不妊には様々な原因がありますが、運動性の低い精子もその一つです。たとえ精子の運動性が低くても受精ができるように、ドイツの研究者たちは精子を卵子まで運んでくれるマグネット式モーターを開発しています。
精子にマグネット式モーター...ナノすぎてびっくりです。
いきなりニュースで知ると突拍子も無いテクノロジーに聞こえますが、時間をかけて開発されてきたもののようです。オリバー・G・シュミットさん率いる研究チームはこの前段階として牛の精子を使って実験をしていたとのこと。2013年に発表された実験では、牛の精子をごく微小な金属製のシリンダーに入れ、それを磁力を使ってコントロールすることができると示しました。ただ牛の精子を使ったこの実験では精子全体がシリンダーに閉じ込められていたので卵子を受精させることはできなかったようです。
その実験を踏まえて、ドイツのナノサイエンス研究所でシュミットさんの研究チームが開発したのが今回の精子にくっつけるマグネット式モーター。精子の尻尾の部分にらせん状の金属を巻き付けるように装着します。そして牛の実験と同様、磁力によってコントロールすることができるということです。Nano Lettersで研究の詳細を読むことができます。
論文冒頭の言葉がこのシステムをうまく要約しています。
私たちは人工的にモーターを取り付けられた精子細胞について紹介したいと思います。新しいタイプのハイブリッド・マイクロ・モーターは、カスタマイズされた微細ならせん構造で出来ており、それが運動性の低い精子を移動させるモーターとして働きます。それによって精子の自然な機能を支援します。
その装置を見てみると、ヒモみたいなものが精子の尻尾部分に絡まっているように見えます。実際はそれが金属でコートされたポリマーで、それが磁場によってくるくると回ることで前方に精子を推し進めるとのこと。磁場の方向を変えることで精子を意図した方向に誘導することができるんだそうです。
デモンストレーションでは、シュミットさんのチームは運動性の低い、しかし生きた精子を流体中で捉え、移動させ、放つ、ということができました。この流体は実際の人間の体内の環境に近いものであったそうです。まだ開発初期段階ということで臨床実験に至るまではまだ時間が必要なようです。
「人工的にモーターを取り付けられた精子によって妊娠を成功させるには幾つかの課題がまだ残ってはいますが、私たちはこの新しいアプローチが、今存在する治療の一部としてみられるようになる可能性はあると信じています。」と研究者たちは結論付けています。
不妊治療の新しいアプローチが生まれるかもしれないですね。
All images by M. Medina Sanchez et al., 2016/Nano Letters.
source: IEEE Spectrum, ACS
George Dvorsky - Gizmodo US[原文]
(塚本 紺)