劇場アニメ『ポッピンQ』宮原直樹監督にインタビュー:「手描きの絵もCGも根っこは同じ」

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劇場アニメ『ポッピンQ』宮原直樹監督にインタビュー:「手描きの絵もCGも根っこは同じ」

今だから描けるものがある。

2016年12月23日(金・祝)、東映アニメーション創立60周年記念作品となる劇場アニメ『ポッピンQ』が封切りとなります。公開のだいぶ前から幅広いメディアミックスを見せており、アニバーサリー感の高まる作品です。

そこで今回は本作の監督であり、『プリキュア』シリーズのCGディレクターをつとめる、宮原直樹監督にインタビューして参りました。

『ポッピンQ』は3DCGを駆使したダンスシーンも見どころのひとつで、ストーリーにおいても非常に意味のある要素として描かれています。

『プリキュア』シリーズのエンディングのダンスなどは特に顕著ですが、3DCGは驚くほどのスピードで進化しています。一方で、アニメには手描きによる、いわゆる古き良き表現が求められているのも事実です。

このような状況に、アニメーションの現場はどう対応しているのでしょうか? 手描きと3DCGの両方に造詣が深い監督にお話を伺いました。

一部本編のネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

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――東映アニメーション創立60周年記念という節目の作品ですが、プロダクションノートには「手描きも3DCGも知り尽くした監督」と紹介されています。手描き畑でありつつ、3DCGにも精通することは、やはり個性や武器になっているのでしょうか?

宮原直樹(以下、宮原):正直、どっちも中途半端なんですけどね(笑)。自分ならこうするなというやり方で作っているだけで、他の人と比べてどうなのかはわからないです。

――手描きで作業されている人と3DCGで作業している人の両方の気持ちがわかるのは、現場のスタッフからするとやりやすいのかなと思うのですが?

宮原:両方のイヤなところがわかるので、そこを突くっていう感じです(笑)。

――現在、CGは実写のようなリアルさが追求される一方で、セルアニメのような手描きっぽさも求められるなど、両極端の属性が期待されることも少なくないように感じます。なにがこのような状況を作り出しているのでしょうか?

宮原:やっぱり普段アニメを見ている人の多くが拒否反応を起こしたんだと思います。CGの出始めのころは、CGがあまり作品とマッチしていないものが多かったような気がするので、そこから始まった違和感をまだ引きずっているんじゃないですかね?

――ということは、アニメに求められるのはどちらかというと手描きの良さが伝わるものや、セルアニメーションのような映像なのでしょうか?

宮原:多くの人はそれを求めているんじゃないかなとは感じていますが、僕はあえてそれを裏切ったり、色んな変化球を投げてみたりしています

――たとえば『プリキュア』シリーズのエンディングのダンスなどは、シリーズを経るにつれてCG的なのっぺりさがなくなっていき、どんどんなめらかになっています。そうしたCGならでは感というのは、まだ拒否反応を起こすのでしょうか?

宮原だいぶ弱まってきている印象もあるんですけど、まだあると思います。

『フレッシュプリキュア!』のEDでCGを使った時も最初の反応は「人形が踊ってるみたいな違和感」という意見と「ここまでアニメに近づいたんだ!」という意見に分かれたのですが、しばらくすると、オセロゲームで白黒がひっくり返るように「キャラに違和感」という反応だった人が「なかなかかわいいな」と言ってくれるようになりました

しかも、そのスピードはけっこう速かった気がしますね。フレッシュが始まって2~3週目くらいには、もうみんな「イケるじゃん!」みたいな反応になっていたという体感があります(笑)。

――そんなに早かったんですね! ピクサー映画などは、あのテロっとした質感のCGが一種のカルチャーにまで定着させたと思うのですが、日本のアニメーションにはそういった表現は求められていなかったのでしょうか?

宮原:日本で興行的にも大成功した、いわゆる3DCGアニメって『ドラえもん』くらいでしょうか? 僕らも何度かチャレンジはしているんですが、あまりいい成績だったり、評価だったりというのはいただけなかったような気がします。

見る人が見て「あぁこういうの好きです」みたいな声はありましたけど、それが大きな流れになることはなかったという印象です。逆に、CGアニメでこれ面白かったという作品はありますか?

――『ストライクウィッチーズ』は敵だけをガッツリCGにしたのが印象的でした。あと『ガールズ&パンツァー』はCGと手描きのつなぎ目がわからないくらいなじんでいて、すごいと感じました。やはり、そういったアニメとCGの境界線のような部分は意識するものでしょうか?

宮原:僕は逆で、作画は作画の良い方でドーンといってもらって、CGはCGが活きる方に振り切ってもらっています。その方がどちらかに合わせて引き算するよりも、結果的に見ている人に楽しんでもらえるんじゃないかなと思うので。

『ポッピンQ』もどちらかに合わせるというようなことには、あまり力を注いでいません

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――手描きの良いところと、CGの良いところを、それぞれスタンドアローンで伸ばしているということでしょうか?

