まさにレジェンド級エンジニアです。
仁義なき引き抜き合戦が行なわれていると噂のアップルとテスラ。その間を行き来するエンジニアも、とんでもなく優秀な人物です。electrekによると、テスラは今月マイクロプロセッサエンジニアのジム・ケラー氏を雇用しました。テスラはこの報道を認めており、ケラー氏はテスラでは自動運転のハードウェアエンジニアリング部門の副社長として働きます。
この引き抜きがなぜ重要なのか…それは、ケラー氏が昨年にはAMDでZenプロセッサの開発を3年間担当し、それ以前にはアップルでiPhoneのAシリーズプロセッサの開発に関わっていたからです。
ケラー氏は90年代にもAMDで働いていたことがあり、そのときAMDはインテルと熾烈なCPU開発競争を繰り広げていました。ケラー氏はAMDであの名プロセサ「K7」の開発にたずさわり、また後継の「K8」プロセッサも担当しました。
その後、ケラー氏は所属していたプロセッサ開発企業のP.A. Semiがアップルに買収されたのにともない、同社に移籍。今はなきスティーブ・ジョブズはプロセッサに「最高のグラフィック性能とアーキテクチャ」の採用を望んでおり、iPhoneのプロセッサ設計やMacBook Airの仕様決定を担当したケラー氏は見事にその期待に答えたのです。
ケラー氏とアップルやAMDで共に働いたこともある上司のMark Papermaster氏は、彼の才能についてこのよう絶賛しています。
ジム(ケラー氏)はプロセッサエンジニアリング業界においてもっとも尊敬され、また必要とされている人材だよ。それに、私のチームでも非常に大きな役割を果たしてくれたね。彼は世界中の数百万人が使うコンピューターの大きな進歩にプロセッサのイノベーションで貢献したし、今後も彼の革新的な試みや低消費電力設計における才能、クリエイティビティ、そして人々の将来とそれを形作る成功への原動力に期待している。
これだけ才能を評価されるエンジニアだからこそ、アップルやAMD、そしてテスラなど名だたるテック企業で重用されるのでしょうね。
テスラにおいて、ケラー氏の役割はプロセッサの開発だけではありません…が、やはり期待されているのは彼の「プロセッサの省電力設計」における、特筆した能力です。
例えばテスラのモデルSでは、前面に備え付けられた17インチのタッチパネルがラジオやカーナビ機能だけでなく、カメラやルーフの開閉を制御したり、航続距離の予想を表示するなどさまざまな機能を担っています。
このようなグラフィカルな表示と制御、そして部分自動運転機能の実装には、従来の自動車よりも高性能なプロセッサが必要です。また、電気自動車のモデルSではこれらの機能が航続距離に影響を与えないように省電力であることも求められます。

現在モデルSが搭載するプロセッサを開発するNvidiaは、自動車開発プラットフォームの開発キット「JETSON PRO」を自動車メーカーに提供しています。JETSON PROは、衝突回避や歩行者検出など、グラフィック負荷が高いアプリや、コンピュータービジョンを用いるアプリを使った運転支援システムの開発を簡単に行えます。テスラモーターズはモデルSにこのJETSON PROで開発可能なTEGRAビジュアル・コンピューティング・モジュール(VMC)を採用して車載インフォテイメントシステムの制御を行ってきたことで知られています。
テスラは将来的に、自動車の完全な自動運転の実現を目標としています。今後ケラー氏がどのようなアプローチでテスラの自動運転計画を発展させてゆくのか、大いに注目されそうです。
source: electrek、テスラ、Anandtech、Nvidia、re/code
(塚本直樹)