インターネットと現実世界はつながっている。
毎日なにげなく使っているインターネット。あなたは、どのくらいのデータを毎日受信しているでしょう。
あなただけではありません。あなたの家族も、あなたの友だちも、電車で隣に座っている人も、街ですれ違う人たちも、名前も知らない遠い国の人たちも、みんなインターネットを使っています。
そう、まったく無関係な人たちも、インターネットという世界でつながっているのです。
分からないことを調べれば、すぐに答えが見つかる。会いたい人が今どこにいるのか、すぐに連絡が取れる。顔も名前も住んでいるところも知らない人と、一緒にゲームができる。インターネットのおかげで毎日が便利に楽しい。そう感じている人が大半かもしれません。
しかし、そんな明るいところばかりではありません。現実社会と同じように、インターネット上でも争いや犯罪は起こっています。
そんなインターネットの闇の部分を描き出しているのが、シマンテックが公開する動画「THE MOST DANGEROUS TOWN ON THE INTERNET(インターネットで最も危険な街)」です。
この動画は「ノートンセキュリティ」などのインターネット関連セキュリティ製品の開発・販売を行っているシマンテックが制作しているもので、2015年9月に公開された「インターネットで最も危険な街を訪ねて」の続編にあたるもの。前作が「エピソード1」ならば今作は「エピソード2」と言えます。
監督は、2012年にアカデミー賞「短編ドキュメンタリー賞」を受賞したダニエル・ユンゲ。外部からアクセスできないよう厳重なセキュリティがかけられた「データヘイブン」という施設を訪ねるドキュメンタリーです。
シマンテックは、なぜこのような動画を制作し公開するのか。その意図について同社のマーケティングスペシャリストである鴇田宣一さんにお話を伺いました。
インターネットの二面性を表現した動画
ギズモード編集部(以下ギズ):さまざまなプロモーションの形があると思いますが、シマンテックがこのような動画を制作して公開するという意図はなんでしょうか?
鴇田宣一さん(以下鴇田さん):2015年9月に公開したエピソード1は、有名なハッカーを訪ねるということがコンセプトでした。今回のエピソード2は、ハッカーと呼ばれる人たちが使っているデータセンターなどの場所を訪れるというのがテーマになっています。グローバルで展開しているセキュリティのリーディングカンパニーであるシマンテックとして、サイバーセキュリティの問題を明確に打ち出していきたいという意図があります。そこで、このようなドキュメンタリー動画を展開しています。
ギズ:前回はインタビューがメイン、今回はロケがメインなんですね。
鴇田さん:前回はその人がいる場所がメイン。今回は施設がメインということで、その場所に行って管理をしている人に会って、どういうコンセプトなのかを聞くという形になっています。
ギズ:先ほど、ハッカーという言葉が出てきましたが、シマンテックの中ではハッカーという言葉はどのように解釈されているのでしょうか。
鴇田さん:本来であれば、
ハッカーというのはテクノロジーにすごく強く、詳しい人という意味で、インターネットの技術を使って悪事を働く人は
クラッカーと呼ばれています。ハッカーの中で、悪いことをする人がクラッカーですね。ただ、世間一般ではこの部分が微妙になっていて、現在はインターネットを使って悪事を働く人をハッカーと呼ぶのが一般的になりつつあります。弊社にはノートンというコンシューマ向け製品がありますので、一般消費者に近い目線で考えていこうということで、ハッカーという言葉を使わせていただいております。一応、いい意味では
ホワイト・ハット・ハッカー、悪い意味では
ブラック・ハット・ハッカーと呼び分けております。
ギズ:なるほど。この動画の一番のメッセージはどんなところでしょうか。
鴇田さん:一見身近ではない題材に思えるけど、実は身近なことなんだよというところ。それと、
インターネットの二面性ですね。インターネットは、よくも使えるし悪くも使える。
グレーゾーンもあるということを、皆さんに分かってもらいたいというところですね。
インターネットに重要なものは「倫理観」
ギズ:かなり盛りだくさんな内容になっていますが、見どころはどこでしょうか。
鴇田さん:全部が見どころですね(笑)。さすがアカデミー賞を取った監督さんだけあって、25分間目をそらさせない展開になっています。今回登場する
