意外と知らないメニューの罠

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意外と知らないメニューの罠

みんなメニュー開くとどこを先に見る?

レストランの業界では長年「右上コーナー」が真っ先に視線が集中するゾーン(英語でスイートスポット)とされてきました。よく一番利幅の大きな料理をそこに持ってったりします。でもそんな目先のことでお客がコロッと操れるものなのかな?

レストラン業界で広く受け入れられ、コンサルタントも支持するメニュー構成の心理学は、こう。

メニューを手にとると客の目は真っ先に右手真ん中よりやや上に行く。そこを起点に右上のコーナーに進み、上をズイーッと左端まで見て、次に左手を上から下に読み進んで、最後に右下と真ん中の残った部分を見て終わる、というもの。

これはもはや業界の定石とも言うべきもので、NYに売れるレストランを次々開店している英国人キース・マクナリー(Keith McNally)の高級ビアホール「Balthazar」のメニューを英紙ザ・ガーディアンが数年前にチェックしてみた時にも、やっぱりこのスイートスポットに高マージンの「海の幸の盛り合わせ」(70ドル、115ドル)、「ロブスター半身」(23ドル)がドッカーンと載ってたんでございますよ。海の幸とくれば、お飲み物はとりあえずシャンパン?

でも、そんなメニューの罠に引っかかるほどお客も馬鹿じゃないわよ! ...と言うのは、サンフランシスコ州立大のシビル・ヤン(Sybil Yang)助教授

「自分の経験で話すしかないのだけど、私は(メニューを)そんな風には読まないので、『私の方がヘンなのかな?』と思っちゃったんですね」

そこでヤン助教授は、人がメニューをどう読むのか本当のところを調べてみよう、と思い立ち、被験者を集めて目の動きを追う赤外線網膜スキャナーを装着してもらい、ダミーのメニューを読んでもらったんです。実験ではディナーの外食という想定で食事を丸ごとオーダーしてもらい、網膜スキャンでデータを集め、録画映像で頭の動きを分析してみました。

するとなんとなんと、スイートスポットなんてないことが分かったのです!

みんなメニューも本と同じように左から右(日本語の縦書きメニューは右から左?)、ページの上から下に順を追って読んでるんですね。しかも読み方もゆっくりで、定説が唱えるような衝動買いもナシ。唯一あるのはスイートスポットならぬサワースポット(視線がいかないゾーン)で、これはサラダが載ってるセクションです。大体想像つきますよね。

そんなわけで世のレストランはずっと勘違いしてたことに。でも、通説は当たらずとも遠からずで、「人はメニューを慎重に吟味した上で、メインディッシュを選んでから付け合せを何にするか考えているので、これは(レストランにとっては)朗報ですね」とヤン助教授。

つまり目は左から右でも、頭の中では主菜(西洋のメニューでは右の中から上にある)から組み立てていたと、いうわけですね。

メニューのトリックは掲載位置だけじゃない

レストランがメニューに仕組むトリックは掲載位置だけじゃありません。店主は利益マージンの高い料理を選んでもらおうと、あの手この手を尽くしてきます。客もせいぜい小手先の演出に騙されぬよう、常に疑いの眼差しでメニューの裏の裏まで見通さないと!

例えば先に紹介したBalthazaarのメニューを見てみると、「海の幸の盛り合わせ」(70ドル、115ドル)の隣に「小海老のカクテル」(15ドル)なるものが載ってます。70ドル、115ドルのそばにあると15ドルでも超・超お値頃に見えますけど、でもここがレストランにとってはものすごーく利幅のあるゾーンで、客にとっては一番バリューがないゾーンなんですよ! これはワインメニューでも同じことが言えます(あ...言われてみれば高いワインの隣にあるから安く見えてついつい注文しちゃうのだけど、出てみればただの安酒で、ぎゃーなんでこんなの頼んだんだろうって後悔すること多いカモ!)。

この真逆のトリックがデコイ(おとり、サクラ)

「これは絶対選ばれない前提で置かれているメニュー。単に他のメニューを選ばせる仕掛けとして置かれているメニューのことですね」とヤン助教授。要するに馬鹿高いもの隣に置くと安くも美味くもないものが面白いように売れるのが先の例なら、こちらは安くて不味くて誰も買わないアイテムを下に置くと、値段がそれなりに張るアイテムも面白いようによく売れる、というトリックですね(あーこれも引っかかってるカモカモ!)。

あとは、わざわざ枠で囲んだり目立つようにしてるメニューには要注意で、これはほぼ間違いなく店主さんが売りさばきたい料理なのですよ(あぎゃー旬の看板料理だと思って頼んでしまってるカモ!)。ちゃんとメニューは最後まで読みましょう。お洒落なレストランでは一番最後に一番お値頃な料理があるもの。安いの頼んじゃって悪いなーとか遠慮する必要はありません。

以上、次回オーダーするときのご参考にね。自分は絶対騙されないぞ~の心構えで、メニューは自分の好きなように読みましょう。そうすれば高価過ぎるアイテムも避けることができるし、隠れたお宝を掘り当てられます。嫌な顔されるかもだけど、お金払って食べるの自分だし。

[International Journal of Hospitality Management and The Guardian; Image: Raison Descartier]

JAMIE CONDLIFFE(原文/satomi)