FBIはスティングレイや、それによる監視プログラムについて、ひた隠しにしています。なので、もしあなたがスティングレイの名前を聞いたことがないのなら、それはFBIにとっては願ったりかなったりということ。人々の位置情報などを携帯電話から集めるために、アメリカ中の連邦および地方警察機関がスティングレイを使っています。
これまでFBIは、スティングレイについてひた隠しにしていることで有名でした。…が、ひとつだけ、FBIの担当者がスティングレイについて公の場で話した映像があったのです。それはジェームズ・コーメイFBI長官が10月に語ったもので、最近、米メディアのMotherboardが記事にしたことで注目を集めています。さて、FBIはスティングレイについて、どんなことを話しているのでしょうか?
FBIが秘密にしているのは「悪人」にばれないようにするため?
動画の中でFBI長官は、長々と説明しています。
それ(スティングレイ)については、あまり話したくありません。なぜなら、悪人たちに犯罪捜査の方法を知られては困るからです。FBIと共同捜査でスティングレイを使う地方警察に装置のことを口外しないよう頼んでいるのはそのためです。善良な人々に隠すようなものは何もありません。悪人に知られては困るものがたくさんあるのです。
FBIがスティングレイについて話したがらない理由は、悪人たちにその仕組みを知られたくないためということ。これは「NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班」や「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」のようなドラマを好み、凶悪なレイプ犯を捕まえるためなら憲法で保障されている権利を侵すような手段を使ってもかまわない、と思う人々の心に訴えかける、ちょっと単純化しすぎた言い分です。ひっかかりませんよ!それは真実ではないし、プライバシー侵害の責任を逃れられるための言い逃れなんですから。
もちろん、FBIは殺人犯や小児愛者を捕まえるために、スティングレイ使用に関する新情報を隠すことが必要だと言い張っています。シアトル警察に送った書類から、その事実が発覚しました。
(スティングレイによる)高度な操作手法の機密を守ることは我々にとって重要である。(…) 手法を開示することは、対応する司法当局や人々、場合によっては被害者や証言の安全を脅かすものとなるだろう。当局がpingやトラッキングといったツールを用いるということは、その手段の有効性を保つために、隠しておかなければならない。情報を開示してしまったら、その捜査手法は使い物にならなくなるだろう。
FBIや警察が、スティングレイを使った現在進行中の捜査について語らない、というのは当たり前でしょう。でも、FBIが犯罪を調査したいということは、個人がFBIから監視されることを許す理由にはならないし、合衆国憲法第4条に反する権限をFBIに与える理由にもならないんじゃないでしょうか。
どのくらいプライバシーが侵害されているのか?
FBIはスティングレイの秘密を守るために、地方の司法当局に対して圧力をかけています。それは、誰かがスティングレイ装置の製造会社であるHarris Corporationについて情報公開法(Freedom of Information Act)に基づいて情報を得ようとした場合、FBIに知らせろというものです。
スティングレイによる監視プログラムは、捜査令状なしで家の中にある人の携帯に信号を送り、追跡し、位置情報を取得するというものです。ちょっと考えただけでも、これは不法な捜索を禁止する憲法第4条に反しているんじゃないかと思われます。さらに、スティングレイは電話の内容をくまなくチェックすることはありませんが、シリアルナンバーやその他の特定可能な情報を集めています。「それはまるで警察の捜査網のようなんです」と米国自由人権協会(ACLU)の弁護士、ネイサン・ウェスラー(Nathan Wessler)氏が米Gizmodoの記者に語りました。
ウェスラー氏によると、捜査が進行中の場合には機密保持という理由がつけられるようです。しかし、スティングレイがどのくらいの頻度で使われているのか、政府が使用する際にはどのような種類の法的な監視が存在するのかを知る権利はあるはずだともしています。さらに、犯罪者の情報を抜き取っている近くにたまたま居合わせただけの人のデータは保護されるのかという点も、知る権利がないとおかしいとも述べています。
「こうしたことは我々にとって、政府が法律を守っているか、そしてさらに厳しい保護が必要かどうか見極める上で必要となる、基本的な詳細情報です」と、ウェスラー氏はそう語りました。
