たられば言っても仕方ない、けど、いろいろと悔やまれる。
ウォール・ストリート・ジャーナルが、米国ヤフーがコア事業であるインターネットビジネスの売却を検討していると報じました。ヤフーといえば日本ではもっとも影響力のあるWebサイト/サービスのひとつですが、米国では存在感を失って久しいのです。
売却検討されているコア事業には、FlickrやTumblr、そしてもちろんYahoo.comがふくまれます。インターネット黎明期にWeb閲覧のあり方を定義したサービスが売られてしまうなんて寂しい限りですが、ヤフーの経営陣が出口を探しているのは無理もありません。彼らはもうずっと長いこと、失速の一途をたどってきたのです。
ヤフーの凋落の歴史を振り返っていると、切なくて仕方ありません。きっとどこかのパラレルワールドでは、ヤフーは今も主要な検索エンジンであり、写真ストレージであり、日々使われるソーシャルネットワークでもあるはずです。でも現実世界では、彼らはもうほとんど何者でもなく、わずかにYahoo!NewsとYahoo!Mailがアクセスされ、あとはジャーナリストのケイティ・クーリックもまだいるんだろうなとか、そんな感じです。
ヤフーが今の惨状に陥ったのには、主にふたつの理由があります。ひとつはビジョンの欠如、そして、買収した企業を次々と死に追いやってしまう呪いのような経営手腕です。
以下は、ヤフーが現在に至るまでの失敗の歴史です。
グーグル買収の機会を2度逃す
1997年、ヤフーはグーグルをたった100万ドル(約1億2000万円! 現在の為替、以下同じ)で買えるチャンスを逃しました。理由は、David A. Vise氏の「The Google Story」によれば、ヤフーが自社Webサイトからトラフィックを外に逃したくなかったためです。
背景には、グーグルとヤフーのサービス設計思想の根本的な違いがあります。Google検索は、検索クエリに対してもっとも適切な答えをなるべく早く返すために設計されていました。それに対しYahoo.comのディレクトリは、ユーザーの問いに答えつつもYahoo.comにとどまってもらうように作られていました。彼らが目指していたのは、ユーザーにYahoo.comになるべく長くとどまらせ、物を買わせ、広告を見せ、メールチェックやゲームをさせ、たくさんのお金を使わせることでした。
それから一気に5年後、ヤフーはまたグーグル買収のチャンスに遭遇しました。このときヤフーは、すでにGoogle検索をYahoo.comにおけるエンジンとして使っていました。当時のテリー・セメルCEOは、部下たちから「グーグルの価値は最低でも50億ドル(約6100億円)」と助言されていたにもかかわらず、30億ドル(約3700億円)というオファーを出したのです。2007年のWIREDの記事によれば、セメル氏は部下にこう言ったそうです。「50億だか70億だか100億だか、俺はあいつらのホントの価値なんぞ知らんし、お前らもわかってない。こんなことやるわけねーんだよ!」彼はその後、それを最大の愚行として悔恨の念を吐露しています。
結局ヤフーはグーグルと縁を切るべく買収を重ね、ついに2004年、Google検索をサイトから外しました。その後グーグルはさらに繁栄を極め、ヤフーは衰退していきました。
フェイスブックも取りこぼす
フェイスブックには、知られているだけでも11件の買収オファーを断ってきた歴史があります。名乗りを上げたのはグーグル、バイアコム、そしてヤフー、などです。2006年、ヤフーはフェイスブックの投資家たちと売却交渉を進めていましたが、株価低落で10億ドル(約1200億円)相当のオファーが8億7500万ドル(約1100億円)に目減りしてしまいました。そしてフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、その取引から手を引いてしまいました。
マイクロソフトからの買収提案を蹴る
2008年、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOはヤフー買収に非常に積極的でした。彼らは当時検索エンジン競争の中で確固たる2位につけていたのです。同年2月、ヤフーの取締役会はマイクロソフトの440億ドル(約5兆4000億円)というオファーを「安すぎる」と判断しました。ニューヨーク・タイムズによると、ヤフーは「ヤフーの事業が衰退しているという見解に異議を唱えた」そうです。ただ一応、ヤフーは2009年にマイクロソフトと契約を結びはしましたが、それは自前の検索機能をマイクロソフトのBingに置き換えるという内容でした。
