ライカTレヴュー:カメラはただの贅沢品ではなく、ツールであるべき

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    ライカTレヴュー:カメラはただの贅沢品ではなく、ツールであるべき

    質もデザインも文句のつけようがないドイツのカメラメーカー、ライカが新しいカメラを発表すれば、いつでも注目の的。初のミラーレスカメラであるライカTを発表したときも、それは同じでした。でも高いお金を出すのであれば、質もそれに見合うべきでしょう。

    ライカTとは?

    16メガピクセル、APS-Cセンサ搭載のレンズ交換式ミラーレスカメラ。ライカが新たに開発したTマウント対応ですが、Mマウント用のアダプターもあります。お値段は1,850ドル。

    何がすごいの?

    ライカは高級カメラメーカーとして名高く、ライカMシリーズは世界中のカメラマンたちに長く愛されてきました。カメラもデジタル化が進む中、Mシリーズのデジタル版も多くの人が手を出せないような値段ではありながら、賞賛されてきました。誰しもが、ライカからもっとコンパクトで、身近なカメラが出るのを望んでいたのです。ライカTは、まさにそれでした。いや、そうなるはずだったのです。

    デザイン

    きっとここでは、ライカTが洗練されていて、シンプルで素敵である、なんて延々と書かれることが期待されているのだと思います。ライカから今まで以下のものが発表されるなんて、誰も想像すらしないでしょう。それでも、私はライカTがかっこいいカメラだとは思いません。かっこいいと思われるようなデザインの要素―まっすぐで、途切れないライン、余計な装飾はない、1つのアルミブロックから削りだされたシームレスなボディは、全て兼ね備えています。ですが、シンプルなはずのこのカメラ自体が、ただの大きな飾りにしか思えないのです。まるで使うために作られたツールではなく、ディスプレイ用に作られた美術品のよう。

    もちろん、美しいと思う人もたくさんいるでしょうし、それは素晴らしいことです。ですが、問題はライカTがデザインと使いやすさを引き換えにしてしまっている所。アルミボディはなめらか過ぎて、ホールドしにくい。上部にある2つのダイヤルは見て確認しなければ区別がつかないし、ボディに馴染みすぎている。ストラップホールは、ライカ純正のもの以外は使えそうにない上、そのゴム製のストラップは調節もできなければ触れるもの全てにくっついてしまいます。

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    デザインはカメラにとって大切です。でも、そのデザインはあくまでもカメラとして使いやすいもので、オブジェとしてではないのです。ライカTを持って外を歩いていたとき、とても不安でした。周りに溶け込みたいカメラマンとは裏腹に、とても目立つ上、まるで宝石のネックレスを首に巻いているような気持ちになりました。「綺麗な私を見て!」ではなく、「お願いだから捕らないで!」と言ってしまいたくなるような感じ。

    デザインにはアウディ社のチームも関わっています。そう、あのかっこいい車をたくさん生み出してきたアウディ。デザインと機能が兼ね備えられている車はデザインできても、カメラでは同じようにいかなかったみたいです。ビルを設計するのにファッションデザイナーを雇わないほうがいいように、カメラも車のデザイナーに任せないほうがいいって事ですかね…

    使ってみて

    ライカTの操作は、ほぼ3.7インチのタッチパネルディスプレイで行います。600ドルで別売りの(大きくて、これまたかっこよくない)デジタルビューファインダを買わない限り、ディスプレイ操作にはなれるのには時間がかからないはず。

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    シャッタースピードと絞り値ダイヤルを除き、全ての設定やコントロールはタッチパネルで。UIはシンプルですが、初めは少しとっつきにくいかもしれません。四角いグリッド式のインターフェースは、動かして順番をカスタマイズすることも、消してしまうことも可能です。

    設定は大きく分けると3つに分かれています。モード設定、キャプチャ設定、基本設定となっていますが、どう分けてあるのかはあいまいなところ。モダンでスマートフォンのようで、「あの設定、どうやって変えるんだっけ?」なんてこともほぼありません。同時に、タッチパネルの反応が悪いのはしょっちゅう、ISOも変えるのに何回かボタンを押す必要が。

    タッチUIでイラっとしてしまったのは、イメージプレヴュー。左右にスワイプして次の写真を見るのですが、すぐにラグを起こします。次の写真が見れるまで2秒近くかかるなんてことも! ピンチズームも、ひどい…

