こういう製品をさらっと出してくるところに、ソニーの開発力ってすごいよなーと思うんです。
先月からはじまりました新企画「レビューモード」。ギズモードジャパンのスタッフが個人的に買ったもの、またはメーカーさんから貸りたものをじっくりと使ってGOODなところもクエスチョンなところもまるごとまとめてインプレッションする連載エントリーです。
ところでまるごとまとめての略ってなんだろう。まるごめ? まるめて?
今回は、ソニーのイヤホン「XBA-4SL」をピックアップ。バランスドアーマチュアドライバーを搭載した4WAYイヤホンです。イヤホンの中ではかなりお高めな1万8000円前後(Amazon調べ)ですが、はてさて、どれくらいの実力があるのでしょうか?
これって何?
イヤホンには大きくわけて2方式のドライバー(スピーカー)ユニットが使われます。1つはダイナミックドライバーといって、低音から高音まで幅広い帯域の再生が得意(普通のスピーカーユニットの構造と同じ)。もう1つは音量の小さい微細音も鳴らしてくれるバランスドアーマチュアドライバー。簡単に言ってしまえば前者は広く浅く、後者は狭く深く鳴らすという特徴を持っています。
もともとバランスドアーマチュアドライバーは補聴器の技術から生まれたものなので、人間の声の帯域さえカバーできていればOK! という背景があるんですよね。
でもバランスドアーマチュアドライバーを音楽再生用に使うようになり、帯域の狭さを改善すべく各社様々な手法にアプローチしてきました。その1つがマルチウェイ化。1機のドライバーだけだと狭く深い音になってしまう。なら、再生音域の異なるドライバーを複数使って広く深い音が鳴らせるようにしちゃいなヨ! という考えの元に生まれたわけでして。
この「XBA-4SL」もマルチウェイバランスドアーマチュアドライバーイヤホンの1つです。ツイーター、フルレンジ、ウーハー、スーパーウーハーという4つのバランスドアーマチュアドライバーを搭載して、キラっキラな高域からどっしりと沈み込むような低域まで1台でまるごめ鳴らせちゃいます。
どんな人に使ってほしい?
移動中にiPhoneやiPod、Androidなどでいい音楽を聴きたい人すべてにオススメしたい。このコ、音のバランスがすごくいいんですよ。
マルチウェイのバランスドアーマチュアイヤホンは高額な製品が多く、そして、その価格帯の製品はディープなユーザーが支えています。故に「あいつよりスゲえ」な性能が求められ、解像感に注力したモデルがメインとなります。しかしアナログ地上波から地デジに替わった際、アナウンサーの肌の荒れ具合が目立ってしまったように、超高解像なモノはいままで気にしなくてすんだこと、見なくてよかったものも気づかせてくれちゃうという欠点も。イヤホンの場合は、MP3などの圧縮音源は音がざらついている、という事実に、ですね。
それが「XBA-4SL」の場合、荒れ荒れな部分を絶妙に馴染ませつつも、レベルの小さな音もきちんと引き出そうとするんです。たとえるなら録音状態がうんちゃらなA●B48のトラックでも気持ちよく聞くことができるんです。
モニター的な精密さではなく、ある程度エッジを丸めたラウンジトーンなチューニングといえますね。
デザイン
ダイナミックドライバーと比べたら圧倒的に小さいバランスドアーマチュアドライバー。とはいえ、さすがに4機も内蔵しているだけあって、でっぷりとした体格のハウジングとなっています。耳にぴったりとフィットするイヤーピースを使わないと自重で角度がずれてしまうこともあるので、ここには注意が必要です。
使い方
フツーのイヤホンと同じように使ってください。ヘッドホンアンプですか? あったほうがよりステキなクオリティで聞き惚れられますが、iPhone直結でも大丈夫。十分いい音です。
何気に、ココもすごいところだと思うんですよね。普通のスマートフォンや携帯プレーヤーは低消費電力性能を重視しているために貧者なアンプが内蔵されているんですけど、「XBA-4SL」ならリスニングに適した音量を出せるんですから。
ここが「XBA-4SL」のベストなところ!
