映画「ワイルド・スピード」シリーズでおなじみのジャスティン・リン監督を新たに迎えた、人気SF映画シリーズの最新作「スター・トレック BEYOND」。
今回は同シリーズで、エンタープライズ号機関主任のスコッティを演じるだけでなく、本作では脚本も手がけたサイモン・ペッグにインタビューして参りました。

――「スター・ウォーズ」を始め、かなりのSF好きとして有名ですが、「スタートレック」との最初の出会いはいつでしょうか? また、そのときはどのような印象を受けましたか?
サイモン・ペッグ(以下、ペッグ):すごく小さいときに「スタートレック」のアニメ・シリーズ(「まんが宇宙大作戦」)を見ていました。それから「スター・ウォーズ」を見て、SFにどんどんハマっていき、ドラマや映画の「スタートレック」も好きになっていきました。なので、「スター・ウォーズ」よりも「スタートレック」に先に出会っています。
テレビシリーズを初めて見た時はまだ小さかったので、ちょっと怖いエイリアンが出てくる番組だと思いました。「ベイロック(※)」という頭を完全に剃ったような見た目のエイリアンが出てくるんですが、あまりに怖くてソファーの後ろに隠れたのを覚えています(笑)。
でも、それと同時に豊かな思想と大人っぽさを感じました。スポックが言うように「魅惑的だ」と思ったんです。
※筆者注:ベイロックは「スタートレック」の第1シリーズ第10話「謎の球体」に登場するエイリアン。高度なテクノロジーを持ち、恐ろしい見た目の人形を使ってエンタープライズ号のクルーを脅しました。――幼少の頃から好きだった「スタートレック」に出演し、エンタープライズ号のクルーになるのはどのようなお気持ちですか?
ペッグ:最高ですよ。J・J(エイブラムス)が、リブート版を作ると聞いたときにすばらしいアイデアだと思いましたが、出演予定の役者が若者ばかりで、自分はちょっと歳を取りすぎているから、参加できるとは思ってもいませんでした。そうしたらJ・Jから「スコッティ役をやりたい?」というメールが届きました。たったこれだけの一文が送られてきたんですよ(笑)。
とてもうれしかったんですが、迷いもありました。何というか、とにかく驚いて即答できなかったんですね。でも、落ち着いて理解して出演を決めました。すごく興奮しましたね。
――本作ではスコッティ役を演じるだけでなく、脚本も書かれています。すでにさまざまな作品で、役者と脚本の両方を担当する経験はされていますが、今回はどういった経緯で脚本を手がけることになったのでしょうか?
ペッグ:すでに配給が選んだ脚本があって、プロデューサーのJ・Jとブライアン・バークが私に「ちょっと手直ししてみる?」といった風に話を振ってきたんです。だから最初は本格的な脚本の担当というわけではなく、アイデア出しをする程度でした。しかし、またしてもJ・Jから「『スタートレック』の脚本を書きたい?」といったメールが来て、……このメールも本当にこの一文しか書いてなかったんですけど(笑)、本作の脚本の書くことになりました。「スタートレック」の脚本を書けるなんていうあまりの出来事に一瞬混乱して「どうかな、やりたいかな?」と自問自答してしまいましたが、とにかくすばらしい機会でした。
もちろん脚本作りは大変ですし、特に今回はあまり時間がなく、凄まじいプレッシャーを感じましたが、書けてよかったです。
――出演と脚本の両立は大変かと思うのですが、どのような点が難しいでしょうか?
ペッグ:あらゆる面で難しいですが、映画作りのすべてに関われるはすばらしいことで、役者と脚本の両方をやっていないと経験できません。撮影現場にずっといられるのもいいことですね。「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホット・ファズ」は要するに“僕ら”の映画だったので、好きなようにやれたわけですが、「スター・トレック」シリーズでの私はそうではないので、何かやりたいことがあっても他の人に止められることももちろんありました。というわけで、大変ではありますが、全身全霊で挑める楽しい経験でした。
――今回脚本を手がけるにあたって、「スタートレック」に関してのリサーチは行ったのでしょうか?
ペッグ:私は「スタートレック」に詳しいほうだとは思いますが、細かいところにはかなり気をつける必要がありました。なにより「スタートレック」は50年間積み重ねてきた歴史があるので、ミスは許されません。なので、「光子魚雷の中には入れるのか?」といった難しい疑問に直面したら、メモリー・アルファ(Memory Alpha)というWikiを使っていました。
本当に毎回使っていたので、そのWikiの創設者のふたりに感謝の気持ちを込めて、本作にネックレスとして登場する鉱石を彼らに命名してもらったんです。
――今回のストーリーは前2作とは少し違う印象を受けたのですが、今回の脚本で重視した点はなんでしょうか?
ペッグ:「スタートレック」とは何なのか?という原点に立ち返ることを考えました。そこで、(共同脚本の)ダグ・ユングと私は「スタートレック」の第1シリーズのエピソードみたいな話にしようと決めたんです。なので「スタートレック」の第1シリーズと同じく、物語の基本構造は、ある惑星を発見して上陸した一行が、そこで敵と出会うという形になっています。
これまでの2作はどちらかと言うと、「スタートレック」でやらなかった事をやろうという作品でしたが、今回は原点回帰して、エンタープライズのクルーを深宇宙探査に送り込み、みんなに「スタートレッキング」させようとしたわけです。
そして、もう一つのテーマとして、新しいものと古いものの対決というのもあります。これはジャスティン・リン監督との話し合いの中で生まれたもので、ストーリー全体の謎にも関わってくる面白いアイデアになったと思います。
――本作でイドリス・エルバが演じた敵のリーダー、クラールはすごくSFっぽい悪役だと感じたのですが、彼の設定はどのようにして生まれたのでしょうか?
