インターネットの歴史を一望できます。
今や「第4のインフラ」として、生活になくてはならないものとなっているインターネット。日本で、一般の人がインターネットを使えるようになったのは、1994年頃。日本各地にインターネットサービスプロパイダ(ISP)が開設され、アナログ回線とモデムを使ってダイヤルアップ接続をするのが一般的。夜11時から始まる通話定額サービス「テレホーダイ」を契約して、夜に思う存分インターネットを楽しんでいたのもこの頃です。
そんな時代からおよそ20年が経過。今では高速インターネット回線とスマートフォン、無線LANの普及により、インターネットは身近になりました。
日本におけるインターネットの歴史と関わりが深いのが、Yahoo! JAPANです。インターネット黎明期から、検索といえばYahoo! JAPAN。そのYahoo! JAPANが誕生20周年を記念して、特別サイトをオープン。そこで、1996年から2016年現在までのインターネットの歴史を絵巻物「History of the Internet ~インターネットの歴史~」を公開しました。

この絵巻物がすごいんですよ。線画は手描き。彩色こそデジタルで行っているようですが、手描きならではの味わいがあり、ずっと見ていても飽きることがありません。

それに書き込みが細かい! パッと目につくところはもちろんのこと、よーく見ないとわからないところも、しっかり描かれています。20周年ということでやけに力入っていませんか、Yahoo! JAPANさん。
まあ、日本のインターネット黎明期から今まで、日本を代表する検索ページおよびポータルサイトとして活躍してきたからこそ、20年の歴史を振り返ることができると言えるでしょう。
こんなすごい絵巻物を、ただ眺めているだけではもったいない! そこでギズモードは、この絵巻物を"インターネットを黎明期から知る人物"と見てみることに。インターネットといえばこの人、「ワイアード・ジャパン」の創刊者であり、ギズモードのアイコンアットラージ(意味不明な肩書だが、ギズモード・ジャパンを立ち上げた人)である、インフォバーン代表取締役 CVO小林弘人さんをお迎えして、インターネットについて語っていただきました。
インターネットの歴史をリアルタイムで体感している小林さんだけに、どんな話が飛び出すのか興味津々です。では、1996年から順に絵巻物を見ていきましょう!
「インターネットは世界を変える」と言っても、大多数の人は信用しなかった(笑)

1994年の11月にワイアード・ジャパンを創刊しました。ちょうどインターネットが日本で商用化された年でした。当時の媒体説明会で用いた資料を見ると、日本のインターネットユーザーがまだ380万人くらいしかいませんでしたね。
そのとき、インターネットは世界を変えると言っていましたが、380万人しかいないから、こんな風になるとはほとんどの人に信じてもらえませんでしたよ。テープで録音していますが(笑)、ワイアード・ジャパンの記者発表時に、大手経済新聞の記者から、「インターネットはアメリカの文化だから、日本に根付かないと思うが、そんな雑誌を始めて大丈夫か?」と質問されています。思えば、ネットの歴史はその繰り返しですよ。皆、最初の頃には「流行るもんか」って言ってるくせに、数年すればそんなこと覚えてもいない(笑)。
──小林さんは、黎明期からインターネットを使っていたと思うのですが、一般的になったのは2000年くらいですか90年代後半はかなり騒がれ始めましたよね。やっぱり、孫さんがタダでADSL配ったのも大きかったのではないでしょうか。2000年くらいには当時の森喜朗首相が「アイテー(IT)革命」とぶちあげ、一般の人もインターネットがすごいぞ、みたいになってましたね。おっさんや女子高生も、電車とかでインターネットの話してましたよ(笑)。でも、もっと一般的になり、ソーシャルメディアが台頭するまでは、Web上のコンテンツには偏りがありましたね。マスなんだけど、多くの企業や個人の生活インフラとなるまでには、もう少しだけ時間がかかったかと思います。
1997年頃から、RealVideoという動画のストリーミングサービスが当時のデファクト・スタンダード(事実上の標準)でした。インフォバーンは1998年に設立していますが、当時RealVideoで視聴できる動画のポータルサイトを5年間運営していました。日本でも日々運営される初期の大型動画ポータルサイトでしたね。その編集長が、前ギズモード・ジャパン編集長の尾田さんでした。
Yahoo! JAPANは、この頃から検索サイトとしては超メジャーでしたね。初期には人間がインデックスを作っていました。ロボット型検索が出てくるのは、その後ですか。2001年には、Yahoo! JAPANの検索ではGoogleの検索エンジンを採用していましたね。すごく使いやすくなったと評判でした。──2004年になるとFacebookやFlickrなどがアメリカで出てきていますFacebookがハーバードで立ち上がったのが2001年。日本に来たのはまだまだ後になります。当時はSNSとしてMySpaceが人気でしたが、Facebookが急激に伸びてきました。サービスイン時は全米の大学のみに開放していたのを、高校生に開放してからが、すごい躍進ですよね。
──この時期はWeb 2.0ブームですね。日本ではmixiとGREEが流行していましたねmixiは大人気でしたね。趣味のコミュニティはみんなmixiでしたよ。一方、GREEはコアな人間が多かった印象です。僕はGREEに初期から参加していましたが、mixiほどキラキラしていなかった(笑)。おじさんばっかりだった。システムはよくできていたので、応援しようと思って使い続けていたのですが、彼らがKDDIと組んでから、おじさんユーザーはあっけなく切られました(笑)。