ここで問題にしているのは、基本的な情報を公開することがFBIの捜査を台無しにするということではありません。このプログラムの合法性を問題にしているのです。
米Gizmodoの取材に対して、電子プライバシー情報センター(Electronic Privacy Information Center)の上級弁護士のアラン・バトラー(Alan Butler)氏は電子メールで以下のように述べました。
「当局が合法な監視を行うための能力を失わずに、その方法を透明化する方法は存在するのです。しかし今のところFBIには、スティングレイの使用範囲どころか、使用権限の問題すら解決するつもりはありません」
一般市民が知ることによって、スティングレイや似たような技術の効果がなくなる、ということもなさそうです。「これらの装置がどのように機能するかという公開情報はたくさんあります。今さらFBIから新情報が出てきたとしても、それがどう当局の捜査に悪影響を及ぼすのかよくわからないという話もあります」とバトラー氏は付け加えました。
例えば、2013年のあるなりすまし犯に関する裁判所の書類は、スティングレイに関する膨大な情報や犯人逮捕に向け、どのようにベライゾンが当局と協力して監視ツールを用いたのか、ということをすでに示しています。この情報開示によって、ほかの犯罪者が監視網を逃れたことを示す証拠はどこにもありません。
「スティングレイの追跡を逃れる数少ない方法は、携帯電話を持たないこと、もしくはCryptoPhoneのようなセキュアな機器を大枚はたいて買うことです」と教えてくれたのは電子フロンティア財団の上級弁護士のハニ・ファカリー(Hanni Fakhoury)氏です。終了した事件のスティングレイの使用頻度やプライバシーへの配慮を明らかにすることが犯罪者の逮捕に悪影響を与えるかもしれない、というのは言い訳がましく聞こえます。スティングレイがどれだけ使われているかを知って、犯罪者が携帯電話を持ち歩かないと決めるのなら話は別ですが。
誰がスティングレイを使えるのか?
スティングレイの使用について不安を感じているのは、電子フロンティア財団や電子プライバシー情報センター、米国自由人権協会といった団体や、ライターといった限られた人だけではなさそうです。
スティングレイについて説明を受け、一般市民よりも内情を把握している国会議員も不安を口にしています。米上院司法委員会の委員長パトリック・リーヒ議員とチャック・グラスリー議員は。エリック・ホルダー司法長官とジェイ・ジョンソン国土安全保障長官にスティングレイに対するFBIの姿勢を問う書簡を送りました。
我々は例外措置について不安を持っている。具体的には、FBIやその他の法執行当局が、通信傍受のターゲットではないにも関わらず、それらの機器(スティングレイ)が使われたことで情報を収集されてしまった個人のプライバシー侵害への懸念について適切な検討を行っているのかを憂慮している。得られた情報の保存を短期間にとどめ、収集後消去することにより、この懸念を解決できるとFBIが考えていることは理解している。しかし、その対応がプライバシーを守る十分なものとなっているかを疑問視している
エド・マーキー議員もこのような技術についての懸念を表明し、スティングレイと似たようなダートボックス(Dirtbox)と呼ばれる飛行機に隠された装置による監視プログラムの詳細の開示を求めています。
ただ、光明と言える動きもあります。ノースキャロライナ州・シャーロットの裁判官は、警察がスティングレイを使用する予定の際には、監視要求を詳しく調べあげる取り組みを始めることを決めました。メディアがスティングレイの話題を取り上げたことにより、裁判官もスティングレイの使用を簡単には許可できなくなったのでしょう。
フロリダ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州では、警察が携帯電話の位置情報を手に入れる場合、捜査令状をとらなければいけないとの法が定められています。ということは、FBIが令状なしでスティングレイを使った捜査をごまかそうとしているのは、法的にちょっと危ない橋を渡っているとFBI自身も気づいているからかもしれません。
人々はどのように電話が盗聴されるのかという方法を得ることもできますし、当局が盗聴するためのプロセスの詳細を知ることもできます。それで容疑者が盗聴される可能性が下がることもないでしょう。
結局、多くの人々が知りたいのは、どうやって、そしてどのくらいの頻度で、スティングレイを使って人々を追跡する許可が政府に与えられているかということです。その答えを知ることは、犯罪捜査を邪魔するものにはならないはずです。
Kate Knibbs - Gizmodo US[原文]
(conejo)