コンピューターにヒット曲は書けるのか?
ロボット技術や人工知能の進歩により、数年後には多くの職業が失われるのでは?なんて話題をよく耳にします。
これまでアートなどの分野は不可侵と思われていた部分もありましたが、「まるで悪夢」と話題となったグーグルのDeep Neural Net Dreamsを見る限り、安全領域はないのかもしれません。
そして次は「音楽」です。
今回、自動作詞・作曲システムを使った番組が、NHK総合テレビ「データなび」で放送されます。「NHK紅白歌合戦」の過去65年で歌われてきた約3,000曲を最新技術で解析し、再構築することにより、1950~60年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代、2010年代それぞれの「平均的な曲」が生まれたのだとか。
使われたのは、明治大学教授・東京大学名誉教授の嵯峨山茂樹先生が開発した「Orpheus(オルフェウス)」。入力した歌詞に合わせて自動で作曲し、合成音声で出力してくれるシステムです。その仕組は、「言葉のイントネーション解析」によるもの。例えば、「橋」と「端」のように、イントネーションによって言葉の意味は大きく変わります。それは歌詞も同じ。歌詞の内容を正しく伝えるためには、歌詞のイントネーションに従ってメロディを作る必要があります。この言葉のイントネーションを元に、メロディが作りだされるというわけです。また、調や拍子の指定、伴奏楽器の選択など細かい設定が可能なため、ジャンルを問わない幅広い曲を生み出すことができます。ではオルフェウスを作って具体的にどうやって平均曲を作っていったのでしょうか?
「平均ソング」の作り方とは?

1. データ解析
立命館大学の樋口耕一准教授が開発したソフトウェア「KHコーダー」を使い、これまでの紅白で歌われた約3,000曲の全歌詞データを、データマイニング手法により解析。それぞれの時代を象徴する“頻出ワード”をリストアップします。1970年代の頻出ワードは以下のとおり。
1970年代の出現率上位ワード1位:恋、2位:人、3位:女、4位:愛、5位:涙

2. 作詞
続いて、その”頻出ワード”を、亜細亜大教授の堀玄先生が組んだ特別プログラムに入力し、自動的に「作詞」します。
1970年代の「紅白 The 平均ソング」歌詞恋は忘れるわ あああの人を待ちきれないで
待ちますかと二人 そんな男涙
あなたのように涙を愛す あなたのような女の愛
涙忘れればよ あなたが泣いた恋

3. 作曲
こうしてデータ解析と自動プログラムによって作られた詞を、嵯峨山茂樹先生が開発したソフト「オルフェウス」に入力し、メロディーを自動生成します。


4. アレンジメント&演奏
各時代によって使う楽器や演奏テクニックも異なるので、データとプログラムにより自動的に作詞作曲された楽曲を、一流アレンジャーが編曲し、プロミュージシャンが演奏します。

そして各時代の雰囲気を出す歌唱が必要ということで、モノマネでも歌声でも高い定評があるタレント、“ぐっさん”こと山口智充さんと、ものまねタレントの福田彩乃さんがボーカルとして起用されました。
今回ギズはスタジオでボーカルのお2人が歌う現場に潜入。山口さん、福田さんほか、作詞作曲プログラムを制作された堀先生と嵯峨山先生にもお話を伺いました。
コンピュータが作ったメロディーは歌いにくい?

山口さん「これは大丈夫なんですよ。50~60年代のは違和感ないんですけど、この後の時代は本当にめちゃくちゃ(笑)すごく気持ち悪い感じの曲が出ててきます。でも、くやしいかな、だんだん歌えてくるようになると心地よくなってくるんですよね(笑)とはいえ、僕は人間が作ったメロディーのほうが好きですね(笑)」
先生、今後ミュージシャンやアーティストはいなくなりますか?


テクノロジーは現状「道具」。でも未来は…?
今回の取材を通した限りは、現状では音楽においてテクノロジーはあくまで「道具」、というのが最前線にいる方々の見方のようです。
ただしテクノロジーの進歩はまさに日進月歩。今後はジョン・レノンの思考を再現し、彼が書けなかった新曲を生成することも可能になるかもしれません。この記事、そして番組を5年後振り返ったらどんな感想を抱くのか、楽しみなような不安なような…。どちらにしろ目が離せない分野なのは間違いないでしょう。

以上、最新テクノロジーと一流のスタッフやミュージシャンが集結し、各年代の平均的ヒットソングを制作するプロジェクトを紹介しましたが、気になる楽曲はNHK制作による特別番組「日本人が“なぜか”気持ち良くなる歌をデータで探るスペシャル」にて、12月26日(土)の生放送で公開されます。
また各楽曲はWebサイトでも公開され、カラオケバージョンもダウンロード可能になるようです。現時点での最新技術をたしかめてみませんか?
【放送】12月26日(土)午後9時~9時59分 (総合テレビ)
過去65年の紅白楽曲データから生まれた「紅白 The 平均ソング」を初公開。“ぐっさん”こと山口智充さん、モノマネ師・福田彩乃さんが歌いあげる!
膨大なビッグデータを、これまでにないビジュアルで表現し続けているNHK総合テレビ「データなび」。12月26日(土)は夜9時から10分拡大の59分間、生放送。2015年を締めくくる「NHK紅白歌合戦」の直前ということで、「紅白直前!日本人が“なぜか”気持ち良くなる歌をデータで探るスペシャル」と題してお届けします。
今回の目玉は、過去の紅白で歌われた「全楽曲」のデータを徹底解析して、独自に作った、その名も『紅白The平均ソング』。最新技術を駆使して、各時代の平均ソングを制作しました。歌うのは、“ぐっさん”こと山口智充さん、モノマネ師・福田彩乃さんのお二人。データ分析から生まれた曲をお二人が歌い上げ、生放送で初公開します。
source:NHKデータなび
(執筆・撮影、照沼健太)