QWERTY配列の理由としてよく言われている説は、タイプライター時代に、打つ速度を落としてアームの衝突を防ぐためだ、というものです。あんまり速く打ってしまうと繊細な機械であるタイプライターのアームが干渉して壊れてしまうというのです。そこで続けて打つ回数の多いキーを離したという説です。すごくもっともらしく聞こえます。でもQWERTY配列を見てみるとちょっと変です。かなりの頻度で続けて打つerもedもesもそしてthも近くに配置されています。
京都大学の安岡孝一氏と安岡素子氏による論文によると、初期のタイプライターのテスターとして活躍したのは、電報のオペレーターであり、彼らのニーズに合うようにできたのが、QWERTYという不思議な配列だということです。Zを表す符号は、SEを表す符号と混同しやすく、特にそれが単語の始めだったりすると余計に判別しにくいのだそうです。そこでSはZやEの近くにある必要がありました。当然の事ですが、モールス信号の受け手は送り手と同じスピードでタイプライターを打つ必要があるわけですから、キーボードの配列は非常に重要だったと考えられます。キーボードがあって、それに人間が合わせるようになったのではなく、人間のニーズに合わせてキーボードが発展したのです。
このようにして生まれたQWERTY配列。現在では、この並びである必要性はないように感じますが、今でもダントツ普及している配列です。より効率的に入力できると言われているDvorak配列もありますが、普及率は高くありません。1882年に現在の配列が提案されてから、QWERTY配列は一人勝ちです。
現在、QWERTY配列に対抗しようとしているのは、KALQ配列。タブレットなどで両方の親指でタイプすることを想定して作られています。今後QWERTY配列がどうなっていくのか、ずっとダントツの普及率を誇り続けるのか、何か他のものがでてくるのか、それは分かりません。しかし今のところ圧倒的シェアを誇っていて、毎日お世話になっている配列が、モールス信号の受信手に最適化するように作られたという説を知っていると、毎日のタイピングもちょっと楽しくなるような気がします。
[Design Decoded via The Atlantic]
Image by Juan R. Velasco/Shutterstock
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