ブログメディアというものが、まだ日本で浸透していませんでしたからね。社内の人間に説明しても、わかってもらえませんでした。今では、未来のテックがどうしたこうしたとか語っている人も、ブログメディアの構想を話したら、目をまんまるにしてましたよ(笑)。
──ニコニコ動画も2006年に開始されていますもともとは、大学で開発された画像検索システムですよね。画像は検索ができないから、タグを使うことで検索させるという。アプローチを受けたのですが、当時関わっていた某社サービスで採用されなかったことが悔やまれます。
──2008年になると、EvernoteやDropboxといったクラウド系のサービスが出てきています。そして2009年に小林さんは「フリー」という本を監修されていますコンテンツを無料で提供して、そのうちの数%の有料ユーザーでビジネスを展開するという「フリーミアム」という言葉が流行りました。「フリー」の著者クリス・アンダーソンが提唱したのではなく、他人が提唱したのに、この本のヒットでアンダーソンが考えたと思っている人が多いようです(笑)。現在でもこの考え方は主流ですよね。ソーシャルゲームなどはまさにフリーミアムです。新装版が刊行されるので、現在のフリーモデルの概況について書きました。ご参照ください。

インターネットが現れた黎明期はもちろんですが、ワクワクしたのはブログの登場ですね。ブログの始まりの定義は諸説ありますが、僕としてはCMSの定番である「Movable Type」(MT)に触れてからが、新たなメディア時代の幕開けでしたね。
何回かドアをノックしていると開くときが来る

