Spotifyから消えたテイラー・スウィフト。ストリーミングはアーティストに不利?

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  • author 福田ミホ
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Spotifyから消えたテイラー・スウィフト。ストリーミングはアーティストに不利?

海賊行為に古い業界構造、アーティストはどうすれば正当な対価を得られるのか。

テイラー・スウィフトがSpotifyから自身の作品をすべて削除し、ストリーミング音楽サービスに対し批判的なコメントを発表しました。たしかに今、ストリーミングのスキームでアーティストに落ちるお金が少ないのは事実のようです。でもそれは、Spotifyのせいではありません

テイラー・スウィフトは先週、待望のアルバム「1989」をリリースしましたが、その直後に突然Spotifyから自分の曲すべてを削除しました。その理由は、クリエイティヴな人への敬意にあると言っています。

私が言えるのは、音楽も、音楽産業の風景も、あまりに早く変化していて、Spotifyみたいな新しいものはみんな、私にとってはちょっと壮大な実験のように感じるということです。

私は自分の人生をかけた仕事を、作曲家やプロデューサー、アーティスト、クリエイターの努力を公正にまかなうと思えない実験に捧げるつもりはありません。

そう、たしかにアーティストや音楽に関わるクリエイティヴな人たちの努力は、少なくとも現在、ストリーミング音楽サービスではまかなえません。でもその裏側には、今まで長い間アーティストとファンの間に立って利益を上げてきた音楽業界の構造があるようです。

Spotifyはお金を払ってる

一方SpotifyのCEOダニエル・エク氏は、ブログでテイラー・スウィフトに反論しています。それによれば、彼らは創業以来20億ドル(約2300億円)のロイヤリティを「レーベルやパブリッシャー、作詞家・作曲家やレコーディングアーティストの集金団体」に対して払ってきたそうです。でもそのうち、アーティスト本人に落ちたお金はほとんどないことが示唆されています。

彼はブログの中で、「ストリーミングではアーティストにお金が入らない」「入ったとしてもあまりに少額」といった「神話」を解消しようとしています。明言はしていませんが、Spotifyがアーティストを搾取してるのではなく、レコードレーベルがしているのだと匂わせています。というかストリーミングサービスがあろうとなかろうと、エク氏いわく元々音楽産業の成り立ち方自体アーティストのためになっていなかったんです。彼はこう言っています。

音楽産業の誕生以来そこに巣食ってきた多くの問題が、今も存在し続けています。さっき書いたように、私たちはロイヤリティ20億ドル以上を音楽産業に支払ったのですが、もしそのお金がクリエイターたちにタイムリーに、わかりやすい形で落ちていないのであれば、それは大問題です。

またエク氏はもうひとつの問題として海賊行為の蔓延をあげています。そして、Spotifyがなければ音楽に対価を払わなかったであろう人たちがSpotifyにはお金を払っていることを指摘しています。

アーティストの取り分

Spotifyの払ったという20億円のロイヤリティがどれくらいアーティストに落ちたのかはわかりません。ただTimeが以前この種の議論に関連して伝えたところでは、従来の物理メディアモデルでは、アーティストに落ちるお金はメディア販売額の10%以下であることが多かったようです。つまり音楽ビジネスでは昔から、アーティストの取り分はごくごく一部だったんです。

ただSpotifyの旗色が悪いのは、現在の数字で見れば、ストリーミング音楽モデルは従来のどんなモデルよりも個々のアーティストの稼ぎが少ないということです。ストリーミングサービスではアルバムであがるような1枚1000円、2000円という「売上」はなく、再生回数ごとに細かく対価が発生するだけです。エク氏は「50万回再生されれば3,000~4,000ドル(約35~46万円)になる」と言っていますが、単純計算すれば1,000回再生されても数百円ということです。

でもテイラー・スウィフトみたいにたくさん再生される場合はどうなんでしょうか。彼女くらい有名なスターになると、今の飽和したデジタル音楽市場でもたくさんアルバムが売れます。アデルとかトム・ヨークみたいにSpotifyから曲を削除した他のアーティストみたいに、テイラー・スウィフトはiTunesとか他の場所で売ったほうが売上は大きいはずです。

Spotifyでは実際どれくらい稼げるかというと、エク氏はもしテイラー・スウィフトがSpotifyにとどまっていれば、今年だけで600万ドル(約7億円)は稼げただろうと言っています。7億円!って庶民的にはすごいお金ですが、スーパースターにとってはピーナッツです。だって彼女の「1989」は最初の1週間だけで128万枚売れたんです。デジタルでの価格は12.99ドル(約1,500円)で、つまり1週間で約1660万ドル(約19億円)の売上をあげたんです。つまり「1989」1枚だけ、1週間だけで、彼女はSpotifyから得られたであろう売上3年分近くを叩き出したんです。だから彼女には、Spotifyにこだわる理由がまったくないんです。

ストリーミングサービスの存在意義

とはいえ、みんながSpotifyや他のストリーミングサービスから引き揚げてしまったらそれも問題です。だって、Spotifyがあるから海賊行為はしてない、でもわざわざダウンロードして買う気もないって人はどうすればいいんでしょうか?

だから単に「気に入らない人はSpotifyからどんどん削除してオッケー!」ってものでもありません。レコード会社としても、そもそもSpotifyみたいなサービスに作品を載せることに合意しているのは、従来のデジタル音楽売上では物理メディア売上の落ち込みをカバーしきれなかったからなんです。

1990年代後半から、音楽を盗むのがあまりに簡単になってしまって、音楽を買うという行為がもうオプションみたいになっています。お金を払わなくても音楽を聞ける状態がある限り、いかに「アーティストの生きる権利が…」といっても、お金を払わせる強制力にはなりません。でも、ストリーミング音楽サービスの月10ドル(約1,150円)にはお金を払う人たちがいます。それは少なくとも、無料よりはマシです。

source: Yahoo! MusicSpotify

Mario Aguilar - Gizmodo US[原文

(miho)