「iPhone SE」レビュー。アップルはアイディアが枯れてしまった

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  • author satomi
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「iPhone SE」レビュー。アップルはアイディアが枯れてしまった

手がちっちゃいiPhone 6もちの自分にとって、iPhone SEは待ちに待った4インチのiPhoneです。同じ気持ちの人はほかにも沢山いて、「買ったよ!」って言うと、みんな見せて見せてと寄ってきて、並べて「わーちっちゃいねー」と驚きます。iPhone 5とか5sの人まで言うので、それおんなじサイズだよっていうね。4インチiPhoneが消えてまだ2年なのにみんな前のことはすっかり忘れちゃってるんですね。

だけどiPhone SEを新製品としてレビューするのは、若干フェアじゃない気がします。ナンバー抜きのネーミングはSEがiPhone初で、4インチiPhoneは2年ぶりですけど、それを除けばイノベーションの成果というより、これはスランプがそのままかたちになった製品だと思うからです。

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iPhone SEはiPhone 5の筐体をそのまま借りています。5はスティーブ・ジョブズが手がけた最後のプロダクトなので、愛着がある方もいると思います。なんせスティーブ・ジョブズ抜きのアップルは舵のない船で、最先端テクノロジーという荒波に揉まれる木の葉ですからね。ジョブズ不在の90年代にはそれがアップルの代名詞で、PowerBook 5300は「燃えるMac」として有名になり(私のは燃えなかったけど)サタデーナイトライブのネタにもなりました。Newtonシリーズは駄作過ぎて(私の兄弟はeMate 300宝物にしてたけど)、復帰するなりジョブズに1年足らずで葬り去られたりもしましたよね。

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1997年から2010年まで、アップルブランドはジョブズの意志決定で生き延びてきました。優秀なプログラマーとマーケターは沢山抱えていますけど、アップルを世界第2位の企業に育てるイノベーションを生んだのはやっぱりジョブズ・マジックではないかと思います。元祖iMacに色を加えたのも、iPodのクリックホイールにこだわったのも、デカいiPhoneに抵抗したのも全部ジョブズでした。

ジョブズ亡き後、ティム・クックはジョブズが切り捨てたアイディアをひとつひとつ掬いあげて世に出しました。Apple Watchも作ったし、巨大なiPhone 6と6 Plusも作って。でもいずれもイノベーションの結実というのではなかった。それはアナリスト、ジャーナリスト、消費者ニーズの結実でした。このiPhone SEもそうです。イノベーションではない。既存のニーズを満たし、ポートフォリオを拡大するための製品です。そういうつまらないビジネス用語はレノボとかデルのような実直路線の企業の専売特許だったのに。

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…とまあ、「アップルもとうとうアイディア枯渇したか…」と寂しく思うところはありますが、性能やフォルムはいいです、iPhone SE。

iPhone 5とか5sが好きで、この「ポケットに入れて忘れてしまえる4インチの控えめな存在感」が恋しい人は絶対SEを気に入るはずです。デカいiPhoneは尻ポケットから半分はみ出すので、滑り落ちそうで片時も油断できませんものね。取り出すとガジェット!というメカメカしさで、たかだかメール1本打つのに2本指。かったるいです。

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iPhone 6のときは用もないのに気にしちゃって、電車でも怖くて持ち歩けなかったです。前ポケットだとはみ出てる部分からスられそうだし、後ろポケットだと曲がりそうだし。

でもiPhone SEは本当に便利ですよ。存在を消してくれるから

性能もいいです。iOSアプリの良さは、買って1、2年のうちはプロセッサが完璧だということ。アプリケーションはfpsの上限設定にもよりますけど、30fpsか60fpsでスムーズに動作し、画質もアップル端末らしいゴージャスなものです。iPhone 6sのちっちゃい版と言っても過言ではありません。

…と、そのまま「6sのちっちゃい版だよ!」と押し切りたいところですが、いかんせんディスプレイはiPhone 5sのままなので、解像度も同じ(720p未満)ならピクセル密度も同じ(どのサムスン端末よりも低い)、デフォルトの明るさも同じなのでiPhone 6や6sより格段に暗いです。ドッグパークで犬を遊ばせながらメールチェックした時には、6では明るさ調整のスライダなんて1度も探したことなかったのに、SEではいちいち必要でした。

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でもそのぶん電池は長くもちます。ディスプレイが1番電池食いますからね。これだけ暗ければ節電にはなるわけですよ。私が1年半前から使ってるiPhone 6なんて普通に使っても12時間もつのがやっとです。 朝7時半に満充電でも夜の8時にはもう電源探さなきゃならない…となりますからね。だけどSEなら24時間楽勝なので、毎朝通勤してすぐ充電すれば1日OKです。経年劣化もありますけど、新製品ではバッテリーの減りがうまく管理できてるのが大きいと思います。

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iPhone SEは悪くない携帯です。「いつか小さい携帯を…」と待ち焦がれていた人はこれで決まりですよ。今出ている4インチ以下の中ではベストです。

まーただ、このベスト感がどこまで続くかですよね。9月にはiPhone 7が発表になるだろうし、そっちは全く新しいデザインで、中身も遥かに良くなってるはず。同時にSEのアップデートが発表にならない限り(アップルは半年サイクルで出さないのでたぶんそれはない)、その頃には中身は1年前のものになってしまいます。テック界で1年は長すぎます。それにSEは旗艦モデルではなく、飽くまでも「廉価」モデルですから、アップル製品の中ではニッチな扱いです。買う側にとっては? 普通にいいスマホですね。

いや、褒め言葉じゃないですよ。昔のアップルはもっといいもの作ってたと思うから。

Alex Cranz - Gizmodo US[原文

(satomi)