当時、ロサンゼルス郊外のオンタリオという街で、ポッドキャストカンファレンスが開催されました。そこに参加したのですが、まだマイクロソフトをやめたばかりのロバート・スコーブル(米テック業界の有名エバンジェリスト)がビデオカメラを担いで会場をウロウロしていました。自分もハンディカムで撮影して、編集してアップするという感じでした。当時、ポッドキャストで儲かっている人なんていませんでしたよ。リアルタイムで動画を配信するというのはもう少し後。スマートフォンが普及してからになりますね。
── 一気にブームになるというよりは、徐々にサービスが成熟してブレイクするといった感じでしょうかSNSを例にすると、MySpaceよりも前に、いろいろなSNSがあったんですよ。SixDegreesとかFriendsterとかね。でも、ブレイクしたのはその後に出てくるFacebookですよね。VRも、VRML(Virtual Reality Modeling Language:仮想現実モデリング言語)が当初からあったし、1990年代半ばからVRのご先祖さま的サービスは提供されていたんですよ。その時々の運営会社は潰れるかもしれないけれど、トレンドはドラマで見るご臨終間近な患者の心電図みたいに上下幅があって、いつかは最後に上に来ます。下のときに、そのまま一緒に終了するケースが90%以上ですが。
最初のノックで受け入れられなくて、次のノックでも受け入れられなくて。何回かノックをしていると、ドアが開くときがある。そこまで生きていられればいいんだよね(笑)。アメリカには成功するサービスの陰に、過去にダメになった無数のサービスがあるわけです。でも、それが積み重なって、最後に誰かが成功する。それがアメリカ社会の底力なんです。
日本はそれをやらない。誰かが失敗したところにはいかないんですよね。でも、本当はそういう歴史があって、みんながドアをノックしに行って、ダメになって、を繰り返して、やっとドアが開くわけ(笑)。蹴落としたり、嘲笑するんじゃなく、そろそろ行きますかーって自分が旗を立てにいってほしい。
──インターネットやデジタルの技術が発達してきたのは、そういう過去の人たちの挑戦があってのことですねインターネット黎明期に、ゴーファーやテルネットしかなくて、すべてWebブラウザでできてしまうということを目の当たりにしたときの感動は忘れられない。でもね、モザイク(最初のブラウザ)を見たときの感動よりも、今がヤバいと思いますよ。いろいろ来てますよね。AI、ビッグデータ、IoT。これ、ぜんぶひとつの話なんですよ。車の自動運転や会話によるゼロUIとか、すべてつながっています。
これまでは、インターネットだけの世界の話だったのが、ハードウェアと結合すると、リアルとも結合する。これから一気に加速していきますよ。インターネットがやっと土管や電線になるんです。だって、誰も土管や電線のことを気にしないじゃないですか。そのくらい当たり前だから。テレフォン・ショッピングを電線ビジネスとは言わない。同じように、いずれ「インターネットなんちゃら」とかって呼称はなくなる。そのとき、インターネット第二章のスタートです。
ギズモードもFacebookも絶対流行らないと言われていた

僕は、人々の心理的障壁だと思っています。ギズモードも、今は当たり前にように「働きたい」という人が入社してきますが、立ち上げたときは広告営業に行っても、「こんなの見るのはオタクだけでしょ。ネットでこんなのあり得ない」って言われてましたから(笑)。そういう、人間の心理障壁を乗り越えるのが大変ですよね。Facebookも最初は、日本では絶対流行らないと言われていましたから。実名制は日本に合わないと。
──今は広告業界のマーケティングでも、Facebookは最重要視されていますよね。ある程度浸透するまでに時間がかかるものなんですかね浸透というか、各個人がリアリティを獲得するのに時間がかかるんです。ネットオークションを例にすると、おもしろいと思ってやっている人と、まったくやったことがない人では、ネットに対するリアリティの度合いが違います。頭ではわかってるんです。ネットで商品の売買をするものだと。でも、実際にやってみて成功体験がないから、実感を伴わない。Uberやエアビーアンドビーもなんでそんなに流行っているのか、使ってみないとわからないのと一緒ですよ。
実際に使ってみて、モノが売れたとか、SNSで友だちができたとか、小さな成功体験を重ね、それが失敗や恐怖を上回るまでのリアリティを少しづつ積み重ねていくのに、社会全体で時間がかかるんでしょうね。
今までのインターネットの20年は、小学校低学年