宮原:そうですね。ただ、『プリキュア』シリーズでスタッフが技術的に培ってきた部分はあるので、それほど意識して寄せるっていうことをしなくても、ある程度は同一線上になっていたのかもしれません。

――常にすり合わせを目指しているというわけでもないのですね。

宮原:でもひょっとしたら、CGチームは手描きの方に合わせようと頑張ってくれたのかもしれないですね(笑)。

――宮原監督は手描きメインの時代からCGを導入するようになった、いわばCG過渡期も体験されたと思うのですが、制作現場においてなにか変化や苦労はあったでしょうか?

宮原現場的にはまだ過渡期にもなってないような気がします。上手く使い分けるということでしか共存できていないような印象を受けます。ふたつを混ぜて同化させるというよりも、お互いに良いところを並べていくという感覚です。

――ということは、ひとつのアニメを作るときは、CGチームはCGチームで担当した部分を全力でやってくれ、といったようにそれぞれが独立しているような状況なのでしょうか?

宮原:弊社ではその段階かなと思います。たとえば、他のプロダクションの中には割り切って、「CGで作画を再現」という流れも出てきているようです。手描きの弱点まで含めてCGで再現して、それで作画の雰囲気をCGで作り上げていくんです。そのあたりはもう、すごいな!と。

――東映アニメーションさんに求められているのはそういった新要素よりも、クラシカルなセルアニメーションなのかなという印象も受けます。

宮原やり方次第ですけどね。CGでできることはいくらでもあると思うのですが、そういうものに対して、すこし保守的なところは確かにあるかもしれません。

――技術的にできるかどうかは別として、制作会社にもよると。

宮原:そうですね。

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――これから需要も高まっていくと思うのですが、CGアニメーターの教育は実際のところどうなっているのでしょう? やはり現場なのでしょうか?

宮原:うちの部署の場合は現場の中で熟成されているようです。流行している作画の資料集みたいなものを独自にどんどん吸い上げていて、自称「作画マニア」のCGアニメーターとか、そういう人材もけっこういます。

――ほぼ独学なんですね。

宮原:絵は描けないけど、CGを使ってそういう動きや手描きの気持ち良さを表現するとか、個人個人でレベルアップしていって、良い具合に膨らんできている段階が今かなと思います。

――絵は描けないけどCGはできるという人もいるのでしょうか?

宮原:いると思います。僕はどっちも経験して、手描きの絵もCGもそれほど違いはないというのがわかりました。手で描くのかコンピューターでやるのかの差しかなくて、根っこは同じかなと思います。

――ということは、絵がそれほど得意じゃない人が3DCGに興味を持って勉強するうちに、いつの間にか絵も上達しているという可能性も……?

宮原:あると思います。

――『ZBrush』のような最新のソフトなどを現場へ導入しようと検討することはあるのでしょうか?

宮原:試験的に触っているスタッフはいますが、アニメ作品への本格的な導入はしていないと思います。さすがに自分ではやろうとは思わない、ですね。一応モデリングをやったり、アニメーションや撮影をしたりなどは一通りやってはみましたが、今はもうそれぞれのスペシャリストが育っているので、中途半端には手出せないという状況です。

でも、ひとつ得意分野があるというのは良いです。たとえば、モデリングが好きなら、ずーっとそれを突き詰めていって、そこからセットアップやアニメーションへ広げていくとか、そういった可能性がCGプロダクション内にはすごくあると思います。

――制作現場に入ってしまえば叩き上げだとは思うのですが、専門学校などはどうなのでしょうか?

宮原:今はもう専門学校である程度できるようになってから現場にくるので、そこは心強いです。もう即戦力です。

手描きのアニメーターだと、専門学校は出たけどあんまり上手じゃないというケースもあります。やっぱり絵の上手い下手って幅があるので……。でもCGだと「このソフトが使える」というのは、わりと早く修練できるじゃないですか。絵の場合だと、その人がそこまでにどれだけ積み上げてきたか?ということが重要なので。

――ソフトウェアの場合は一つ熟練度が高いのがあれば戦力になりえると。

宮原CGアニメーターの需要はこれから絶対に高くなると感じますし、スターCGアニメーターもそろそろ出てくるんじゃないかなと思います

――供給はまだ足りていないのでしょうか?

宮原:増えてくるでしょうね、これからは。

――深夜アニメなどでよく言われているのが、要求されるクオリティーに対して制作現場の待遇がなかなか改善されないといったことです。手描きはマンパワーが増えないと限界があります。そして、CGはこれを救えるのではないか?と個人的には思うのですが、いかがでしょうか?

