映画祭にゲームソフトが出品されるというエポックメイキングな出来事がありました。
明らかにゲーム業界、そして映画業界にパラダイムシフトを起こすであろうその作品とは、「特殊な能力を持った女性の半生」という多様性ある物語をゲーム・フォーマットで魅せるPS3用アドベンチャーゲーム『BEYOND: Two Souls』。
このゲームが、10月17日~25日まで開催される東京国際映画祭に、ゲームタイトルではじめて出品されるんですって!
東京国際映画祭といえば、長編映画の天下一武道会といっても過言ではありません。映画よりも尺を伸ばせるゲームは長編ストーリー向きのフォーマットですが、それだけに全編通じてストーリー性の高いものでなくてはならないはず。
でも操作感の善し悪し、爽快感の有無、没入感の深さなどなど、ゲームはプレイアブルだからこそ体感・体験が重要ですよね? ストーリー性とゲーム性の融合はどう突き詰めているんだろう…とプレイしてみたのですが。…が!
これは新しくも素晴らしいコンテンツだ…!
目ヂカラ凄い! これがパフォーマンスキャプチャーの威力!
人体の動きをデータに落とし込むモーションキャプチャーの進化形、パフォーマンスキャプチャー技術を用いて、身振り手振りだけにとどまらない演技までも取り込んでいる『BEYOND: Two Souls』。たとえば上画像の場面では…
実際にこのようなかたちで撮影され、それを取り込んでいるんです。
だからこそ、目玉やまぶたの動きを後付けでアニメーションさせたゲームとは段違いのクオリティ! 骨や筋肉の動きまでも取り入れて、3Dモデル上で再現しているんですから!
たとえば沈黙を表すとき、テキストだと「…」や「っ…」、「…!」といった表現になりますよね。『BEYOND: Two Souls』は言葉がないシーンでも、目が雄弁に感情を語っている。不安、無関心、期待、喜びなどなど、様々な思いを描いているんですよ。
しかもプリレンダリングじゃない! リアルタイムレンダリング!PS3史上最高画質級なのに! まだまだイケるじゃないPS3!
もーね、涙が流れるシーンとか、雪の表現とか、細部もすごいんですよ。見とれちゃう。
グラフィックを見せるだけなら映画でいい。という方もいるでしょうが、『BEYOND: Two Souls』は会話中の選択肢によって、キャラクターの表情が大きく変わります。映画とは違い、プレイヤーが思ったままの言葉を選べるから感情体験が深いし濃い。この感覚、従来の映画でもゲームでも味わったことありません。
エレン・ペイジ可愛い&ウィレム・デフォーの熱演が光る
高精度なパフォーマンスキャプチャーを用いているだけあって、モーションアクターも超本格派を起用してますよー。
主人公ジョディ・ホームズは『JUNO/ジュノ』(2007)で大ブレイクしたエレン・ペイジ。さまざまな境遇に陥る難しいキャラクターのモーションと声をあてています。
途中、ギターで弾き語りをするシーンがあるのですが、これがまた美声で…。惚れる…。
こちらは、東京国際映画祭より一足先に出品された、トライベッカ映画祭(ニューヨークで開催されるロバート・デニーロらが主催する映画祭)での様子をまとめたトレイラー。
そして、研究者のネイサン・ドーキンス役はウィレム・デフォーですやっほーい! スキなんですよウィレム・デフォー! 『最後の誘惑』(1988)のイエス・キリスト役を見て以来! ジョディの親代わりとなる役どころですが、次第に明らかになっていく彼の本心が悲しい。
『BEYOND: Two Souls』は、霊体とコミュニケーションできるという不思議な能力を持って生まれたがために波乱万丈な人生を送ることになった主人公ジョディ・ホームズの半生を追体験するアドベンチャーゲーム。プレイヤーは彼女の幼少期や思春期、CIAの工作員時代やホームレス時代まで、様々な場面をプレイしていきます。
サイコスリラーでありラブストーリーでありアクションでありSFであり、チャプターによって移り変わるストーリーが従来のゲームにはなかった多様性を生んでいるのですが、個人的には家族回帰。スイートホームを求めてという側面を強く感じましたね。主人公だけでなくエイデンの視点でもプレイできる