非ゲーム系のイマーシブコンテンツは来るでしょうね。アメリカでは、不動産業者や旅行業者がすでに始めていますよ。FacebookのザッカーバーグがOculusを買収したのも、Facebookのコミュニケーション空間をニ次元ではなく三次元にしたいと思っているからでしょう。
AIとVRが実用化されてきていて、そこにIoTの波がやってくると、現実とインターネットは同一のものになります。もはや、家から出なくても、仮に現実ではなかったとしても、そこで得られる「経験」は本物になります。よくできたイマーシブ・コンテンツは、これからコンテンツ制作者の目指すべき地平でしょうか。
──逆に、それだけインターネットや関連した技術が発達してきて、弊害もあるかと思いますインターネットを検索したら答えがあると思っている人が多いのですが、本当は検索できるような答えは点であり、線や面にはならない。当然間違いも放置されています。それは本当の答えじゃないということですかね。体系的に知を蓄えていくのは時間がかかるんですよ。一番しんどいことなんです。でも、みんなすぐに答えを求めて、発見したかのようになっている。あとは、知識を蓄えすぎて、その知識に振り回されている人もいる。自分の中にコンテキスト(文脈)がないと、その知識を制御できていないんですね。
──これから、AIやVRがますます発展していくと、それこそ実体験を伴わないで疑似体験だけですべてが終わってしまう可能性も出てきますVRというものは、脳をだますものですからね。イマーシブコンテンツが当たり前になってくると、家から出なくなっちゃう可能性はありますよね。わたしも、ゲームに没頭してしまって会社に行きたくないと思うことがありますし(笑)。将来、ますます自制心が必要になってくるし、相対的にリアルの価値はさらに増すのではないかと思っています。
──現実とバーチャルをバランスよく体験できる人が、生き残っていけると(生き残っていけるのは)いずれにせよ、皆なんじゃないですか(笑)。矛盾しているんだけど、やってもやらなくても生き残れる。ただし、これからの教育にはリアリティについての獲得が必須だと思う。変だよね、これまでは、ただ生きていたらリアルだったのに。無論、VRの弊害を知っておくことは必要ですし、労働の価値、倫理など、あらゆる面が問い直されることだけは間違いない。生き残るというか、より良い人生を送るための哲学が、ますます重要な時代になりますよ。
今までのインターネットの20年は第一期。小学校低学年くらいの出来事。でも、単純に小学生、次は中学生、そして高校みたいな比喩ではありません。これからの第二期は一気に大学に飛級する勢いだと思います。急激に成長すると思いますよ。
──長時間のインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました!ニコニコ超会議で18mの実物大絵巻物を見よう!

インターネット商用化から20年。長かったような短かったようなその歴史を、一望できるYahoo! JAPANの絵巻物「History of the Internet ~インターネットの歴史~」。懐かしいと思う反面、これだけのことがたった20年で行われてきたのかと、少々驚きもありました。
小林さんのように、絵巻物の一番左端からすべてを体験してきた人も、絵巻物の途中からインターネットに触れた人も、これを見ればインターネットがどのようにして生まれ、発展し、どんなサービスが生まれ、なくなっていったのかがわかります。
こちらは、インターネット上でも公開されています。イラストに描かれている出来事の詳細は“タップ”または“ダブルクリック”で確認することができ、キーワードや西暦から出来事を検索することも可能です。拡大・縮小はもちろん、キーワードや西暦からの検索や、各項目の拡大表示にも対応しています。
また、現物の絵巻物は、4月29日(金)、30日(土)に幕張メッセで開催されるニコニコ超会議で展示されます。そのサイズは、なんと18.6m×2.5mもの大きさ! インターネットとは切っても切れない関係にある現代人としては、ぜひ見ておきたい一品です。なんなら、博物館に収蔵してもいいくらいでしょう。それほどの価値がありますよ!
そして、ニコニコ超会議に先駆けて、 ニコニコ生放送でこの絵巻物についての特番を、4月16日(土)に放送することも決定しています! 実物を見に行く前に、このニコ生を見ておくと、よりいっそう楽しめること間違いありません。リアルタイムで見られない方は、タイムシフト予約をしておくといいですよ。
それ以外にも、Yahoo! JAPANの20周年記念サイトでは、抽選で最大10万ポイントの「Tポイント」が当たる、「サンクスゴロク」と題したチャンスも用意されるとのこと。ぜひ20周年サイトをご覧ください。
さてさて、20年後にはどんな出来事が絵巻物に描かれるのでしょうか。今から楽しみですね。その歴史を刻むのは、今を生きている僕らであり、みなさんなのです!
source: インターネットの歴史、ニコニコ生放送、ニコニコ超会議、Yahoo! JAPAN
(三浦一紀)