現地からの報道を見ると、プーチンの談話と2人用トイレの話題を別にすれば「ソチは全然まだ五輪の準備できてない」って話ばかりで、だんだんパニックモードに陥ってる気が…ソチ、本当に五輪開催できるんでしょうかっ!?
たぶん答えはYES。ただし、代償はかなり高くつきそうです。
現地の村はゴミだらけ
以下は開催2週間前のソチ五輪選手村付近でアレクサンダー・ヴァロフ(Alexander Valov)さんが撮ってきた写真です。メインの建物はほぼ完成してピカピカなんですが、周辺はご覧のように資材、ゴミの山。半分しかできてないホテルなんかもあって目隠ししていたり、ラストミニッツ感半端ないです。
この写真が出回った後の報道では、さらに以下のようなことがわかっています。
- 報道陣専用ホテル9ヶ所のうち完成したのは6ヶ所だけで、選手村・広場もまだ工事中のところが少なくない。
- 国際五輪組織委員会(IOC)は毎日、工事の進捗状況を確認しており、「現場上空にヘリを飛ばして見張ってる」という報道も。
- 不法投棄が村中で横行し、環境破壊が大変なことになっている。
- 五輪開催費用は400億ドル(4兆円)以上の予算オーバー。 これだけの予算オーバーは前例がない。IOCによると、ほとんどは横領で消えた。
もちろんここ20年、工期遅れと予算超過はどの主催地でも経験してることですが、それにしてもソチは頭ひとつ抜けてるんですよね(JBPressの比較チャートがわかりやすい)。
どうしてこんなことになったのか?
まず一番大きいのは、汚職です。 ソチの準備遅れの種はもう何年も前に蒔かれていたんです、金儲けの好機に群がったプーチンの取り巻きとオリガルヒ(ロシア新興財閥)に建設事業契約が回った時に。
あるIOC委員が1月中旬スイスのラジオで語った話によると、ソチ五輪予算のなんと3分の1は横流しか何かで消えたお金だそうですよ?
そうかと思えば、半ば脅迫のように業者に押し付けた発注もあります。「オリガルヒにとってこれは税金のようなものだ」と、ミハイル・カシヤノフ元首相は独紙シュピーゲルに語ってます。「ロシアでビジネスを続けたいならプーチンを助けないといかん」。で、例えば国営大手天然ガス会社「ガスプロム(Gazprom)」がなぜかクロスカントリースキー&バイアスロン競技センターから五輪村の3分の1、ソチ郊外の巨大発電所まで合計30億ドル(3050億円)分もの工事を請け負う、というようなことが起こったのです。
ガス会社ガスプロムが建てた五輪村(via Gazprom)あまりにも畑違いが目に余るため、五輪建設現場ごとに政治的裏話をまとめたマップ「Champions of the Corruption Race(汚職レースのチャンピオンたち)」まで登場しちゃってる始末。
当然のことながら、大型契約を任されたはいいものの、国営企業もビリオネアも結果を出す面で四苦八苦します。小さなリゾートタウンで大型工事を急ピッチで進めた経験が単にない、というケースも沢山あったんです。
さらに問題なのが開催地がソチなことです。ソチはソ連崩壊後発展した小さな村で、世界一大きな工事現場を支えるインフラもありません。さらに最悪なのが、ロシアでも珍しい亜熱帯気候で、雪が降る保証もないことです。1月に10日も雨が降って道がドロドロになったことが、さらにホテルの建設の遅れ(多くはまだ完成してないか、完成してても電球もまだついてない状態)に拍車をかけました。
遅れればその分、予算は爆発的に嵩みます。ソチ総予算は当初予算から400億ドルも余裕でオーバーして、五輪史上最高の510億ドル。前回のバンクーバー冬季五輪の総予算よりも400億ドル近く多いんです。バンクーバー大会の総予算投じても、ソチの会場間を結ぶ道路工事の費用にもならないほどの空前予算っぷり。
87億ドル(8840億円)の道路(via bamts.ru)よくよく調べてみたらこの道路も請け負ったのはウラジーミル・プーチンの長年のお友だち、国営ロシア鉄道ウラジーミル・ヤクニン社長だったのです。
それでも間に合う理由
こんな状態ですがソチ五輪、開催までには間に合うと思いますよ。現場に作業員7万人を投入してますからね。雨もやんだことだし、今頃は24時間態勢で残りの作業(と掃除)を進めているはず。道路はもうクリアになってます(信じられない人はBEFORE&AFTER写真をどうぞ)。五輪村も大体はプレハブなので、組み立ては数日もあれば終わります。あとは家具と得意の2人用トイレ置けばおしまいですよ、ははは。
Just to make clear, this is not photoshopped. You can see my reflection in the flusher. #Sochi#Olympic loo pic.twitter.com/LONZhbt6pZ
— Steve Rosenberg (@BBCSteveR) January 21, 2014
アテネ五輪もひどかったし、北京五輪では建設で死亡した人も6人いました。五輪に遅れや予算超過はつきものです。それを大げさに伝える報道も。
スノボ会場のエキストリームパーク。裏ではまだ工事が続行中。2月2日撮影。Photo by Julian Finney/Getty Images海外は他人の不幸が大好き。でも「IOC終わってる」とか言われつつ五輪人気は増すばかりです。ここ10年はドーピング疑惑やズルで競技に興ざめしてる人も多いので、ますます五輪主催地のことが話題になるのかもしれませんね…良きにつけ悪きにつけ。
隠れた代償
そんなわけでソチの場合、間に合うかどうかが問題なのではないんです(間に合う)。それによってどれだけの代償が生じるのかが問題。
まず環境への影響が大きいです。ロシアは「廃棄物ゼロ」だと言ってますが、ソチの野生保護区への影響は甚大で、国定公園も一部破壊されたし、巨大な採石場ができて井戸が干上がり、土埃が村全体を覆う被害が起きてます。建設業者も不法投棄・埋め立て地をこっそり作ってるようです。で、この作ってるのが例の87億ドルの超巨大予算の道路を請け負ったウラジーミル・ヤークニン氏(APが撮った証拠写真)だったりするんですよ…「飲み水が汚染されるではないか1」と非難轟々。
あとは現場で低賃金(or無銭)でこき使われる移民労働者の問題があります。ソチには4年前から中央アジアからの出稼ぎ労働者がドッときていて、人権団体「Human Rights Watch」がまとめた実態調査によると何万人という人たちが無銭働き、過酷な労働環境、暴力で苦しんでいるんですね。
セルビアとボスニアの労働者100名以上が何の説明もなく逮捕されて、給与の支払いもそこそこに本国に強制送還されたり。物申した途端、殴られたり。
いやあ、遅れるのも地獄、間に合わせるのも地獄。楽しいお祭りのはずなのにW杯も五輪もいつからこんなんなっちゃったのか…。もう東京五輪はつつましくていいよって思っちゃいます。
Images by Alexander Valov / BlogSochi.ru