特殊な能力を持ったがゆえに、周囲から疎まれていたジョディ。その原因となっているのが霊体のエイデンです。ジョディはエイデンとコミュニケーションをとれるけど、他の人はエイデンの存在に気づいていません。
ジョディと見えない鎖で繋がれているこのエイデンも、実は本作の主人公。プレイアブルなキャラクターなんです。
エイデンでできることは、物を動かす・壊す、壁を通り抜ける、敵を攻撃する、人を窒息させる・意識を乗っ取る、怪我を負ったジョディを治癒する、そしてジョディがいる場所から先の景色を見通し、音を聞くといったところ。
この力があるから、スニーキングアクションの幅も広がっています。
シンプルな操作性が感情移入を加速する
歩きまわったり、馬やバイクに乗ったり、逃げたり、戦ったりと、『BEYOND: Two Souls』はチャプターによって操作方法が異なります。ジョディを直接動かすときは三人称視点でレバー移動、エイデンを動かすときは一人称視点に切り替わります。
とはいえ操作が難しいということはありません。どの操作方法もジョディの心情をくみ取るための仕掛けとして有効な働きをしています。
なるほどなー、と関心したのが移動速度。レバーを倒す量で歩くスピードが変わるのではなく、ココロの動きでもって変化します。何もないとき、落ち着いているときは歩きで。焦っているときは早足で。
特別な事態でもなければ、屋内でランニングすることもありません。プレイをしていくうちに、状況によって変化するユーザーインターフェースからも感情が見えてくるんです。だからゆっくりとした時間が流れるシーンも、急展開を見せるシーンも、等しくハマっちゃう。
もういちど書いちゃうけど、従来のゲームの楽しさとは違う。映画やドラマを見ているのとも違う。なんだこれ。すごいな。
『HEAVY RAIN』を手がけたクアンティック・ドリームが制作
『BEYOND: Two Souls』の開発会社はクアンティック・ドリーム。1997年に設立されたフランスのゲーム制作会社で、現在までにリリースしているのは同作を含めてたったの4本。
しかし『ファーレンハイト』や『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』といったザッピングストーリー・アドベンチャーの名作を手がけている超実力派。あえて量産するのではなく、1つの作品を丹精込めて作り上げるゲームスタジオなんです。
唯一無二のストーリーを見せたい。でも映画というパッケージでは、クアンティック・ドリームの創造力をまとめきれない。だからこそゲームというフォーマットを選んで、『タイムギャル』(1985)や『Dの食卓』(1995)の系譜を受け継いだかのような、インタラクティブアドベンチャーの進化形を目指したのではないのでしょうか。そう、主人公とより深くリンクするために!
マルチエンディング&マルチストーリー。何度もプレイしたくなる
自宅が舞台になる幼女時代、研究施設内で反抗期を迎える10代前半、さらにはCIA時代、ホームレス時代…と、ジョディの各時代を時系列通りではなく、ザッピングしながらストーリーが語られていく『BEYOND: Two Souls』。選択肢によってストーリーが分岐して、映画というコンテンツ形態では見ることのできない「if」が繰り広げられます。
映画を見ていて「俺だったらこう言うのに」と思ったこと、ありませんか? 『BEYOND: Two Souls』はその「自分だったら」を選べるところに、映画以上に感情移入できるポイントがあるんですよね。ジョディとシンクロ率が高いからでしょうか。だからこそ最後は自分で人生を決められるというマルチエンディングが活きてくる!
個人的にはグラフィックもストーリーも2013年最高傑作。プレイ時間は15時間ほどだったから、1日2時間ペースで約1週間。皆さんも三部作の大作映画や上質な海外ドラマのDVDをコンプリートする感覚で、『BEYOND: Two Souls』でジョディと一緒に15年間の日々を送ってみませんか?
[BEYOND: Two Souls | プレイステーション® オフィシャルサイト]
(武者良太)