ペッグ:惑星連邦のあり方と真逆の男を作ろうとしたんです。惑星連邦は「結束」や「協力」を重視しますが、彼は「分裂」や「不和」を目指しています。彼はさまざまなエイリアンからエネルギーを奪って生きながらえているわけで、ある意味でさまざまな種族と協力する惑星連邦にも似た構造で生きています。それにもかかわらず、惑星連邦と真逆の思想を持っているという非常に矛盾した存在です。要するにドナルド・トランプみたいなやつですね(笑)。
とにかくクラシックな「スタートレック」っぽいSFらしさのある、わかりやすい悪役を目指しました。そして、演じたイドリス・エルバも、クラールの歩き方やしゃべり方などのアイデアを出してくれました。

――本作はボーンズとスポックという意外な組み合わせがバディのような関係になるのが印象的でした。あえて今までとは違う組み合わせを見せる展開にした理由はなんでしょうか?
ペッグ:今回はあえてクルーが離ればなれになる展開にして、これまでに描かれていない組み合わせのシーンを作りました。前2作でボーンズとスポックがやり取りをするシーンは、基本的にカークを挟んだ形で行われていて、感情的なボーンズと論理的なスポックは、カークの性格の2つの面を表したようなキャラクターでした。
お互いに尊敬はしているものの、ムカつくやつだとも思っている、両極端な性格のふたりを組み合わせれば面白くなると考えたんです。
このふたりの組み合わせを思いついてから、次に生まれたのがカークとチェコフの組み合わせです。船長と最も若いクルーという組み合わせなんですが、実は前2作で直接的なやり取りをほとんどしていません。だから、今回はそれをやってみたわけです。
スコッティは、新キャラクターのジェイラと組みますが、これは古風なスコッティと新しいものに興味津々のジェイラという組み合わせです。
すべてはボーンズとスポックの組み合わせから生まれていったもので、キャラクター同士の関係を発展させる面白い描写になったと思います。
――やりたいことを止められることもあったとおっしゃっていましたが、やむを得ずカットされてしまったシーンはあるのでしょうか?
ペッグ:基本的に正しい理由があってカットされています。脚本家としてそれは理解していますし、特定のシーンにあまり強い愛着を持ちすぎないようにしています。とはいえ、気に入っていたけどカットされたシーンはいくつかありますね。たとえばヨークタウンに到着した時に、カークが自分の悩みをスコッティに聞いてもらおうと飲みに誘うんですが、スコッティはデートがあるからと断るという、小さなかわいらしいシーンがあったのですが、任務へ向かうという勢いが緩まり、映画全体のペースが落ちてしまうので、やむなくカットとなりました。
あと、ボーンズがスポックとともにクラールの手下と戦う中で、ボーンズがフェイザー(光線銃)で敵を殺さなければならない状況に追い込まれ、医師として殺したくないという葛藤するシーンもありました。過去の2作ではこういった一面には触れていないので、面白いとは思ったんですが、やむなくカットになりました。
どちらもソフト版に収録されるんじゃないですかね?
――本シリーズに新たにジャスティン・リン監督が参加されましたが、彼との仕事はいかがでしたか?
ペッグ:細かなところまで目を行き届かせる素晴らしい監督だと思います。ただ、すぐには理解できないようなコンセプトを出してくるので、私とダグは「え、バイクを出したい!?」という風に、一緒に困惑するなんてこともあったんですが、しっかり話し合うと意図がわかり、すごく納得がいきました。
本作の、エンタープライズのクルーが船を失うという状況を考えたのはジャスティン・リン監督です。実は、私は当初「エンタープライズをぶっ壊すなんてダメだよ」と、そのアイデアをあまり気に入りませんでした。
でも彼と時間をかけて話すうちに、「何かを失うことで仲間に連携が生まれる」という表現のための設定だということを理解して、すごく気に入りました。
彼の作品に対する入れ込みようには驚きました。時間に追われていたこともあって、焦ることもありましたが、本当にすてきな人物で、今では兄弟のような関係ですよ。
――「スタートレック」にも「スター・ウォーズ」にも出演し、ご自身の夢がかない続けている状況かと思うのですが、今後参加してみたい作品はあるでしょうか?
ペッグ:ない……!というのは嘘で、これからも才能にあふれる人たちと一緒にいろんな仕事ができればいいなと思っています。
「スタートレック」にも「スター・ウォーズ」にも出演できて、さらにはスティーヴン・スピルバーグとも仕事ができるので、子供のころの夢はかなっているのは本当に幸運です。まだまだやりたいことはあるので、これからも幸運が続くことを祈ります。
サイモン・ペッグは語り口がとにかく楽しげで、映画作りと「スタートレック」が本当に大好きなんだという気持ちが伝わってきました。同時に、写真撮影の時には自分のポスターのポーズを真似しようとするなど、茶目っ気がすてきなお方でした。
「スター・トレック BEYOND」は「スタートレック」のファンにはもちろん、SF好きにはたまらない雰囲気の作品であると同時に、サイモン・ペッグの脚本らしさを感じるオフビートな笑いのある、明るく楽しい作品なので、ぜひ劇場でご覧ください。
映画「スター・トレック BEYOND」は2016年10月21日(金)全国ロードショー。
(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.source: 「スター・トレック BEYOND」公式サイト, Memory Alpha, YouTube
(傭兵ペンギン)