掃除や買い物など既存のオンデマンドサービスを使い倒して、やりたいことだけやる生活に。
もう10年以上前ですが、今は亡き祖父が「我々は昔の貴族よりもずうっと快適な暮らしをしてるよなぁ」としみじみ言っていました。いろんなものが機械化・効率化されたことで、私たちは毎日、300年前とかより多分ずっと美味しいものを食べて、清潔な服を着て、快適な家でゴロゴロできています。
それでもまだ、やっぱり貴族じゃない部分もあります。昔と違って冷暖房付きの家が快適といったって、掃除洗濯しないで放置していたらだんだんちらかって所帯じみた家になっていきます。美味しい食べ物も、健康で文化的な生活のための消耗品(例:トイレットペーパー)も、いちいち自分で買ってこなきゃいけません。たまには郵便局に行ったり、シャツのボタンがとれたりといったイレギュラーな事態も発生し、その都度ちょっと時間を割いてこなさなきゃいけません。その間パラレルワールドの貴族たちは、ほかの貴族と優雅に社交したり、ブランデー片手に葉巻をくゆらせたりしてるんです、多分。
週1で来てくれる執事
そこで、私たちの生活の貴族っぽくない部分をまとめて請け負ってくれるサービスが「Hello Alfred」です。バットマンに登場する執事アルフレッド・ペニーワースにちなんだ名前の通り、快適に生活するための一切合財をまとめて面倒見てくれるというコンセプトです。しかも、リアルにフルタイムの執事を雇ったらお金があっという間に飛んでしまいそうですが、Hello Alfredなら週32ドル(約3800円)から利用できるんです。現在のサービス範囲は米国のニューヨークとボストンだけですが、これからサンフランシスコやロサンゼルス、ワシントンD.C.、シカゴといった主要都市に展開していく予定です。
実際どんなサービスかというと、まずAlfredと呼ばれる執事役の人が、週32ドルコースだと週1回、59ドル(約7000円)コースだと2回、自宅に来てくれます。そしてその都度家の片付け、リストで指定したものの買い物、洗濯(クリーニング/ランドリー業者に持って行って、終わったものをピックアップ)をしてくれます。週1回でも、家をすっきり片付いた状態にしてくれるのってよさげです。さらに59ドルコースだと、トイレットペーパーや洗剤、水、ビール、などなどつねにストックしておきたいものをチェックして補充もしてくれます。
ただ、片付け以上の本格的な掃除や、クリーニング/ランドリーの費用は別料金になります。また「シャツのボタンを付け直してほしい」「実家に送る荷物を箱詰めして郵便局に持って行ってほしい」といったイレギュラーな要望にも対応してくれますが、そのへんもみんな追加料金になります。
これらのサービスを実現するため、Alfredたちはほかのいわゆるオンデマンド・サービスも利用しています。たとえば買い物は買い物代行サービスの「Instacart」、掃除には「MyClean」、そのほかの用事で遠くに行くときは「Uber」といった感じです。もちろんこういうサービスは自分で個別に契約して使うこともできますが、Alfredがそれらをマネジメントしてくれるイメージです。つまり「面倒なことを誰かに頼む」という手間まで引き受けてくれるんです。
どんな人がどんな風に使ってる?
