SoundCloudをご存知ですか? 2007年にスタートしたこのサーヴィス、とてもシンプルなんですが、今とっても熱いんです。しかし一体何がすごいのでしょうか?
かつてMySpaceがそうだったように、SoundCloudは既存の概念を底からひっくり返す、現代の音楽ツールです。誰でも簡単に曲をアップロードでき、他のアーティストがアップした曲を聞いたりダウンロードしたり、共有したりも出来ます。このようなアーティスト間の相互作用が、SoundCloudの大きな特徴。もはやSoundCloud無しでは、現代の音楽界は語れないものになっているのかも。
TwitteがSoundCloudを買収する噂が持ち上がった時に、大きな話題となったのも納得です。それが実現しなかったのは、音楽界とその未来にとって、そして何よりもユーザにとって、とてつもなくラッキーでしたね。
なぜならSoundCloudのおかげで、音楽の世界はどんどん広がっていっているんです。ここで言う音楽とは、有名アーティストだけではなく、音楽を作った人誰でものことを指しています。発掘されていないインディーバンドや、無名ラッパー。それだけでなくビヨンセやドレイクといった大物まで、みんながみんなSoundCloudを使っています。SportifyやiTunes、最新のヒットチャートにのるよりも前に、SoundCloudに最新曲がアップされています。アップされる曲もさまざまで、後のプラチナレコードから、赤ちゃんが叩いたドラムの音まで、なんでもありです。
なぜSoundCloudはここまで人気なんでしょうか? それはなんといっても、全ての人がアーティストになるのに均等な機会を与えているという事。作曲してSoundCloudに投稿するのには、レコードレーベルとの契約や高額な広告費などは全く必要ありません。1分ごとに12時間分もの音楽がアップロードされます。またアップロードの容量もユーザーに大変優しいのです。2時間分は無料でアップロードでき、4時間ならば55ドル、無制限ならば135ドルとなっています。つまりほとんどのユーザーにとって、SouncCloudはフリーで楽しめるものです。
この使いやすさこそSoundCloudの最大の魅力、そしてこのツールがここまで大きくなった理由と言えるのではないでしょうか。今やユーザー数はなんと3億人。去年7月には2億人だったので、1年間で1億人も増えた事になります。ものすごい成長率ですが、SouncdCloudのミュージシャンにやさしいプラットフォームを考えれば当然。
R.A.Cのメンバー、アンドレ・アラン・アンジョスさんは米Gizmodoに次のように語ってくれました。
今までいくつもの音楽配信ツールを試してきたけど、SoundCloudに勝るものはないね。何と言っても開始当初1番気に入ったのはアップロードできる曲の多さじゃないかな。今ならまだしも、2008年にこんなにも容量がサイトは少ししかなかったからね。それに僕たちみたいにエレクトロニックのクロスオーヴァーを作るアーティストにとって、コミュニティとしても最高だね。
音楽に熱中できる場所をつくり、音楽がかつてない方法で広がる、それがSoundCloudで起きています。
「SoundCloudは、ネット上の音楽文化を作り上げました。これからはそれリードしていく存在です。」と米Gizmodoに語ったのは、CTOであり共同設立者の一人エリック・ウァフルフォルスさん。
究極のミックステープ作り
実際に彼の言っている事は正しいでしょう。SoundCloud上でいろいろなアーティスト達がコラボレーションする事が出来るので、従来考えられていたジャンルというものは、もはや無くなってきています。今まで考えられなかったコラボが出来るなんて、ワクワクします。
例えば2012年には、スヌープドックがSoundCLoud上でイザ・ラフというポーランド人のアーティストを発見しました。彼はイザの音楽にとても興味を持ち、なんと直接ポーランドまで飛んで、100曲近くもの曲(ウァフルフォルスさん曰く)をレコーディングした後、彼女との契約を決めたそうです。スヌープドッグはどうやらSoundCloudを大変気に入っているようで、彼のページに行けば、聞いた事もないような名前のアーティストの作品を彼が再投稿しているのをよく目にします。SoundCloud上の全てのアーティストがいいというわけではありませんが、新人発掘の場としては最高のようですね。
次にビヨンセ。彼女が去年の12月に発表したアルバムに、Bootsという無名アーティストが製作した曲が収録されていたのはご存知でしたか? Bootsもまた、ビヨンセの新アルバムが出るまでは全く知られていませんでした。インターネット上で、Bootsの正体探しが始まったとき、みんながどこを見たかと言えば...もちろん彼のSoundCloudページ。そこで彼がビヨンセに提供したと思われる楽曲の数々が見つかりました。そして6ヶ月後、今度はBootsが製作した素晴らしいミックステープをSoundCloud上に発表してくれました。このように、SoundCloudのページ見ればそのアーティストがどういう人でどのような作品を作っているのかを知る事が出来るのです。
ジャンルで見れば、Bootsはエレクトロニック、ビヨンセはR&Bとポップ、スヌープドッグはラップ、そしてイザ・ラフはそれらのどれともちがいます。しかし彼らが共に作品を作れば、もはやそれは既存のジャンルの枠を超えるのです。作品によっては、1曲で様々なジャンルを含んでいる事もあります。
