次はOrionだぜって勢いで、もうかなり真剣に開発プランが進行しつつあったそうなんですけど、そもそもの月に再び向かうことを目指したコンステレーション計画そのものが予算削減から打ち切りになってしまったんですよね。米国の威信をかけた宇宙計画の空白期間を設けることを決して許してはならないって大反対まで起きてたようなのですが...
ただ、そのまま完全にOrionの開発努力が無駄に終わってしまったのではなく、こうして新たに打ち出されたMPCVは、同じくロッキード・マーチンが開発を引き受けて、Orionに注ぎ込まれた技術投資が引き継がれた形ですね。スペースシャトルと比較して、打ち上げおよび大気圏への再突入時の安全性は10倍に向上し、おまけに非常に低コストなので、ややカプセル型のレトロなデザインに見えるかもしれないが、大幅な宇宙計画の前進に寄与するってアナウンスされていますよ!
ちなみに打ち上げに当たっては、先端のローンチシステムと後方のサービスモジュールにサンドイッチされる形で、実際に宇宙飛行士らが乗り込むクルーモジュールを挟み込んでMPCVを発射する構造になっています。これを巨大な打ち上げロケットの先端にセットして、発射台から一気に大気圏外へと飛び上がっていきますよ。
新たなMPCVの定員は4名となっており、当初のベースになったOrionの定員6名よりも、さらに小型化が図られています。スペースシャトルに乗り込める最高8名の宇宙飛行士と比較すると、まさに半分のサイズのコンパクト設計に仕上がるというわけですね。なんとなく船内の居住スペースの大きさは、これまでの快適だったスペースシャトルに近いというよりは、その狭さがソユーズに似ているという感じもしますでしょうか~
ただし、正式発表を行なったNASAの意気込みを紹介しますと、これはスペースシャトルデザインからの後退を決して意味してはおらず、宇宙計画の大いなる前進を象徴する次世代宇宙船になっているとのことですよ。小さく見えるとしても、その働きを侮ることなかれってメッセージが出されているわけですね。
なによりも最大のメリットは、スペースシャトルの飛行可能エリアが地球周回軌道に限られていたのに対して、理論的にはMPCVであれば、地球を遠く離れて他の小惑星や火星にまで行ける設計が採用されているという点でしょう。MPCVのみであれば、4名の宇宙飛行士の船内へのステイ期間は最長でも連続21日に限られますが、長期居住用の母船と組み合わせながら、火星への有人探査計画でも活躍する可能性が示唆されていますよ。いずれにしましても、国際宇宙ステーション(ISS)までしか行けなかったスペースシャトルよりは、幅広く宇宙空間を飛び回る柔軟な用い方ができるということは確かのようですね。MPCVというネーミングも、この多目的な宇宙船のコンセプトを強調したものになっているんだとか。
まだまだ今回のNASAの発表では、今後のMPCVの開発計画が明らかにされたのみで、実際の打ち上げに関わるスケジュールなどは公表されませんでした。ただ、本当に遠く火星有人探査計画の実現を目指す際に大きな役割を担う宇宙船の部分が姿を現わしてきた意義は大きいのかもしれませんよね。母船が完成すれば、宇宙空間のはるか彼方まで初めて人類が行けるようになるってことですし...
ただし、やはりこの設計ですと、ISSへのドッキング性能を備えてはいるようですけど、大型の人工衛星ですとか宇宙ステーションの建造資材などなど、サイズの大きなものは何も輸送できないことも発表されています。NASAとしましては、これからは民間企業の力を借りて地球周辺の近場の輸送手段は確保して、より遠くのエリアに絞った宇宙計画に注力する姿勢が改めて示されてしまった格好ですよ。かなりSpaceXなんかが頑張ってはいますけど、ただやはりスペースシャトルの引退後に民間企業だけでどこまでやれるものなのかって不安は残りそうですかね~
Matt Hardigree(米版/湯木進悟)