全てはここから、です。
映画史に永遠にその名を残す映画スター・ウォーズ。ジョージ・ルーカス氏の頭の中にある構想をシェアするために最初に見せられたのは、これらの手書きイラストでした。後のミレニアム・ファルコンやハン・ソロだと思われるイラストそのものも魅力的ですが、それと同じくらい興味深いのはこのイラストの複製方法、創作の裏にある科学力です。
イラストのほとんど(もしかしたら全部かも)を描いたのは、ルーカス氏の弟子であったジョー・ジョンストン氏。後にルーカス氏のすすめでUSCフィルムスクールへ通い、スター・ウォーズ3部作の制作に携わりました。「新たなる希望」でイラストレーターとして、「帝国の逆襲」「ジェダイの帰還」ではアートディレクターとして参加。ロケッティアを監督を担当し、現在米国公開中のキャプテン・アメリカでも監督をつとめています。
トップ画のイラストは、ジョンストン氏によるオリジナルイラストのコピー。これらのコピーはdyelineとよばれるもので特殊な方法でコピーされたものなのです。まず、ベルム紙に描かれた元のイラストを紫外線感光紙であるジアゾ感光紙の上に置き、紫外線をあてます。(ジアゾ感光紙はジアゾニウム塩でコーティングされています。このジアゾニウム塩は、2つの窒素原子が結びついた自然化合物。)ジアゾ感光紙で紫外線に当たった部分は、化学反応を起こさなくなり、ジアゾ感光紙の元の色がそのまま残ります。次に、ジアゾ感光紙を水酸化アンモニウムにさらします。(水酸化アンモニウムは人体に害があるためとってお弱いもの。)ジアゾニウム塩と水酸化アンモニウムの化学反応がおこり、紫外線にあてられていなかったジアゾ感光紙の部分に画が表れるというもの。
えーと、つまり以下ということです!
①ジョンストン氏のイラストを上に置いたジアゾ感光紙を紫外線に当てる。イラストが紫外線をブロックするので、ジアゾ感光紙のその部分は紫外線があたっていない。
②水酸化アンモニウムに付けると、
②-①紫外線当たった部分(オリジナルで何も描かれていない部分)は化学反応をおこさず通常の紙の色のまま。
②-②紫外線当たってない部分(オリジナルで画がある部分)は水酸化アンモニウムの化学反応で画が浮かび上がってくる。色は青っぽい。
なるほど! この方法はコピーを作るにはちょっとお高いやり方だそうですが、そのぶん細かい部分まで複製でき、品質はかなりのもの。小道具チームがこのイラストを元に忠実に映画のための道具を作成していくことができたわけです。後にこの複製は白黒でさらに作られるようになりますが、スター・ウォーズコレクターの間ではこの白黒複製版は「cactus prints」とよばれています。
これらの初期のイラストでは、映画ではミレニアム・ファルコンになるものが海賊船と記されていたり、ハン・ソロだと思われる人物がマスクを被っていたり、初期イメージならではの違いが楽しめます。これぞスター・ウォーズの元祖も元祖と言える歴史、人の記憶に頼らない物質的な歴史です。各オリジナルイラストにつき、10枚から15毎程度のdyelineコピーが制作されましたが、年月を経てその数は数枚になってしまいました。dyelineコピーは色褪せないように現在でも紫外線にあてずに保管する必要があります。スター・ウォーズのコレクターズアイテムの中でもかなり貴重なアイテムですね。
創作と科学。歴史に残る映画には、隅の隅まで創作と科学の絶妙なバランスが行き渡っていたのですね。
Images courtesy of Lucasfilm.
images: Christie's UK auction in 2009・Joe Johnston's Star Wars Sketchbook, Ballantine Books, 1977・Leif G
そうこ(Keith Veronese 米版)