毎日違ったジャンルとか新しい音楽が生まれているんじゃないかな。正直全部をフォローするのは難しいけど、SoundCloudで生まれたモノは刺激的だよね。2009年とか2010年かな、ダブステップっていう音楽が出来始めてきた頃なんだけど、SoundCloudは間違いなくそのジャンルの中心だったね。でも、ダブステップだけじゃない。他のたくさんのジャンル、それこそディープハウスの再ブレイクなんかもSoundCloudのおかげじゃないかな。今じゃエレクトロニック・ミュージックだけじゃなくて、全ジャンルで同じことが起こってるよ。(R.A.C)。
人気インディーレーベル「サブポップ」のマーケティング代表であるサム・ソーヤーさんは、SoundCloudでは音楽界の地図そのものが塗り替えられているといいます。
「サブポップ所属のアーティスト、ウォッシュト・アウトは史上最高にクールなチルウェーヴ・バンドなんだだよ。チルウェーヴなんていうジャンルは、インターネットがここまで発達しなかったら、まずできもしないもんだっただろうね。というか、そんなジャンルなんてたくさんあるよ、ウィッチハウスとか他のサブジャンルとかさ。そういう意味ではEDMはインターネットの進化とともに育ってきたと言えるはずだよ。SoundCloudのようなサービスなしでは語れない。SoundCloudは、音楽制作のすべてを変えたんだよ。今まで誰も聞いた事もないものを作れるし聞けるようになった。70年代の南部アメリカンディスコとかいう変なサブジャンルの音楽みたいに、それまでに誰も作った事のないリミックスやサウンドだって生みだす可能性をもってるんだよ」
広がる音楽界
新たな発見というのはインターネットの発達とともに、難しいものになってしまいました。でもSoundCloudでは違うんです。マッド・ディセントの創設者でプロデューサーであるディプロは、SoundCloud上にDiploApprovedというページを持っており、そこに今まで誰もが聞いた事のないようなアーティストの曲を投稿し続けています。彼は本気でみんなに聞いてほしいし、そうすべきだと考えているからこそ、この活動をしているんです。彼だけじゃなく、R.A.Cも同様です。みんながみんな、まだ見ぬ新しい音楽、歌手、そしてプロデューサーを発見して、音楽の可能性を広げようとしています。
リポストしたり、曲にコメントしたりする機能は、SoundCloudを便利で簡単なツールにしている理由の一つです。しかし、SoundCloud上で最も欠かせないのは、「Embeddability」、つまりSoundCloudをFacebookやツイッター、もちろん米Gizmodoにも埋め込めるということなんです。 音楽紹介サイトやブログなんかを見れば、一目瞭然、どこもかしこもSoundCloudだらけ。しかしウァフルフォルスさんは、これも計画通りである、といいます。
他のユーザーとどのように交流するかは、ネット世界では大変重要になってきました。今は誰もがクリエーターになって、何をどうシェアしていくのかを決められます。ヴァイラルでネットでの人気を作り出すのは、もはや著名人だけがもつ特権ではないと言えるでしょう。
またSoundCloudの「全能性」のおかげで、音楽業界全体の戦略は大きく変わりました。
ソーヤーさんは
SoundCloudが開発される前より、アルバムのプロモーションは大変楽になりました。8年くらい前では、自社のウェブサイト上に曲をのせて、ダウンロードしてもらっていましたが、今考えると、売り手としては受動的すぎます。その頃はまだMySpaceすらなかった時代なので、買い手ががんばって音楽を探さなければならなかったんですよ。それが今は全くの逆です。SoundCloudでは、ユーザーに直接音楽をフィードできるんです。と言っています。音楽界も、よりアクティブに売り込めるって言う事ですね!
唯一の難点といえば、いいものが永遠にタダであるわけではない、ということ。もしかするとコレからは、SoundCloudのページを開くたびに広告が出てくる、みたいな事になってしまうのかもしれないんです。SoundCloudが米Gizmodoに語ったところによれば、マネタイゼーション、つまりどうやってSoundCloudから利益を生み出すか、というのが次なるステップであるとのこと。でもそれも彼らにとっては苦渋の決断なんです。そうでなければ、先のツイッターによる買収騒動のような事が、実現しかねません。不幸ながら、過去に大きな競合相手に買収され消えていった素晴らしいサ−ヴィスは、数えきれるものではないでしょう。
とはいえSoundCloudの周りには噂が絶えません。メジャーレーベルとライセンス契約について話しているだとか、YouTubeと同じようなプリロール広告システム(音楽が始まる前に広告を流す)を取り入れるだとか。まあそれですんでくれれば、まだいいほうでしょうか。
今、音楽業界ではたくさんの事が起こっています。新たなアーティストの誕生、聞いた事もないようなジャンルの音楽、従来の常識をひっくり返すようなビジネススタイル。SoundCloudが大きくなればなるほど、音楽界の可能性はどんどんひろがっています。こうしている今でも。
Leslie Horn - Gizmodo US[原文]
(Tomo)