    いざ撮影となっても、オートフォーカスも競合機に比べれば遅く、あまり感心はできませんでした。オートフォーカスのモードは多く、タッチフォーカスや顔検出、スポットフォーカスなどありますが、ライカTからは一番使えるモードが抜け落ちています。通常、カメラには写真を撮り、次の一枚を撮るまでホイールなどでフォーカスポイントを変えることができます。ですが、ライカTでは一枚撮るごとにメニューに戻ってフォーカスポイントを決めなおさなければ、変えることができません。いちいちやってると、シャッターチャンスを逃してしまいます。タッチフォーカスでも、毎回スクリーンをタッチして、半押しは無効にしていなければなりません。マニュアルフォーカスモードは、3倍や6倍ズームでは問題ありませんが、拡大された画像はノイズが多くてきちんと焦点が合っているのか分かりにくいです。

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    現時点で発売されているTマウントレンズは、2種類です。23mm、f/2の2000ドルのレンズと、18-56mm、f/3.5-5.6の1750ドルのレンズ。どちらも鮮明な画が撮れます。23mmのレンズは、紫のフリンジが少し気になる気が。ズームレンズは、値段には割に合わない明るさだと思いますが、キットレンズに比べると差ははっきりしています。ライカは今後、Tマウントレンズのラインナップをどれくらい拡大していく気があるのでしょう?多分、次のレンズが発売されるのは来年。Mマウントレンズを持っているなら、400ドルのアダプタを購入することをおすすめしますよ。

    光学品質はライカの強みでもありますが、もっと質のいいセンサを採用しなければ綺麗な画は完成しません。ライカTに使われているのは、コンパクトデジカメのX Varioシリーズに使われているセンサーと同じものです。他社のAPS-Cのカメラと比較しても、同じくらいとでしょう。ISO3200までは、ノイズもそこまで気になるほどではありません。飛び抜けて優れた要素はありませんが、競合機とは勝負できてるくらい、でしょうか。動画はまた別の話。1,080pでも荒く、撮りたくなるものではありません。

    他もライカならではのこだわりが見えます。ストラップか固定された箇所は、ベアリングを軸に回るし、バッテリーはカバーに直接くっついてるし、この2点はいいんじゃないでしょうか。と思いきや、可倒式のフラッシュは、電源ボタンを強く押しすぎると出てきちゃうし。16GBの内蔵メモリは、SDカード忘れた時はいいかも。

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    f/6、ISO 800、1/125、18-56mm f/3.5-5.6レンズ使用

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    f/13、ISO 400、1/125、18-56mm f/3.5-5.6レンズ使用

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    f/3.5、ISO 100、1/125、23mm f/2レンズ使用

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    f/4、ISO 100、1/250、23mm f/2レンズ使用

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    上の写真を1:1でクロップしたもの

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    f/5.0、ISO 1600、1/80、18-56mm f/3.5-5.6レンズ使用

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    1/80、18-56mm f/3.5-5.6レンズ使用

    好きなところ

    作りはとてもしっかりしているし、バッテリをカバーと一体化させたり、ストラップホールなどのデザインは考えられている感じが。画質も高く、別売りのレンズもとても綺麗。タッチスクリーンは完璧ではないものの、UIなど分かりやすく作られていると思います。

    好きではないところ

    必要以上に人目を引き、デザインに気を使いすぎて使い心地まで気がまわっていない。撮影も、フォーカスが遅かったりインターフェイスのせいで時間がかかってします。ボディも、アクセサリーも、全てがとても高価。

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    買うべき?

    ノー。見せびらかすため、ステータスのためじゃない限り、ライカTより優れたカメラはたくさんあります。ソニーαシリーズ、オリンパスOM-D、富士フィルムXシリーズなど、ライカに比べればはるかに安く、ほぼ全ての要素で優れたカメラが手に入ります。ライカが多くのファンを持つメーカーだけに、とても残念な結果。今までライカはシンプルでありながらも、とても使いやすいデザインでカメラマン達を魅了してきました。ライカTは、今までの伝統を引き継ぐことはできず。ただの贅沢な飾りでしかなくなってしまいました。

    Michael Hession - GIZMODO REFRAME[原文

    (るな)