「スーツ装着」、「メカ」と言えば日本のお家芸ですよね。
日本でもいよいよ公開が迫ってきた、この夏期待の映画「アベンジャーズ」。アメリカンなヒーローたちが集結する本作ですが、意外なところに日本人クリエイターの職人芸が隠れているんですよ。「アベンジャーズ」に登場するヒーローの中でも一二を争う人気のアイアンマン、そんな彼のスーツ着脱シーンを手がけたのが、米ILM(インダストリアル・ライト&マジック)社でクリーチャー・ディベロッパーの肩書きを持つ山口圭二さん(トップ写真)です。
今回の「アベンジャーズ」の他にも「トランスフォーマー」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」、「スター・ウォーズ」などの大作を手がけてきた山口さんにギズ編集部でインタビューを敢行。アイアンマンのスーツ着脱の秘密を伺ってきました。以下にてどうぞ!
Gizmodo(以下、G):本日は貴重なお時間をありがとうございます。アイアンマンのスーツ着脱シーンを担当したとのことですが、これらを作るにあたってどこにこだわりましたか?山口さん(以下、山):スーツを脱ぐシーンはアイデアがプロダクションから来ていたので、そんなに悩むことなくリズム感よく作ればよかったです。スーツを収納する輪っかは当初4つだったのですが、それでは役者の顔が見えないということで2つに減らして、それでも見えないというのでC字型にして、常に役者の顔と体が見えるようにしました(以下、画像ギャラリー参照)。ただ、真ん中を無意識に歩いてくる俳優に位置合わせするのが難しかったです。新しいマークVIIスーツの装着シーン(以下、予告編 1:49~)もやったのですが、これはわりと自分が自由にやれました。「カプセル状のものがスーツに変わって装着する」と言われて、残りは色々なアイデアを自分で出して作ったのがこのシーンです。
普通にカプセルが人型になるのはつまらないので、ジェット機の形や日本のアニメとかを思い浮かべながら自分で自由にアレンジしました。
G:ジェット機とおっしゃいましたが、ほかに参考にしたものはありますか?山:漫画に出てくるメカニックなジェット機状のものですね。最初はカプセルしかなくて、真ん中を見ると胸があそこから始まるのはわかるけど、「あとは何?」という感じです。だから使いものにならないパーツはまず捨てる。でも、ただ人の形をしたスーツが中から出てくるだけじゃ本当につまらないんですよ。そこで、空中で方向変換するために羽がいるんじゃないかと思いました。背中の肩甲骨のような部品を外して、それが広がるようなアニメーションを付けて、もう一枚下にあるものもあわせて4枚の羽にしたんですよ。そして、ふくらはぎの部分をジェット噴射のパーツに見せかけて、太もものわきにあったパネルをカメラからみて羽に見えるよう広げています。そういうパーツを自由にアレンジして作りました。
G:アイアンマンの装着シーンでお気に入りのところはありますか?山:装着する直前のスーツが広がるところなんかがちょっとカッコイイと思います。これがものすごく難しくて、もうほとんどバラバラになり始めてるんですよ。なにかエアーブレーキがいると思って、実はさっきの肩甲骨パーツを2倍くらいの大きさにしてます。そういった無茶なことが僕みたいなクリーチャー・デベロッパーはアニメーターと違ってできるんですね、中の仕組みがわかっているから。それにこんな一瞬だったらわかんないから、大きな羽にしたっていいじゃないですか。どっかから垂直尾翼に見えるパーツを探してきてつけたりとか。もうバラバラに組み合わせてるんですよ。
G:一度スーツを分解して再構築している感じなんですね。山:そうなんですよ。でもパーツが足りないから、「アイアンマン 2」のデータも持ってきてます。中の銀色の部分が大体そうなんですけど、それを配置して盛っているっていう。アニメーションとしては存在するんだけど、アニメーションのテクニックだけじゃできないんですよ。今回の装着シーンは絵コンテもなくて、CGモデルもカプセルと人型のものしかない。その間はもうご自由にって。中間の形態をモデリングする時間なんかないので、自分でバラして作りながら納品状態まで持って行くという感じで。
腕の部分にしても、脚や肩などあちこちの部品を集めて作ってるんですよ。昔の日本のアニメの「宇宙の騎士テッカマン」であった、鎖帷子が体を巻いていくイメージで組み上げてこういうのを作りました。
でも、すると次のシーンではパーツが足りなくなるでしょ。だから何体分ものパーツを持ってきています。
G:じゃあ、これ実は1体分のパーツじゃないんですね。山:そう。これ、7体分くらい入ってるの。G:無意識に観ただけじゃわからないところまで丁寧に作りこまれているんですね。ちなみに、お仕事に使っている機材ってどんなものなんでしょうか?山:デルの64-bit、CPUがAMDの8コアのマシンですね。G:クリエイターさんだとMacという勝手なイメージがありましたが違うんですね。山:それだと足りなくないですかね、スペックが? あとメモリも半端じゃないメモリが入ってますよ。やっぱパーソナルとは言えないですね。グラフィックボードがNVIDIAだけど、それだけで3000ドル超えているようなものです。僕が使っていないときはレンダリングに使ったりもしています。
G:完全に一般向けとは次元が違いますね。山:一般向けじゃないですね。だってグラフィックボードの値段だけでMac買えちゃいますもん。ストレージやメモリも半端ないくらい大きいです。G:本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。映画「アベンジャーズ」は8/14(火)より3D/2D公開。兄弟メディアのKotaku JAPANでも山口さんとのインタビューを掲載しているのでそちらも是非ご覧あれ。「アベンジャーズ」の事をもっと知りたい方は、以前の「アベンジャーズ」特集もあわせてどうぞ。(ニール太平)