もう書いちゃいましたが、荒れた音源でも馴染ませて聴かせてくれるバランス感と、携帯プレーヤー・スマートフォン単体でも使える性能がGOODです。
加えてマルチウェイ構造による、全帯域における高解像性能が上げられます。高域はやや堅めなものの抜けがよく、開放的なトーンが楽しめます。中域はリアリティさを伴ったもので、密度も高め。ボーカルが一歩前に寄ってきてくれたかのようなサウンド。深いところから力強く伸びてくる低域にも惚れ惚れとします。
ウーハーに加えてスーパーウーハーもあることから重低音重視のモデルと見られがちですが、実はボーカル(それも女性ボーカル)の聞き心地を意識した音域バランス。意外にも主張は控えめです。
再生帯域に余裕があるので、70'sのクラシックから現代の高解像・広帯域な打ち込みサウンドまで、なんでもこなせる実力を持っていますよ。
あ、国内メーカー製ということもあり、大手量販店では試聴機が用意されていることが多いでしょうね。重要です。ここ重要です。
残念なところ
他社のマルチウェイバランスドアーマチュアイヤホンと比べると、解像感がイマイチ。あっちは3万円以上が当たり前ゆえに価格帯が違うし、XBA-4SLはニッチ層を狙った製品でもないことから仕方ないと思いますけどね。
ただ...個人的には付属のイヤーピースが合いませんでした。バランスドアーマチュアイヤホンはセッティングがシビア(音道と鼓膜が垂直になるよう、耳の中で音が乱反射しないようにイヤーピースを差し込まないとダメ)なのですが、イヤーピースだけで支える構造ながらハウジングが重めのためにズレやすいんですよ。
だもんでMONSTERのSuper Tips(社外製品のイヤーピース)でカスタマイズしました。
ヘンなところ
これといってはないかなー。ハイエンドとは言えないけど、コストパフォーマンスは絶大です。
その他
「XBA-4SL」に使われているウーハー、スーパーウーハーって面白いんですよ。構造はフルレンジと同じものなのですが、音道の穴が小さいほどローパスフィルターの効果が出るってことで、ウーハーは60ミクロン、スーパーウーハーは50ミクロンの穴になっているんですね。ネットワークレスで出力された音をそのまま重ねていますが、ツイーター以外は同ユニットと言ってもいいので、音のつながりが自然でステキです。
買いなのか!?
いいイヤホンが欲しい。でも面倒なのは嫌(ヘッドホンアンプとか使いたくない)という人には本気でオススメします。ただし昨今のエレクトロを聴くのでなければ、3WAY構造の「XBA-3SL」でもいいかも。こちらはAmazon調べで1万4000円前後です。
また多くのショップに試聴機が用意されていることから、「XBA-4SL」の音を基準として、「XBA-4SLよりも高域が元気なほうがいい」「XBA-4SLよりもボーカルに厚みがあるモデルが欲しい」と、店員さんに相談して自分ベストのイヤホンを探すというのも良さそうです。
なおボーカル曲しか聴かないという方は、低域・高域がやや落ち込み気味の「XBA-1SL」(Amazon調べで4000円強)だとボリュームをもちっと大きく上げることができるから、聴いた時の満足感が上乗せされますよ。PS Vitaなどのゲーム機と合わせるならウーハー入りの「XBA-2SL」(Amazon調べで1万円強)がベストかも。
ところで12日にはフジヤエービックが主催する「春のヘッドフォン祭2012」が開催されます。ソニーも出店するようですし、量販店では試聴できないハイエンドなイヤホン・ヘッドホンもずらりとそろいます。いい音を持ち歩きたい! という方は万難排してでも行くべきですよ!
XBA-4SL[ソニー]
(武者良太)