ヘイブンコーや
サイバーバンカー、
バーンホフといったところは、なかなかカメラが入れません。
シーランド公国上にあるヘイブンコーはすでに閉鎖されていて着陸は不可能でした(1分00秒頃~)。サイバーバンカー(3分05秒頃~)やバーンホフ(9分05秒頃~)は、企業として数年に1回くらい公開しているようですが、ふだん動画では見ることができない場所が撮影されているので、そこも見どころですね。
ギズ:動画を見ると、バーンホフのメンバーが「違法なものもあるかもしれない。けれど我々でなければ対処できない問題もある」と言っています。これは一理あると思うんです。しかし、それが逆に悪事の温床のようになっている面もあると思います。
鴇田さん:そこで重要なのが
倫理観ではないでしょうか。よく例えに出されますが、包丁はとても有用なものです。しかし、街中で振り回すと非常に危険なものになる。同じ包丁でも、使う人の倫理観やシチュエーションによって変わってくると思うんです。インターネットも一緒で、悪意を持って使えば悪いことに使える。きちんと使える人が使えば、すごく生活が豊かになる。こういった
二面性も表現できていると思います。
ギズ:今回、先ほどの3カ所以外にも数カ所訪ねていますね。取材拒否やもぬけの殻だったりしていますが。そういうところに行けるというのが、グローバルなシマンテックのすごさなのかなと感じました。
鴇田さん:どうしても、ネットの向こう側の世界の話なので、現実味がないかもしれません。インターネットの世界を仮想空間と言ったりしますが、そこにいる人たちも実在する人間なので、そこに行けば会えたり、ネット上でチャットができたりするんです。そこで、ああちゃんと実在するんだなと感じていただきたいですね。
ギズ:サイバーバンカーやバーンホフは、実際に施設内に入ってインタビューをしていますが、一般の人と変わらない身なりをしていたのが印象的でした(5分50秒頃〜)。
鴇田さん:特にサイバーバンカーのロイとレイモンドは、スーツをビシッと着こなして、しっかりした企業なんだなという印象を受けました。やはり、
政府や大企業が顧客にいるので、身なりはしっかりとしていなければいけないのかなと感じました。今回のテーマの1つである「
防弾ホスティング」(Bulletproof Hosting:匿名化されたホスティングサービス)は、政府や企業が顧客の場合もありますからね。
ギズ:もともとは、そういうためのものだと思うんですが、悪事を働く組織が利用することもある。でも、顧客だからちゃんと扱う。それについて仲間割れを起こしているところもありましたね。
鴇田さん:動画の冒頭に出てくるシーランド公国にあるヘイブンコーの設立者の1人であるライアン・ラッキーは、銃器やミサイルを販売する者が来てもサービスを提供すべきだという意見を持っていたらしく、結局
内部で意見の対立が起きて離れていったという経緯があります。
データヘイブンの内部映像は貴重
ギズ:このように、防弾ホスティングを行っている会社というのは世界中にあると思うのですが、大きな組織なのでしょうか。
鴇田さん:サイバーバンカーやバーンホフは会社組織になっています。しかも、施設を維持しなくてはならないということもあり、かなりしっかりとした企業になっています。ただ、同業他社を見てみると長く続けるのは難しいようで、実際にヘイブンコーは
8年ほどで破綻しています。
ギズ:バーンホフの内部の映像を見ると、まるでドラマのようなところでした(9分40秒頃〜)。
鴇田さん:バーンホフは、ガラス張りのオフィスになっていましたね。そのインタビューで、外見って重要だよねっていう話をしているシーンがあるのですが、なるほどなと。熱帯魚の水槽があったり、蒸気が出ていたり(笑)。演出というのもすごく重要なのでしょうね。バーンホフのCEOであるヨン・カールングは、本当に悪の組織の偉い人のような外見で……自然とそうなっていくんでしょうかね。
ギズ:一方、
取材拒否をされているところもありました。
鴇田さん:オランダの
エックテルという会社では取材拒否にあってましたね(15分05秒頃〜)。あと、マレーシアの
シネパックという企業は、行ったけれども
もぬけの殻でした。隣の人は、3年住んでいるけれど知らないと言われていましたね(12分14秒頃〜)。動画中では
