ジョナサン・アイヴ氏、UIでも良いデザインはできる?

  • author 福田ミホ
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ジョナサン・アイヴ氏、UIでも良いデザインはできる?

「デザイン」と一口に言っても、ハードとソフト。

iOS 7WWDCで発表されるまで、もうすぐです。今回のWWDCは、アップル製品のデザインに長く携わってきたインダストリアルデザイン担当上級副社長、ジョナサン・アイブ氏がヒューマン・インターフェース(HI)ソフトウェア部門の責任者になって初めてのものです。3次元でデザインしてきた人が、2次元の仕事のトップになるって、どんなものなんでしょうか?

現時点ではiOS 7がどんな風に変わるのかわかっていませんが、「フラットなデザイン」がキーワードのようです。ともあれ、そんな変化を起こすのはかなりのチャレンジだと思われます。

アイヴ氏の強みと弱み

2次元でも3次元でも、デザインのプロセスにおける基本的なリズムは同じです。問題が提示され、それについて学び、学んだことと自分の直観を元にアイデアを出し、そのアイデアをより洗練させ濃縮して、方向性を見出し、実際のモノ作りに反映するんです。その間には無数の議論や試行錯誤や行ったり来たりがありますが、基本はこんな流れです。なのでこうした意味では、アイヴ氏と彼のHIチームのメンバーは完全に同じ基盤を持っています。

ただその先には、もっと細かいニュアンスの違いがあります。

アイヴがUIにおいて新参者であることは、負担である一方強みでもあります。負担っていうのは、アイヴ氏の部下が彼を教育しなきゃいけないっていう意味です。デザインに関しては素早く判断できたアイヴ氏でも、UIに関しては彼の判断の結果どうなるかを理解するまでに時間がかかっていることでしょう。このせいで動きが遅くなっている可能性もあります。彼が提案することのいくつかは、UIを学び始めた学生が考えるのと同じことだったかもしれません。今は物理的にできないことを要求したり、使えるツールに驚いたりしたことでしょう。

でもそれが、彼の強みでもあります。「正しい」やり方を知らないってことは、従来のルールの制約を受けないってことでもあります。彼は部下たちの「業界での常識」に疑問を呈することもできるだろうし、彼らが思いもしなかったような提案もできるでしょう。また、動き遅れるのは必ずしも最悪の事態ではありません。iOSほど普及しているOSのワークフローを大きく変えるのは、ベテランのUIデザイナーでも気楽にできることではありません。

見えないもののデザイン

デザイナーの仕事の多くにおいては、工業デザインでもグラフィックデザインでも建築でも、見えないもののデザインが重要です。3Dでデザインする工業デザイナーであれば、オブジェクト全体をいっぺんに見ることはできません。スクリーンには背面も、側面も、それからボタンやポートもあります。手に持って使うものかもしれないし、テーブルに置くものかもしれません。内部のコンポーネントがあり、ユーザーとのインタラクションを支える外部のコンポーネントがあります。

さらに時間も考慮しなきゃいけません。製品は1日の中で、またはその製品の寿命の中で、変化していきます。それは配送され、アンボックスされ、設定され、設置されます。使われている時間もあれば、そうじゃない時間もあります。どこかにしまわれたり、そこから出されたりします。持ち歩かれたり、落とされたりもします。そして最後に、製品の寿命がきます。もっと言えば製品には過去のデザインの歴史も埋め込まれていて、そこからの制約もあります。iOSの場合、Skeuomorphismがあちこちで使われてきていて、それが「フラットなデザイン」になると言われる今回も引き継がれるのかどうかが注目されています。

でもそれらは、自分が見えないってことを意識している「見えないもの」です。もっと、見えてないことがわからないような「見えないもの」はどうでしょうか? 大事かもしれないと感じてはいるものの、理由を説明できないようなものです。そして明示的な何かに逆らっても問題を解決するときにこそ、真のブレークスルーが起こります。

見えるものと見えないもの両方を捉え、課題を解決することが、ユーザーエクスペリエンスをデザインするということです。アップルにしてもアイヴ氏にしても、デザインの話をするときに、見た目よりもその機能について語る傾向があります。デザイナーが製品の「美しさ」とか「素材」でない、見えない機能について理解する反射神経を養うには何年もかかります。アイヴ氏は何十年もかけてそんな本能を養ってきたはずです。

チームの力

インダストリアルデザインの経験があることによって、アイヴはUIに対してUIデザイナーと違うアプローチをするんでしょうか? それはわかりません。

アイヴは現代のインダストリアルデザイナーの中の、エリート中のエリートです。アップルで20年過ごしてきたことで、UIに関して一家言あるでしょうし、ソフトウェアに関する判断にも加わってきたはずです。特にハードウェアとソフトウェアの間のインタラクションを作り出さなきゃいけない第一世代の製品、たとえばiPodやiPhone、iPadなどはそうだったと考えられます。

見えないものまで本能的に把握できるようなレベルまで、これまでアップルで築かれてきたものを理解するには時間がかかります。でもそれは致命的なものじゃありません。アイヴ氏は、世界的に見ても最高のUIデザイナーたちと仕事をしているんです。それに、デザインのバックグラウンドがやはり強固な足場になっているはずです。大事なのは、アイヴ氏は何が世界レベルかを見分ける力を持っているってこと、彼が彼のチームにそのレベルの仕事をさせることです。そして目には見えないけれど、ユーザーが考え、感じ、体験するものまで理解しようとすることです。

Don Lehman(原文/miho)