タイポグラフィの歴史を5分でダッと説明するストップモーションアニメ(上)が超クールと海外で注目を集めています。
製作したのはカナダのマクマスター大学でマルチメディアを専攻するベン・バレット=フォレスト(Ben Barrett-Forrest)さん(23)。3年目のアニメーション科目の課題でショートアニメを作れと言われて始めたら、ついつい凝ってしまったのだそう。
出身地ユーコンの地方紙はこう紹介してますよ。
「たぶん15~20時間もかければ合格だったと思います。それが始めたらとてもそんな時間じゃ終わらない、課題よりずっと手間かかるってすぐに気づいて。でも、それでもいいやって思ったんです」
結局バレット=フォレスト君は2ヶ月暗い部屋に篭って500ワットの電球で照らしてる熱い中、ダンボールくり貫いて作った292個の文字を並べて2500枚の静止画像を撮影し、そこからストップモーションビデオをつくって、タイポグラフィ1000年の歴史を5分ちょっとの映像にまとめたのであった。
いや~アニメーターは1に忍耐、2に忍耐とは申しますが、ギズからもA 謹呈したいと思います!
[動画訳]
TYPE
IS
POWER
タイプは、言葉やアイディアをビジュアルで表現する力。
タイムレス(時間の風化に耐えるもの)。だけど絶えず変わってゆく。
ここではその変遷を一緒に辿ってみよう。
タイポグラフィを発明した人と言えば、ドイツのヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)だ。そう、こんな帽子を被っていた。
グーテンベルクが現れてコミュニケーションに革命を起こすまでは、みんな手で字を書いていた。普通は坊さんに頼んで。これは恐ろしく時間がかかる作業で、料金も高かった。
そこでグーテンベルクは手書きのブラックレター(Blackletter)をもとに活字をつくる(0:47)。これが世界初の書体(タイプフェイス)となった。
ブラックレターは縦の線が太く、横のつなぎの線は細い。格好いいけど、並べるとすごく詰まって見える。これはなんとかしないと...ということで生まれたのが...
ローマン体(ROMAN TYPE)だ。ここで見せてるのはカンブリア(Cambria)っていうやつ。たぶんみんなもワープロで使ったことあるのでは?最初のローマン体は15世紀にフランスのニコラス・ジェンソン(Nicolas Jenson)が考案した。これがその書体だよ(1:15)。
ジェンソンの仕事場は主にイタリアのヴェネツィアだった。それもあって古代ローマ建築に残っている書体に影響を受けた。直線と、一定の曲線。ずんぐりむっくり黒いブラックレターより、ずっと読み易い。ローマン体はたちまちヒットし、ルネッサンスの追い風に乗ってヨーロッパ一円に広まっていった。
ローマン体の次に起こった書体革命は、イタリック体(Italic)だ。ローマン体を斜体にした筆記体ベースの書体で、15世紀後半イタリア生まれ。もっと沢山の文字を詰め込めるからお金がセーブできる。そういう先進的な考えの人たちが生み出した。
感嘆符、コロン、セミコロンも生まれたけど、それは横道の話だよね。
書体はしばらく安定期が続く―。
やがて18世紀、イギリスでウィリアム・キャスロン(William Caslon)が考案した書体は、可読性という意味で全く新しいスタンダードを打ち出すものだった。と言っても前衛的なところはどこにもない。今オールドスタイル(Old Style)と呼ばれてるのがその書体だ(2:19)。
数十年後、同じくイギリスでジョン・バスカーヴィル(John Baskerville)がトランジショナル(Transitional)体なるものを考案(2:26)。
続いてフランスのディド(Theano Didot)とイタリアのボドーニ(Giambattista Bodoni)が考えたのが、モダン書体(Modern Style)だ(2:31)。
オールド、トランジショナル、モダン。今のセリフ体のほとんどはこの3つの書体のいずれかに分類される。各々どういう違いがあるんだろう?
オールドスタイルは、セリフ(縦線の飾り)が太く、太線と細線のコントラストが低い。
トランジショナルは、セリフが細く、太線と細線のコントラストが高い。
モダンは、セリフがものすごく細く、太線と細線のコントラストが超高い。
次、ウィリアム・キャスロンの曾孫ウィリアム・キャスロンⅣ。セリフにうんざりこいたキャスロンⅣ世は、これをバッサリ切って新しい書体を考案した。それがサンセリフ(Sans Serif=セリフなし)だ。
こっちはたちまち大当たり...というわけではなかったが、じわじわ超大型ヒットとなる。
第ニ次産業革命期には広告用に新しい書体が必要になった。書体は縦に長くなったり、横に広がったりし、主にビルボード(看板)やポスター用に使われた。変な書体もどんどん登場していった。
いろんな試行錯誤の結果、生み出された万人に愛されるフォントがエジプシャン(EGYPTIAN)書体、別名スラブセリフ(Slab serif)だ(3:35)。これはセリフがものすごく太い。タイトルによく使われるよね。
そして20世紀初頭。19世紀の複雑な書体への反動から生まれたのが、シンプルを極めた書体だった(3:48)。ドイツのパウル・レナー(Paul Renner)が考案したフトゥーラ(Futura、フツラ)だ。これは単純な幾何学の図形がベースで、ジオメトリック・サンス(Geometric Sans、ジオメトリック・サンセリフ)と呼ばれる。
相前後してイギリスのエリック・ギル(Eric Gill)が考案したのがギル・サン(Gill Sans)書体だ(4:06)。ジオメトリック・サンスに似てるけど、カーブはもっと緩くて自然。ヒューマニストサンス(Humanist Sans、ヒューマニストサンセリフ)と呼ばれる。
サンセリフ書体で次に起こった大異変は1957年スイス、ヘルベチカ(Helvetica)書体の誕生だ(4:17)。カーブはシンプルで、太さはいろいろ。ヘルベチカは「世界が好む」書体と呼ばれた。
コンピュータの登場で書体の世界も永久に様変わりした。初期の画面は技術も原始的で、斜線がピクセルでガタガタになる問題を抱えていた。それも技術の進化につれ、美しい書体、変な書体が何百何千と生み出されるようになった。今では誰でも好きな書体が自分でつくれる。
以上、タイポグラフィ通史でした。
satomi(ERIC LIMER /米版)