宮原:有効だと思います。でもそれをやった時に、見る人が「また使い回しをしている」とか、そういうのが見えると商品の価値が下がってしまうんじゃないか?とも思います。

たとえば、でっかい宇宙船がメインの作品なら、それをひとつCGで作っておけば、いろいろと有効活用できる。そのぶんキャラクターの芝居に注力していけば、作品としても制作現場的にも良い傾向になっていくんじゃないかなと感じています。

――CGは資産になりますものね。『プリキュア』も、せっかくキレイなCGモデルがあるんだから、いろんなところに出してほしいと思ったことも一度や二度ではありません(笑)。

宮原:拒否反応も着実になくなってきているので、だんだんとやり始めてはいますよね。

――CGの可能性を感じる一方で、心の隅には手描きアニメへの愛着もあるのですが、ここの物量は簡単には増えない……ですよね?

宮原:もうパイは限られていますし、これから供給もたぶん減っていく一方ですしね……。

――どう魅せるか?という部分が本当に重要になっていくような気がします。たとえば、トリガーさんは本当に上手くやっている、すごいことをやっていると感じます。

宮原:あそこは基本的に絵が上手い。そこにプラスして、CGを上手く使っていると思います

――尖っているアニメスタジオがある一方で、東映アニメーションさんには「昔ながら」を忘れないでいてほしい、みたいな気持ちも視聴者としてはあるのも事実です。

宮原東映アニメーションは全日本プロレス、向こうはUWFみたいな(笑)

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――『ポッピンQ』のダンスシーンの衣装が最初の方とラストで違うのは、狙った演出ですよね?

宮原:まさしく。こう、ダンス鍛錬肉襦袢状態からそれを脱いでの……みたいな(笑)。でもCG的には難易度が高かったようです。どう動いても食い込んでしまうという。

――もこもこした質感はCGでは難しそうだと感じるのですが?

宮原:出しにくいです。CGチームはかなり苦労したと思いますが、食い込んだりするのはいいから、動きがきれいになればいいと、そこは割り切ってやってほしいという発注はしました。

――気持ち良さでいうと、カメラワークと色彩がすごく印象的でした。CGの色調整も苦労されたのでしょうか?

宮原:今回は作画部分の色を決めてもらった永井さん(色彩設計の永井留美子さん)に、CGの色設計も手伝ってもらいました。CG用に色を作ってもらい、それを反映させています

――そういった工程は、通常はないのでしょうか?

宮原:少ないと思います。普段は元の2Dのキャラの色を拾ってきて乗っけるだけといった感じです。

――色は光の具合でも変化すると思うのですが、ライティングも『プリキュア』のEDのゴージャスな印象とはやや異なるように感じました。

宮原:ショー的な映像であれば、『プリキュア』のようなゴージャス感も必要ですが、今回は映画のストーリーの中の一場面だったので、そこまでショー的なエフェクトではなく、話に沿ったワンカットという作り方をさせていただきました。

――ひとつのダンスシーンの中でも5人それぞれの動きに違いがあり、それが性格の違いを表現しているとも感じました。

宮原:CGのアニメーターに、通常の3倍は手間がかかると言われましたね。

――実作業としては、モーションキャプチャーで収録したデータをすべて手作業で直しているんだと思うのですが、その際になにか指標や監督からの「こうしてほしい」というオーダーはあるのでしょうか?

宮原演技的なものに関しては、モーションキャプチャーを撮るときに演者さんに演出をしているので、そのビデオを見て近づけてもらっています。アニメ的な動きのメリハリみたいなものはこちらでやっているんです。

――蒼の能力を使い、情報系を表示させるという演出がSF的かつドラマチックな、伊純が橋を駆け抜けるシーンが記憶に残りました。あのシーンはどのように生まれたのでしょうか?

宮原ああいう表現をしたいから、蒼にあのような能力をつけたという逆算は、実はあります

――まさに、3DCGのオイシイところが表現されているという印象を受けました。こうして需要も供給も技術も高まり続けている3DCGですが、今後はどのように発展していくと感じているでしょうか?

宮原:もう、いくところまでいくんじゃないですかね?(笑) ただ、CGがリアルに寄れば寄るほど手描きも面白いなとか、生の人の芝居はすごいなという、共生関係になっていけばいいんじゃないかなとは思います

――ピクサー的な、いかにもCGというスタイルは、それこそスタイルとして定着していきそうです。

宮原:ピクサーも初期は「このCG技術すごい!」で話題になりましたが、今や行き着くところまでいって、あの映像クオリティーが普通になっていますよね。いかに話が面白いか、発想が面白いかの勝負になってきているじゃないですか?

――CGの技術が高まっていくと、結果としてはドラマやストーリーが追求されるようになると。

宮原:そうなっていくと感じています。そして、そうなると作家的なオペレーターも必要になってくると思いますね。

***

『ポッピンQ』は2016年12月23日(金・祝) 全国拡大ロードショー。

なお、謎の新キャラクターのビジュアルが公開され、EDロール後に特別映像が流れることも明らかになったので、劇場で鑑賞の際には、最後の最後までスクリーンから目を離さないほうが良さそうです。

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image: ©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
source: 劇場アニメ「ポッピンQ」 | 公式サイト, YouTube1, 2

(ヤマダユウス型)