ノマドホスティングと呼ばれています。苦情が来ると次々と場所を変えていくというのは、よくあるパターンです。これはなかなか実態がつかめないんです。
ギズ:施設の様子は分からなかったんですが、ノマドでできるような規模なんですかね。
鴇田さん:多分、そういう規模でやっているんじゃないかなと思います。今はハードディスクも安くなっている。また、大容量で小さいものがありますので、一晩で移動できる規模で運用ができるのではないかなと思います。あとは回線があれば問題ないでしょう。
ギズ:割と小規模で立ち上げられて、すぐに撤退するというのが繰り返される世界なんですかね。
鴇田さん:そういう方向性と、もう1つ
クラウドサービスの一部を使うというものも最近出てきているので、施設を持たないというところも増えているようです。ひょっとすると、シネパックもクラウドサービスを使って、通常のデータホスティングをバックエンドにおいて、フロントは次々と移転していくという形をとっているのかもしれませんね。クラウドサービスを使えば、最新のテクノロジーをどんどん使えるというメリットもあります。
気づかぬうちに加害者になっていることがないように
ギズ:この動画では、そのような
インターネットの闇の部分を映し出しているわけですが、この動画を見た人に何を感じてほしいと思いますか?
鴇田さん:インターネットの闇の世界ということで、遠い世界の話だけれども実は遠くないんじゃないかと感じていただければと思います。最近では、
ボットネットと呼ばれる、パソコンに侵入して他のパソコンを攻撃するタイプのマルウェアも流行っています。つまり、自分が知らないところで攻撃者になっている可能性がある。これらに関与しているのが、動画の中で登場する施設たち。そう考えると自分とは無関係な話ではない。すぐにはピンとこないかもしれませんが、多少なりとも伝わればいいなと思います。
ギズ:インターネットは、網の目のように世界中どこにでもつながっています。だから、インターネットで起こっていることは、自分には関係ないということはあり得ないですよね。
鴇田さん:そこがどうしても、特定のサービスと自分がダイレクトにつながっているという感覚になりがちです。世界のどこかで何かが起きると、その影響が多少なりとも自分のところにきている可能性は、ゼロではありません。例えば、新聞の片隅に
ISISや
アノニマス(18分38秒頃〜登場)の話が載っていた場合や、セキュリティ関連の記事が出ていた場合、あの動画に似たようなことがあったなというように思い出していただけると幸いです。
ギズ:この動画を作ったシマンテックさんとして、何かメッセージがありましたら。
鴇田さん:インターネットは便利なツールですが、使い方によっては悪用もできてしまう。これは、使う人の倫理観というところにもつながってきます。しかし、我々としてはなるべくユーザーの皆様が安心して使える環境を作るために、日夜製品を開発して提供しています。そういうことが、少しでも伝わればいいなと考えています。最終的には、1人1人がパソコンやスマートフォンを安心して使っていただけるよう、個人個人でセキュリティ対策をしていただけるようになればと思います。
なお、この動画はスペシャルサイトで公開されていますが、そのほか、本編に登場する各個人に焦点を当てたインタビュー動画、そして登場するキーワードの解説動画も同時に公開されていますので、併せてご覧いただくとより内容を深く知ることができるでしょう。
お伽話なんかじゃない。インターネットは“リアルな現実”
「THE MOST DANGEROUS TOWN ON THE INTERNET(インターネットで最も危険な街)」は、決して遠い世界の話で起こっているお伽話ではありません。私たちが普段生活している「インターネット」という世界で起こっている、“リアルな現実”です。
あなた自身、または身の回りで起こっていなくても、インターネットでつながった世界のどこかで、今この瞬間にも何かが起こっています。
次回は、この“リアルな現実”で現在進行形で起こっている出来事について、シマンテック セキュリティレスポンス主任研究員 浜田譲治さんにお話を伺います。
今、ネット界を騒がせているマルウェア「ランサムウェア」とは? そしてシマンテックはどのような対策を行っているのか。
次回「サイバー犯罪の今」。乞うご期待!
source: シマンテック
(三浦一紀)