最近はApple WatchやMoto 360などスマートウォッチにもデザインと機能が揃ったモデルが増えましたよね。。IoT(Internet of Things)の進化は早い! しかしその革新は、一部のテック好きのためだけにあるものではありません。
世の中に目を向けると、高齢化社会や医療サービスなど解決されていない問題が山ほどあります。そのような状況を改善させ、人の生き方を本質から変えるかもしれないテクノロジーが、日本で生まれようとしています。
それは「杖」のイノヴェーション。
これは、盲導犬に変わる歩行支援デバイスとしての可能性を秘めた、通信技術やセンサをフル活用するスマートステッキ「NS_CANE」です。メタリックに輝く、このウルトラモダンなデザイン。普段イメージする杖の面影は全くありません。
このプロジェクトを手がけたのは、数多くの企業のコンセプトワークを手がけてきた日本を代表するコンセプターの坂井直樹さんと、フォーマルウェアで業界トップのカインドウェアのコラボレーションで実現しました。
カインドウェアは略礼服の文化を日本に作った先駆的企業ですが、同時にヘルス&ケア事業にも取り組んでいます。今回は創業120周年を迎えて、新たに立ち上げたプロジェクトとして坂井さんとのコラボで、この次世代ステッキの開発と製品化にチャレンジします。
「手から離れ難く、体重を乗せやすい」(坂井さん)デザインをベースに、全体を軽量なアルミで加工、先進性ある形状とデザインで杖を再定義しています。
このNS_CANE最大の注目点が、通信機能やセンサを組み合わせて、ユーザとなる歩行者と杖との間で、「歩行」という日常的な行動にリアルタイムなインタラクションを届けることです。
今回披露されたプロトタイプでは、街中に点在する道路上の色(黄色)を読み取るセンサを内蔵して、点字ブロックなどをユーザにヴァイブとLEDで知らせてくれる機能を搭載。ただしこの機能はこのプロトタイプ限定で、今後はもっとたくさんのインタラクションが付加される予定です。
最近では、センサ付きのコンタクトレンズをグーグルが開発している話や、新しいタイプの車いすの開発が進むなど、すべての人がよりハッピーな生活を実現するために先進テクノロジーの連携が加速しています。NS_CANEも同じ。
坂井さんは、このプロジェクトがデザインやセンサ技術、プログラミング、コミュニケーション機能を融合した、新たな情報の「相棒」という表現をしています。つまりNS_CANEは、スマホでもスマートウォッチとも違うアプローチでユーザの生活を変える、全く新しい形のコミュニケーション・デバイスなのです。
坂井さんとカインドウェアは2020年の東京五輪・パラリンピックを目安に製品開発とヴァージョンアップを繰り返して、人と社会に新しい価値を創出していくことを目指しています。
例えば路面の点字タイルにRFIDを埋め込んでNS_CANEでユーザが認識できるようにすることによって、日本全国で自治体や企業を巻き込んだ連携も可能になり、杖一つで都市や空間全体とユビキタスコンピューティングが出来るようになることを目指しているそうです。またグリップ部分に圧力センサを埋め込むことで、ユーザの握り方から疲労や異常を感知していくことも視野にいれています。
今後はセンサやチップの小型化が期待できるので、形状もこのプロトタイプよりもさらにスリム化してスマートなデザインになると考えているとのこと。
すでに数社から協力の申し出があったそうで、今後もさらに外部との連携を推進する方向で進んでいるそうです。さらに坂井さんは、製品化に向けてはオープンソース化も検討していくかもしれないと述べています。
現在NS_CANEは来年の製品化を目指して動き出し始めました。
都市空間がデジタル化する中でも、杖という道具や点字ブロックなど歩行支援のための環境は、長年大きく変わっていません。しかし、NS_CANEの登場が「歩く」ことを未来へシフトしようとしています。Apple Watchやグーグルグラスとは形状は違えど、「歩く」という日常的行動を拡張するIoTという考え方では、NS_CANEはアップルやグーグルら世界企業と同じベクトルに立っていると言えるでしょう。人とコトをつなぐコミュニケーションを再定義する日本発の技術の今後に注目です。
source: WATER DESIGN、カインドウェア、坂井直樹のデザインの深読み
(鴻上洋平)