スター・ウォーズをディズニーに40億ドル(4770億円)で売ったジョージ・ルーカスがTVの対談で新作「フォースの覚醒」をこきおろし、「かわいい我が子を奴隷商人(ディズニー)に売った心境だ」とうっかり口を滑らせて(動画2:02-)、あとで謝る一幕がありましたね。
ルーカスが口にした「white slavers」は白人を奴隷や売春に売る人のこと。誰がどう見ても立派な不適切表現なわけですが、ここに至るまでの氏の発言を辿ってくると、なかなかに味わい深いものがあります。
ジョージ・ルーカスは自分で用意した脚本をJ.J.エイブラムス監督に任せ、自分は顧問として製作に関わるつもりだったんですが、脚本をディズニーにボツにされ、第7作からは完全に手を引いています。
予告編で観る以外のことは一切知らされない生みの親。それでも1年前までは「これで何の前知識もなくスター・ウォーズを映画館で見るファンの気持ちに初めてなれる」と前向きに語っていました。
ところが封切りが近づくにつれ、別の感情がフツフツと湧いてきたんでしょう。11月18日のVanity Fairのインタビューでは「映画を作っても叩かれるだけで、あんまり楽しくない。新しい冒険もできないし」と降板理由を語り、第7作が自分の考えているSWとかけ離れたものになるんじゃないかという不安を口にしています。「これは宇宙船の話じゃないんだよ」と。
同じことは、翌19日に(不適表現以外のところだけダイジェストで)放映になったCBSのチャーリー・ローズとの対談でも述べています。
「結局いくらストーリーを見せても『ファンの喜ぶものをつくりたい』と言われてしまう、そこが問題だった。だから言ってやったんだ。僕がやりたいのはストーリーを語ることだってね。
要は宇宙の叙事詩さ。主題は家族の軋轢であって、宇宙船の軋轢ではない。でもそんなストーリー要らない、俺たちは俺たちのつくりたいものつくるっていうことになったので、『わかったよ…じゃあ好きにすればいい』となったのさ」
「ストーリーを語ろうとすると、ファンに叩かれる」という構図が巨匠の頭の中でできあがってしまっているのが、興味深いですね。監督はコアなSWファンにものすごい叩かれていたりするので、無理もないよなぁ…と思ってしまいました。対談ではさらに売却を離婚にたとえて、「元旦那としては別れた妻に電話したり、家に行ったり、行きつけのカフェをウロウロするような真似はしちゃいけないんだよ」と自らに言い聞かせています。ウロウロしたい気持ちを必死で堪えるジョージ・ルーカス!
さらに12月5日のワシントンタイムズの対談では、やるならやる、やらないならやらない、J.J.エイブラムス監督の肩越しにとやかく首を突っ込むのは現場にも良くないと判断し、「自分から離婚してやったんだ」と言っています。しかし離婚は自分の意志ではないので、理解のある先輩を演じるのも限界が。映画ができあがってくると、そうも言ってられない胸中をこう語っていますよ。
「子どもが大きくなって結婚式に出たら、別れた妻も新しい妻もいる。でも深呼吸して、いい人で通さなきゃならない。今はそんな心境だ」
水を差さないように必死でがんばるジョージ・ルーカス!
12月6日、映画封切り後のインタビューでは「ファンが大喜びしそうだね。みんなが待ち望んでいた映画だよ」と一応お祝いの言葉を述べていますけど、氏はファンの反応が大の苦手。それを知っている人の耳には、とてもほめ言葉には聞こえないのであります。
さて問題の奴隷商人発言は、11月19日放映のCBS対談のノーカット版がクリスマスに放映されて明らかになりました。必死にこらえていたのが、聞き上手のチャーリー・ローズのつぶらな瞳を前にしたらブワーッと出ちゃったんでしょう。ディズニー版は「レトロな映画を目指したところが、気に食わない」、「自分は惑星も宇宙船も全く違うものを製作して、新味を出すことにものすごく苦労したのに」と、手放した悔しさを今更ながら全身に滲ませていますよ。
ルーカス: あれは僕にとっては子どもみたいなものなんだ。
ローズ: スター・ウォーズ映画全作ですね。
ルーカス: スター・ウォーズ映画全作。
ローズ: 子どもみたいなものだと?
ルーカス: そう。僕が愛し、僕が生んだ。切っても切り離せないものだ。それを売り払うんだからそりゃもう…
ローズ: でも売った。
ルーカス: 売った。白人奴隷の商人にね。そして買った商人は…[力なく笑う]
「それで4770億円もらったんだから、生活のために泣く泣く子ども売った昔の人に対して失礼だよ!」と怒られちゃいますけど、不適表現はさておき言いたいことはわかりますよね。ジョージ・ルーカスがここまで率直に語ったものは、見たことないです。たぶん最初は割りきっていたんでしょう。でもだんだん悪感情が強まってきた。ディズニー版スター・ウォーズが好評になればなるほどそれに反比例するかのように。大企業が巨匠から作品をテイクオーバーすると、こんな化学反応が起きるんですね。
一番驚いているのは、ジョージ・ルーカスかもしれません。
Katharine Trendacosta - Gizmodo US[原文]
(satomi)