Flickrを枯れさせる
ちょっと前の時代、ネット上での写真共有といえばFlickrでした。Facebookが普及する前、それはほとんど写真共有のデファクトになりつつありました。でもヤフーはFlickrをソーシャルネットワークとしては捉えず、社内的な考え方によってそれをゆっくりと殺してしまったんです。2012年のギズモードの記事にもこうあります。
「Flickr買収の理由はこれでした。ユーザーのコミュニティではありませんでした。そんなのはどうでもよかったんです。Flickr買収の理由は、ソーシャルコネクションを強化するためではなく、多くの画像のインデックスをマネタイズするためだったのです。コミュニティもソーシャルネットワーキングもどうでもよかった、ユーザーなんて気にもとめていなかったんです」
この目の付け所の違いが大きな問題となったのだ。当時、ウェブは急激にソーシャルの方向へと成長しており、Flickrこそ、その最前線だったのである。グループ分けしてコメントする、人と繋がる、まさにソーシャルの全てが花開こうとしていたのだ。しかし、ヤフーはそれをただのデータベースとしてしか見ることができなかった。
自らをテック企業だと考えず
ヤフーはいつも、メディア企業なのかテック企業なのかと困惑されがちです。コンピューターサイエンティストでベンチャーキャピタルY Combinatorの創設者であるポール・グレアム氏は、ヤフーがなぜグーグルやマイクロソフトとは異なる奇妙なテック企業となってしまったのかを分析しています。いわく、ヤフーはソフトウェアではなく広告から利益を得ていたので、自分たちはメディア企業たるべきと考えるようになり、スタートアップらしいカルチャーからも意図的と思えるほどに遠ざかってしまいました。グレアム氏はまた、ヤフーがその初期、テック企業の方向に進めばNetscapeのようにマイクロソフトにつぶされることを懸念したことも指摘しています。
Tumblrも犠牲に?
ヤフーによるTumblrへの投資は、今のところFlickr買収と同じ轍を踏んでいます。現在のヤフーCEOであるマリッサ・メイヤー氏は、Flickrをソーシャルネットワークとして成長させることをあきらめたかのように、すでにソーシャルネットワークとして成功していたTumblrをそのまま買収しました。当時彼らはまだ、利益を出していませんでした。
ヤフーはその契約締結直後から広告を出し始めました。さらに今年4月には組織的にもTumblrをヤフーの中に取り込み、さらに9月にはサービス上のリデザインもしましたが、それはユーザーの怒りを買っただけでした。このまま進めば、TumblrはGeoCitiesやFlickrといったサービスの二の舞いになってしまいそうです。
そう考えると、仮にヤフーがフェイスブックやグーグルの買収に成功していたとしても、その後どうなっていたかよくわかりません。
テコ入れ策も奏功せず
グーグル出身のマリッサ・メイヤーCEOは、2012年の就任以来ヤフーのV字回復を目指してさまざまな策を打ってはいますが、まだ大きな変化はありません。強いて功績はといえば、上記の(先行き不透明な)Tumblrの買収くらいです。
そんな現状が、コア事業売却を非常に魅力的にしている理由のひとつでもあります。これから、何をどう改善しようというしっかりしたプランがないように見えているのです。マイクロソフトがサトヤ・ナデラCEOの元で生まれ変わりつつあるように、誰かひとりの存在が流れを大きく変えられる可能性は決してないわけではありません。でもメイヤー氏がCEOになってからのヤフーの道のりは決して平坦でなく、未来の見通しもはっきりしないままです。
これからどうなる?
ヤフーがそのネットビジネスを切り売りしていくことになれば、最終的にはインターネットの誕生以来最大のテック企業の死となる可能性も十分あります。でももし結局彼らが事業売却しないことを選んでも、何らかの奇跡が起きない限り、我々はこのゆっくりとした凋落を引き続き見守ることになりそうです。
Illustration by Adam Clark Estes
source: WSJ、Wired、Cnet、TechCrunch、New York Times、Search Engine Land、Paul Graham、Yahoo!News、The Daily Dot
Darren Orf-Gizmodo US[原文]
(miho)