ある意味究極の面倒くさがり屋向けサービスのような気もしてきましたが、実際どういう人が使っているんでしょうか? Bloomberg BusinessweekのClaire Suddath記者はこうまとめています(強調は筆者)。
ほかのHello Alfredユーザーと会話することで、彼らがみんな同じような消費者像にあてはまることが確認できた。その像とは、若く、独身で、知的職業に就いていて、新たな技術を取り入れるアーリーアダプターたちだ。この種の人たちの間では、Alfredはほぼ一様に高く評価されている。「最初はちょっとゴタついたけど、その後はすごく良いです」と言うのは31歳のCaroline McCarthy、デジタル広告企業に勤めている。Hello Alfredには最近、フィットネス器具の組み立てと、壁に絵をかける作業をしてもらった(作業はTaskRabbitに外注された)。35歳のDave Craigは、Hello Alfredのサービスエリア外であるコロラド州に住んでいるにもかかわらず、このサービスを使っている。彼は自宅に来てもらう代わりに、このアプリをほかのオンデマンドサービスを管理するための仲介人として使っている。「私はTaskRabbitを使っているし、買い物もしてもらうし、Alfredがそれを全部管理しているんだ」とCraig氏。「素晴らしいよ!」
Hello Alfredの創業者であるMarcela SaponeさんとJessica Beckさんは、「忙しくてお手伝いさんを雇いたいけれど、そこまでお金を出せない」という人のための「手が届くぜいたく」を目指してHello Alfredのコンセプトにたどりついたそうです。そしてまさに、ちょっと高収入でリア充で多忙な人に喜んで使われるというイメージ通りになっているようです。その種の人が自宅周りの雑事であくせくしなくて済み、ますますリア充な活動に時間を割けるようになるのがHello Alfredの意義、のようです。
オンデマンドサービス使い倒しで人生をより謳歌?
Hello Alfredのように、「自分でやればいいんだけど面倒なこと」を請け負ってくれるオンデマンドサービスはここ数年、雨後のタケノコのように発生しています。去年ウォールストリート・ジャーナルがまとめていたように、例えば車の駐車サービスの「Luxe」は、混みあった街中で駐車スペースを探す手間を請け負ってくれます。ほかにも、シェフを自宅に呼べるサービス「Kitchensurfing」、ヘルシーな食事をすぐデリバリーしてくれる「Sprig」、医師の派遣サービス「Heal」、ヘアメークサービス「Glamsquad」、子どもの送り迎えサービス「Shuddle」などなどなど、生活の衣食住あらゆる面をカバーしています。これらをうまく組み合わせたら、ユーザーは日常の雑事から解放されて、毎日楽しいこととかやりがいを感じることだけすればOK、となるのかもしれません。
ただ、BloombergBusinessweekのSuddath記者は、Hello Alfredをしばらく使ったうえでこう言っています。
2カ月後、私はついにHello Alfredの使い方をわかってきた感じがした。Instacartからの請求は自分で買い物に行く場合より高くもないし、クリーニングサービスを使うことで、職場にジーンズを履いていくこともしばらくなくなった。ただ、(注:Alfredが用事をこなすために乗る)Uberに毎月100ドル(約1万2000円)以上の料金を払うようになり、その見返りは週に数時間の自由時間だけだった。だから私は、Hello Alfredをキャンセルした。(略)なぜなら、これらの作業を自分でしなかった本当の理由は、正直に言えば忙しかったからではない。それは、クリーニング店が開いている土曜日、クリーニング店に行くよりも、遅くまで寝てブランチに行きたかったからなのだ。
つまり、週末にプチ贅沢をする程度のゆとりに週32ドル、月128ドル(約1万5000円)の価値を感じるかってことになりますね。ほかのオンデマンドサービスしかりです。また、雑事とか面倒とか言ってますが、「丁寧な暮らし」なんて言われてるように、ディテールまで自分でちゃんとやってこそ毎日が充実するのかもしれません。だって考えてみれば、タスクを外注することで、経験やスキル向上の機会といったお金以外のものも手放してしまうんです。
でもそんな感覚になるのは、Alfredが基本的にユーザーに言われたことを正確にこなしているだけだからかもしれません。もし彼らが本物の執事のように私たちの行動を先読みして、私たち自身も気づかないところまでお世話してくれるならどうでしょうか? 現在のHello Alfredは、ユーザーの要望をユーザー本人から直接受け取るだけです。でもたとえばGoogle Nowが直近の旅行先の天気予報を教えてくれるように、ユーザーが近々ビーチリゾートへの旅行を計画していたら、そっとクローゼットの奥から水着を出しておいてくれたり、日焼け止めを買うよう提案してくれたりしたらどうでしょう? ユーザーに関する知識をより自動的にインプットする仕組みと、それをサービスに柔軟に反映する仕組みがあれば、「週末プチ贅沢ができる」以上の価値が出てくることでしょう。伸びしろに期待です。
source: Hello Alfred via Bloomberg Businessweek、WSJ
(miho)