毎年3月にテキサス州オースティンで開催される音楽と映画とインタラクティブテクノロジーのフェス、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。約1週間のあいだ、街中に点在する会場でアーティストによるライブや、映画の上映、そしてテクノロジーのエキシビションやカンファレンスが行なわれます。
中でもインタラクティブ期間中に行なわれる、トレードショーや各種アワードのショーケース、エキスポのブースでは、実際のプロダクトのデモを体験できたり、購入できたりするため多くの人が参加します。
楽しませなきゃテクノロジーじゃない!とでもいうかのように、トレードショーのプレゼンターたちが熱く紹介してくれたプロダクトの一部をどうぞ。世界をもっと楽しくする「BUBBLY」

日本の大学生チームがつくった「BUBBLY」はチップを入れるとシャボン玉が吹き出すデバイス。ストリートミュージシャンのパフォーマンスなどに使います。
BUBBLYのデモ。お客さんがお金を入れるとシャボン玉が出ます。演奏は #SXSW Japan Niteに出演するTempalay(@tempalay)! pic.twitter.com/YceytisOaQ
— ギズモード・ジャパン (@gizmodojapan) 2016年3月15日
会場では実際にSXSWミュージックに出演するTempalayとコラボしてデモショーが行なわれました! お金を入れるとぶわーっと気前よくシャボン玉が飛び出します。ミュージシャンだけじゃなくて、チップを入れたお客さんもテンション上がりますよ。
現在は路上でのできごとですが、「今後はオンラインでもBUBBLYしたい」と考えているそうです。つまり、配信中のストリートライブを自宅で見ている人からのチップでも、路上にシャボン玉が飛ぶんです。インターネットの空間を超えて、世界中のリアクションが現実にリアルタイムに届く。きっと嬉しくなっちゃうでしょうね。
「MilboxTouch」がはやく欲しすぎる
今回のSXSWではいろいろなブースで「これ今日買えないんですか…?」と訊いてしまいましたが、これもそのひとつ。

WHITEの「みるボックスタッチ」は、一見するとよくあるスマートフォン挿入タイプのダンボールVRゴーグルですがその秘密はサイドにあります。
このサイドのサークルは導電性インクでプリントされていて、なんとVR世界のコントローラーになっているのです。タッチして指をくるくると回すと前進、逆回しでバック。スワイプやタップにも反応できます。すごい!

このシートは明治大学が開発した「ExtensionSticker」を使ったもの。「タッチパネルディスプレイに貼り付けるだけでタッチパネル外からのタッチ入力を転送可能とする」テクノロジーです。つまりこのサイドのサークルを触ることで、映像を再生しているスマートフォンを操作できるという仕組みです。
コントローラーがついたVRヘッドマウントディスプレイはありますが、「みるボックスタッチ」はなんといっても、ダンボールとExtensionStickerシートだけでできたコストの安さと軽さが魅力です。現段階ではプロトタイプですが、これが出ればVRゲームが子どもでも楽しめる時代になるかも。

「PRYNT」はリアルのインスタグラム

「PRYNT」はフランスのスタートアップが作った、スマートフォンアタッチメントのプリンター。特許が盛りだくさんのZINK Paperという特殊な感熱紙を使うことで、インクなしでフルカラーの写真をすぐにプリントアウトできます。

スマホケースとして常につけておくには少し大きいかな?という印象でしたが、プリントのクオリティはいい感じ。すでに販売を開始しています。
撮った写真をインスタグラムにアップロードするのとおなじ感覚でプリントできるって楽しそうですよね。「デジタルデータをどう現実に持ち出すか」というデジタルファブリケーションは、日本のHACKistが展示した「POSTIE」にも通じるテーマです。
「e-skin」が身体を自由へ解放する

Xenoma inc.の「e-skin」は今年のCESでも話題となった、着るセンサー。
普通のウェア(セーターなどすき間の大きい服や、身体から浮きすぎてしまうものはNG)に導電性インクで回路をプリントすることで、カメラを使わずに人の動きをトラッキングできます。なのでKinectなどと違って、後ろを向いてもOKですし、ずっとカメラの前にいなくてもいいんです(デモ動画はトラッキングの結果を見るためにディスプレイ前に立っているだけです)。

e-skinは洗濯もできるので、いつも着ているアンダーウェアなんかにプリントしたらよさそうですね。発売は1年後を目指しているそうです。
足の裏でハックする「interactive shoes hub」

