コアラを絶滅から救うには、大量の殺処分が必要かもしれない

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コアラを絶滅から救うには、大量の殺処分が必要かもしれない

多くを救うには犠牲が必要な事もあるとは言え…

オーストラリアと言えばカンガルーとコアラですが、現在コアラは、ただでさえ絶滅の危機に瀕しているのに、クラミジアの流行により更なる危機を迎えています。そして複数の科学者が、可愛いコアラの絶滅を防ぐには、大量のコアラを安楽死させねばならないと提唱しているのです。

クラミジアは古くからある性病ですが、かかるのは人間だけではありません。BBCによれば、バクテリアは多くの哺乳類、鳥類、爬虫類にも見られ、現在オーストラリアのコアラ達に大きな被害を与えているそうです。概算では大陸のコアラの約50%がクラミジアにかかっていると言われ、狭い集団の中では80%にまでのぼるとも考えられています。その感染が広まる速さと、感染したコアラ達の経験する苦痛や衰弱を考慮し、ワクチンの研究が急ピッチで進められる間感染拡大を食い止めるため、保護論者の中には大量の殺処分を要請している人達もいます。

160215_koala02.jpgクラミジアに感染したコアラ。尿道が炎症を起こしているのか、黒い染みが見られます。(Credit: blinckwinkel via BBC.)

以下はBBCの記事からの抜粋です。

コアラを襲っているクラミジアは、人間が感染するクラミジアとは別の種類―ただし、感染したコアラの尿から人間も感染する危険性がありますが―で、コアラが感染するとその症状は深刻で、視力喪失不妊、そしてダーティー・テールと呼ばれる症状を引き起こします。

「ダーティー・テールは本当に悲惨です」とバーネット研究所の感染病博士のDavid Wilson氏。「尿道が炎症を起こして、非常に大きく腫れてしまいます。これは激痛を伴い、多くは膿を出しながら死んでしまいます。」

既に2012年に絶滅危惧種に指定されているコアラにとって、これは大きなプレッシャーとなります。コアラの個体数は、1996年以降クイーンズランドで40%、ニューサウスウェールズで33%激減しています。しかし問題なのは、抗生物質が使えない事です。抗生物質は、コアラの胃に存在している複雑な微生物相を破壊してしまいます。これらの微生物は、コアラの唯一の食糧であるユーカリの葉を分解する役目を持っているのです。

Wilson氏は、可能性のある解決策として大規模な殺処分を挙げています。彼はJournal of Wildlife Diseasesにその理由をこう説明しています。

逆説的ですが、より多くのコアラを安楽死させる事で、コアラ全体の総数を増やす事ができると私たちは考えています。私たちは、感染したコアラ達を安楽死させた場合の影響を調査しました。コアラの個体数に関する詳細なデータを元にコンピューターで個体ベースモデルのシミュレーションを行なった結果、7年後の個体数は、安楽死を行った方が行わないよりも多いであろうという結論に達しました。症状が末期に近く不妊状態のコアラを殺処分し、まだ症状の軽い状態で捕獲されたコアラに抗生物質を与えれば(訳注:これは、抗生物質を与えた後に治療で胃腸の微生物相を回復するという意味なのか、微生物相を破壊しない抗生物質を期待しているのか、定かではありません)、4年後にはクラミジアを撲滅でき、個体数増加が望めます。こういった計画は、現場において感染症や内蔵疾患の診断を行う為のツールの更なる研究が進めば、より実用的に運営できるでしょう。

小の虫を殺して大の虫を生かすとは言いますが、実は既に似たような計画は、伝染型の癌悩まされているタスマニアデビルに使用されています。こちらは殺処分による効果が薄いと指摘されていますが、Wilson氏は計画がしっかりと管理されていないとしています。

勿論、Wilson氏の計画は慎重に考える必要があります。しかし幸いな事に、クラミジアのワクチンがもうすぐ完成するそうです。最近の試験では、ワクチンには確かに効果が認められ、実際に使用されるまでは時間の問題かも知れません。Wilson氏はワクチンの登場までに後3年はかかると考えているようです。できれば、殺さずに済む方法が見つかってほしいですね。

source: BBC

George Dvorsky - Gizmodo US [原文]

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