音楽ストリーミングサービス「Spotify」がついに日本にやってきました。
最新テクノロジーを駆使して、「聴く」行為に驚きを与え、音楽との付き合い方を根底から変える注目の的。特にCDがいまだに売れる日本にとって、好きな時間に好きな場所で音楽が聴き放題できるSpotifyは、スマホ音楽時代の大本命な印象を受けます。現在、すでにエントリー制で招待コードが配布されていますよ。
ギズモード・ジャパンでは、来日したSpotifyのCEOダニエル・エクに単独インタビューする機会を得ました。
33歳のスウェーデン人、ダニエル・エクがSpotifyを立ち上げたのは、ちょうど10年前の2006年。そして今や、世界の音楽を変革する企業のひとつSpotifyのトップです。失礼かもしれないけれど、気難しくて気性の荒い人を想像していましたが、実際はまったくの正反対。気さくでスマートな物腰で、握手を求めてきたので、逆にこちらの緊張度が上がるほどでした。
インタビューは、9月29日にSpotify Japanの記者発表会が行なわれた会場で実現。大きなテーブルの角を挟んで、Spotifyが目指すサービス像、変革したい音楽の在り方、アーティストとの関係を含めてさまざまな話題を語ってくれました。それでは、どうぞ。
どういう意味かというと、現在、世界のメディアコンテンツ消費の約半分は、音楽なんだ。みんな1日に約3〜4時間は音楽を聴いている。これは、ものすごい量の音楽だよ。
でも音楽産業に目を向けると、世界の規模は(2015年が)1500億ドルで、それほど大きな利益を生み出していない。一方で、世界のテレビ産業は、1兆ドル規模と巨大市場なんだよ。だから、僕は、「世界でコンテンツ消費の50%を占める音楽が、ほんのわずかな収益しか上げられないことは、問題じゃないか?」という疑問を抱いてしまうんだ。
僕たちは、アーティストがファンとつながる、新しいモデルを作ることが重要だと考え、そのためにベストを尽くしている。ファンとのつながりを付加価値として、クリエイターたちに収益化のチャンスを拡げたい。

僕たちは、このプロセスの入り口に立っているに過ぎないと思っている。まずは、より多くの人を音楽ストリーミングの世界を体験してもらうことが重要だ。
ユーザーが音楽ストリーミングを使い始めれば、音楽を聴いている人は誰か、どこから聴いているかのデータを集められる。アーティストは収益を上げる確率を高められるんだ。さらに、ファンとつながりを拡張できる。これはいずれ、音楽体験そのものを変えていく。
次の10年は最もワクワクする時代だね。これまでの10年は、世界の音楽産業に音楽ストリーミングが未来を作ると伝える時間だった。そしてみんな「これから音楽ストリーミングで何をしようか?」と考える時期に入ったと感じる。音楽の形の未来は?
ギズ:CDやダウンロードと、音楽ストリーミングの違いがあるとすれば、何でしょうか?エク:音楽は、これまでメディアのフォーマットに依存してきた。まずはアナログのSPレコードから始まった。時代と共に、メディアが抱えられる曲数は増えてきたけれど、いつの時代も音楽を収納するメディアが必要だった。今、音楽はネットの生物だ。「オーディオ・ビジュアル・インタラクティブ・メディア」。それが音楽だよ。次の10年で、僕たちは今までとはまったく違う音楽の形を目にすると思う。それが何か、僕も想像ができない。エクスクルーシブな配信は、アーティストにとって有益じゃない

もし、同じ音楽なのに、聴く人によっていくつもの異なる印象が感じられるツールが作れたら? 無限の可能性が拡がるはずだ。
先進的なアーティストは、すでに動き始めているんだ。ビヨンセも「Lemonade」で、さまざまな表現方法を実験したよね。
僕たちは、アーティストたちが今まで実現できなかったことに挑戦できる、実験のための”キャンバス”を作りたいと思っているよ。僕たちにしかできない方法で、音楽の世界を変えていけるはずだ
実験は、音楽の未来を作る。課題は、もっと多くのアーティストが、心地よく実験できるようにすることだと感じているよ。ギズ:音楽ストリーミングサービス各社で、人気コンテンツの獲得合戦が過熱しているようですが、Spotifyは今後どう取り組んでいくつもりですか?エク:僕たちは、エクスクルーシブな配信は、アーティストにとって有益じゃないと考えている。理由はいくつかあるけれど、今の時代、アーティストは好むと好まざるとに関わらず、ネット上のあらゆるサービスで音楽が流通されるから、単一のプラットフォームでわざわざ配信する価値が薄れてしまうんだ。音楽は可能な限りすべてのプラットフォームを使って広く配信するべきだと思う。それぞれ異なるオーディエンスがいることを忘れてはいけない。Spotifyではアーティストが安心して使える「包括的」な方法を実現したい。
フリーミュージックは誤解

海外を例に取ると、アメリカのラジオ産業は、約1700億ドルの市場規模がある。そして、全世界の音楽産業は、約1500億ドルだ。音楽全体の規模が、ほとんど無料で聞けるラジオと同じくらいなんだ。フリーと有料を組み合わせれば、産業規模をさらに大きく出来ると信じている。
Spotifyは産業を代替するわけじゃない。だから僕は、「破壊(=ディスラプション)」という言葉はあまり好きじゃないんだ。何かを壊すことを意味するからね。Spotifyの狙いは、音楽産業との共存だ。そして、市場内の競争じゃなく、もっと目を向けないといけない本当の脅威は、音楽の「違法コピー」だよ。
公表されないけれど、音楽を違法にダウンロードする人の数は、とてつもなく多い。音楽を簡単に楽しむ方法を作らなければ、今後も違法ダウンロードを止めることはできない。僕たちは、「フリー」が新しい音楽の聴き方への入り口だと考えている。そして多くの人は、サービスを使ってさらに良い体験を得るためなら、ためらわず課金すると思うよ。
フリクションレスな音楽を

あらゆる場所、あらゆる時間に音楽がシンプルに再生できるようになれば、音楽の消費形態も変わると信じているよ。
ギズ:今日はありがとうございました。来日中の多忙な日程にも関わらず、取材には時間ギリギリまで、温和な態度で丁寧に答えてくれたダニエル。「日本人アーティストがこれからもっと増えるから、どんなプレイリストができるか楽しみだよ」と、世界のローカルシーン活性化について熱心に語る一面も見せてくれました。
音楽を聴くツールであるSpotifyは、同時にクリエイターを支援するプラットフォームでもあることを強く印象づけられました。そのCEOダニエル・エクは情熱の対象を新しい音楽世界作りに向ける、冷静沈着なビジョナリーでした。
source: Spotify
(Yohei Kogami)