切ない結果を生まないために。
みんなのお気に入り、InstagramがFacebookに買収されました。小さなスタートアップ企業が巨大資本に取り込まれるケースはこれまでにも何度もあり、買収額が話題になったり、そのメリットが語られたりしました。でも実際、そこで生まれるメリットは株取引による経済的なものだけであって、ユーザーが恩恵を受けた例は多くなかったのではないでしょうか。
特に買収される側の企業が熱心なユーザーベースを持っている場合、たとえばYahoo!に買収されたFlickrや、AOLに買収されたBrizzly、Googleに買収されたBloggerやDodgeballなどがそうでしたが、それまでの輝きが失われてしまうことが少なくありませんでした。ソーシャルカレンダーサービスのUpcomingはYahoo!に買収された企業のひとつですが、その創業者のアンディ・バイオさんがInstagram買収に関してこんなツイートをしていました。
6人のチームがインターネットの巨人に買われた。はたしてうまくいくのかどうか?
もちろん、InstagramもFacebookも、「今後も何も変わらない」と言っています。でもそれは、みんなの不安感を抑えるためにとりあえず言っているだけのように聞こえてしまいます。
とはいえ、Facebookがうまくやってくれる可能性もあります。でもそのためには、以下のルールが必要だと思います。
1.Instagramのチームを維持すること
Instagramが少数精鋭チームで運営されているのはよく知られています。そんなチームのメンバーは、すごく大事なものを共有しています。ビジョンと優れたサービス、そして、手を抜いたり信念を裏切ったりせずにそれを改善していこうとするシャープな意欲です。
小さな会社が大企業に買われたときにありがちなのは、そういうコアなメンバーが2、3年のうちに離れていってしまうことです。
そんな事態を避けるために、FacebookはInstagramの血統を守って、人事も独立させておくべきです。やっちゃいけないのは、組織文化の違うFacebook社員をInstagramに流し込んだり、他の部門と並列の一部門にしてしまうことです。Facebookの開発チームがInstagramのメンバーにFacebook流のやり方を押し付け始めたら、彼らは去っていくでしょう。Instagram共同創業者のケビン・シストロムとマイク・クリーガーを辞めさせずにサービス作りに専念させることが、Facebookにとっての最重要課題です。彼らのどちらか一人でも「他の目的を追求するため」に去ってしまうとしたら、そのときInstagramは、死んでしまうでしょう。
2.Instagramをオープンなままにすること
Facebookは、InstagramとTwitterやFlickrなど他のソーシャルサービスの連携はそのままにしておくと言っています。その通りになれば素晴らしいのですが、その姿勢はFacebookのカルチャーと真逆です。たとえば、TwitterやFlickrのフィードはFacebookにインポートできますが、その反対はできません。そしてそれは、設計思想上そのようになっているのです。
Facebookは、ユーザーのデジタルライフを可能な限り把握しようとしています。ユーザーのデータを、自分たちの広告を載せられる場所にとどめておきたいのです。Facebookにとっては、ユーザーを囲い込み、ゲームやニュースや音楽や動画を見せたり聞かせたりすることが何より大事なんです。
逆に、Instagramにとってはエクスポートすることが重要です。彼らのキラー機能は写真の加工ではありません。共有です。彼らが急速に成長したのは、彼らがオープンだからです。Instagramだけじゃなく、他のプラットフォームでも見られるからです。Instagramはこれからも、現状維持だけでなくさらにオープンにしていくべきです。たとえば、Facebookと競合するGoogle+との連携が実現されれば、今までの姿勢を継続するという強いメッセージになることでしょう。
FacebookとしてはInstagramを自分たちの独自機能にしたくなるかもしれませんが、それはInstagramの成長を阻むことになります。Facebookと違い、Instagramにポストされたものは原則オープンなもので、そこには大きな可能性があります。新しいユーザーが増えていき、おしゃれな食事や楽しいイベントの写真だけでなく、いろんな事件や暴動や革命といった現場の写真もどんどんポストされていって、それがタグで検索できたりするなら、Instagramはニュース収集ツールとしても成長する可能性があります。今まで以上に世界の記録ツールとして使われるようになり、より重要性を増していくはずです。FacebookがInstagramを完全に飲みこんでしまうとしたら、リアルタイムの放送ネットワークになるものを、旧態依然のコントロールされたメディアにとどめてしまうことになるのかもしれません。
3.十分なリソースを割り当てること
Yahoo!はFlickrを買収しましたが、その後必要なリソースを与えていませんでした。GoogleがDodgeballを買ったときも、そうでした。それは結果的に、写真共有に関してはInstagram、位置情報SNSではFoursquareといった後発サービスにチャンスを与えることになりました。
Facebookは同じ轍を踏むべきではありません。現状でもInstagramでは、サーバー側の問題でリクエストが完了されない事態がよく見られます。Facebookには、まずそういったリソース上の問題を解決するところからバックアップしていってほしいです。さらにFacebookの資本力があれば、Instagramはより多くのプラットフォームに対応してもっと使いやすくなり、もっと使われるようになっていくはずです。iOS、Androidと対応してきたので、次はぜひWindows Phoneを押さえてほしいですし、パソコンで使える公式Webアプリがもしできたら、使いたいです。
4.Facebookの一部にはしないこと
Instagramで良い感じに加工した写真、自動でFacebookにポストできますね。でもその逆はしませんし、する必要もありません。Instagramは、今のようにちょっと独特の存在なのがいいんです。
InstagramにはFacebookの「いいね」ボタンを付ける必要はありません。友達リストを統合したり、Facebookと無理に一体化させたりする必要もありません。Facebookのブランディングも不要です。Facebookの青い枠も要りません。Facebookの友達を誘う機能も要りません。Facebookにデータ移行したくもありません。
Instagramを「単なるFacebook傘下の一企業」にしてはいけません。 もしそうなれば、これまでに作り上げてきたInstagram独自のつながりも文化も、あっという間に消えてしまうでしょう。そして、Facebookが支払った10億ドルも、無駄な出費で終わってしまうことでしょう。Mat Honan(原文/miho)