富士通の「interactive shoes hub」は、靴のインソールにセンサーを仕込んで人間の行動をAPI化するなどのプロジェクト。

9軸センサーや圧力センサーなどを使って、その人が踊っているのか、歩いているのか、それとも走っているのかなどを判定します。
富士通「interactive shoes hub」による人間の行動API化。靴のインソールに仕込んだセンサーでいま歩いているのか、走っているのかなどを判別します。https://t.co/PQhUec8bIG#SXSWpic.twitter.com/H6BMyUoN6O
— ギズモード・ジャパン (@gizmodojapan) 2016年3月18日
これらのプラットフォームを使って、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が制作したのが「STEP」です。


歩いているとき、足の裏でどんな路面にいるかを感じますよね。STEPは、その足の触感を擬似的につくることができるんです。この技術を使えば、足の裏の感覚がある義足なんかが作れるかもしれません。
「phonvert」がIoTそのものを変えていく

最新テクノロジーを詰め込んだガジェットあふれるトレードショーで、一瞬ぎょっとするオブジェを展示したのは「phonvert」。日本の大学生チームです。
彼らが少し変わっているのは、彼らのブースにはプロダクトもアプリも存在しないところ。言うなれば、「phonvert」ということばを展示しているんです。phonvertとは、phone+convert(転換する)の造語。IoTハードウェアをたくさん開発するよりも、誰しも自宅に眠っている不要になったスマートフォンを使ってIoTをやろうというアイデアです。

ブースに訪れた人たちは、自分なら不要なスマートフォンを使ってどんなIoTを作りたいか?を書いて貼っていきます。

ハッシュタグ#phonvertでもアイデアを投稿したり見たりすることができますよ。
ぜったいに宇宙でピザを3Dプリントしたい「SPACE Pizza」

これは…?

アメリカの形のピザを3Dプリンターで作っていたのは、地元テキサスのスタートアップBeeHex。CEOであるAnjan Contractorさんは、実は、宇宙で使える食べもの3DプリンターをNASAから出資を受けて2013年に作った人なんだそうです。
ところがプロジェクトは2014年にNASA側の都合によって頓挫。それでも宇宙ピザの夢をあきらめないContractorさんは自分でKickstarterを始めたようですが…いまのところ、このファンディングが達成されるかどうかはわかりません。

フライヤーには力強いメッセージ。「BeeHexはピザをプリントすることを誓います」。

まだまだあります
ほかにもトレードショーにはびっくりするようなデモや、思わず笑ってしまうプロダクトがたくさんです。

普通のイラストに見えますが、フラッシュをたいて写真を撮ると…

見えなかった絵柄が光る! これ、ソニー・デジタルエンタテインメントと株式会社小松プロセスが共同開発した「忍者インク」という塗料によるものだそうです。


ギズでもとり上げたPARTYの「個性的なかつら」が大人気だったり、

NASAのiPadテレプレゼンスロボットが走ってきたり。

Keep it Weird!

開催地オースティンの街のスローガン「Keep Austin Weird(Weird=ヘンな)」が表すように、SXSWは常にオープンで自由の精神をもった人々が世界中から集まっています。NASA、ソニーやサムスンといった巨大テック企業から、スタートアップ、そして個人で作ったプロダクトを持ってくる学生まで。

例えば上の写真の「Ubisnap」は、東京大学の学生である井原央翔さんが制作したモーショントラッキング装置のプロトタイプで、磁界中の各コイルに発生する電圧によって指の位置や向きを速く正確にトラッキングするというもの。そしてコストも数千円程度に抑えることができるそうです。
「製品化やスタートアップについてはまったく考えていません」と言う井原さんに、ではどうしてこれを作ったんですか?と尋ねると「昔から工作が好きで、磁気がおもしろいと思っていたんです。ちょうど大学の制作課題があったので試してみました」との答えが。
彼のような個人のクリエイターとNASAが同じ場所でブースを出しているイベントなんて、SXSWくらいじゃないでしょうか。どんなものに対してもオープンでいるその姿勢は風通しを良くする以上に、強い風を生んでいるように感じました。
source: SXSW
(斎藤真琴)