王のドラミングは60億人類の葬送行進曲――?
1933年に第一作目が公開され、後のモンスター/怪獣映画に多大なる影響を与えた巨大類人猿、キングコングの起源を描く映画『キングコング:髑髏島の巨神』。
今回は本作を手がける、ジョーダン・ボッグト・ロバーツ監督にお話を伺いました。キングコングへのこだわり、まったく新しい映画を作ろうという思い、そして日本のアニメやゲームへの愛などについて語っていただいています。

――『キングコング:髑髏島の巨神』の完成にむけて、お気持ちはいかがでしょうか?
ジョーダン・ボッグト・ロバーツ(以下、ロバーツ):映画を完成させようとしている今、睡眠不足ですけど、興奮しています。やっとトレーラーが公開されて、私たちがずっとやってきたことを見てもらえたので、すごくうれしいです。見た人は「思っていたコングとは違う」と感じるかと思います。トレーラーの中でもトーンが変わりますしね。今回の映像では映画の内容についても少し明かされていますし、すごく楽しい映画だというのが感じられると思います。今のところ反響はとても良いです。
――本作のストーリーはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
ロバーツ:今の私はアートハウス映画や外国映画も大好きですが、そういった作品を発見する前は大手スタジオのメジャー映画しか見たことがありませんでした。現代では自宅にいつつ、Netflixなどを通してユニークな作品が見られますが、当時は映画といえば両親と一緒に映画館まで見に行くものでした。たとえ、その映画があまり良くなくても、それはとても楽しい体験だったんです。映画館に行くという行動は子どもの頃の私にとって、とても大切なことでしたし、当時は娯楽大作を見下すような傾向はありませんでした。今では「娯楽大作」と聞くと、「金儲けのために作ったんだな」ととらえる人々がいます。
インディーズ映画を作っている時にも、私の中にはビッグなスケールを持つ、ビッグなストーリーを語ってみたいという気持ちがありました。『The Kings of Summer』(監督の第一作目)を製作した後、興味を覚えるプロジェクトはたくさんあったものの、次は大きなものに挑戦してみたかったんです。
そんな時、レジェンダリーに『キングコング』の話を持ちかけられました。私の最初の反応はきっとみんなと同じで、なぜ? なぜ今またキングコングなのか?でしたね。もうリメイクは作られていましたし、その作品も良かったじゃないか?と。
レジェンダリーに「君ならどんなコングの映画を作る?」と聞かれた時、正直なところ答えがわかりませんでした。観客がどのようなコングを見たがっているのかがわかりませんでしたし、何が今の時代に通じるかもわからなかったんです。そこへ、夕日をバックにヘリコプターが飛んでいて、ヘンドリックスの曲が流れている中にコングが登場する――という、クレイジーなアイデアが浮かびました。私はそういう映画を見たことがないし、いろんなジャンルをごちゃまぜにしたおもしろい内容になるだろうから、観客として見たいと思ったんです。
「映画の舞台設定を1973年にして、モンスターの登場するベトナム戦争映画みたいにしたい」と言った時、レジェンダリーにはきっと「何を言っているんだ、出ていけ」と追い出されると思っていました。そうしたら、意外にも「よし、それでいこう」と言ってくれたんです。
70年代という時代に興味をもったのは、ヘリコプターとかいったビジュアル面の理由だけではありません。テクノロジーがまだ現代ほど進んでおらず、科学と神話の境目がはっきりしていない時代だったというのも魅力的でした。初めて衛星が空に打ち上げられ、衛星が地球を遠くから写した時代です。人はその写真を見て、未知の場所を発見しました。
一方では、戦争が失敗しようとしていて、人種平等、男女平等の動きが大きくなってきており、石油ショックが起こって――といった戦争や社会的、政治的な状況もありました。
本作に登場するキャラクターたちは「世の中に閉じ込められている」と感じており、現代人の多くも「世の中はいったいこれからどこへ向かうのか?」と感じていると思うので、70年代という時代に共感してくれることを願っています。
実際のところ、現代は片足を新しい未来に、片足を古い時代に突っ込んでいる状態で、70年代に似た状況だと思うんですね。現代人の多くは、神話はもはや存在しないと思っていますが、たった10年前に、ベトナムで誰も知らなかった部族が発見されています。私たちは今も、地上に存在する、未知な何かを見つけ続けているんです。
現代人は食物連鎖をもはや意識していませんが、もし、人間がまた食物連鎖に加わったら、どうなるのか? そういったさまざまな発想が本作には含まれています。

――本作のコングと、これまでのコングの違いはなんでしょうか?
ロバーツ:私たちのコングは、1933年のコングにオマージュを捧げるものです。オリジナルのコングは、いかにも映画に出てくるモンスターでした。野獣であり、破壊者である、古典的なモンスターです。彼は人間を食べる生き物であり、凶暴な神のような要素があります。私は、立っている人間の前にものすごく大きなものがそびえている――そんなイメージを思い描いていました。後々『Godzilla vs. Kong』でゴジラと戦うから大きくしたのでは?と思っている人も多いかもしれませんが、コングを大きくしたのは彼を神様みたいにしたかったからです。
もし、今ここにクリーチャーがいたとして、科学の世界に生きる私たちが「自分が見ているのは神なのか?」と感じてしまう大きさとはどのくらいなのか?といったイメージを私は早くから抱いていました。シリーズ全体として、コングはまだ若くて成長過程にあるのか? それとももう大人なのか?といったことは考慮しましたが、私が考えたのは、この映画を最高にすることだけです。『GODZILLA ゴジラ』のギャレス・エドワーズ監督も同じようにゴジラにアプローチしたと思います。彼は東宝のオリジナルにオマージュを捧げる、自分なりの最高のゴジラを作ろうとしました。僕も同じで、ウィリス・オブライエンにオマージュを捧げつつも、モダンなものにしようとしたんです。
私たちのコングは凶暴な野獣であり、古典的なコングです。過去のコングで何度か描かれてきた「美女と野獣」的な部分は、あまり出していません。今回のコングは動物的であり、同時に神を思わせる気高さがあります。動きに関しても、そこは意識しました。彼は猿みたいには歩きません。神のように動く存在です。
ピーター・ジャクソンのバージョンは日本ではあまり受けなかったんですよね? 『キングコング:髑髏島の巨神』には、日本のアニメやゲームからの影響がたくさん入っていると私は思っているので、日本の観客がどう受け止めるのかにはとても興味があります。
――現代の観客に、新鮮なキングコングのショックを与えたいといった意識はあったのでしょうか?
ロバーツ:大事なのは、どのようにストーリーを語るか?です。現在はスペシャルエフェクトがいくらでも使えるので、やれることはすべてやられています。だからこそ、そこで何が起こっているのか?が、より大事です。キャラクターに感情移入できるかどうか? 彼らが経験していくことに引き込まれるかどうか? 人はこういうシーンを見たことがあるだろうか? もう誰かが先にやっているだろうか? 他の作品に似すぎているだろうか?と、いつも自分たちに問いかけてきました。ただほかとは違う作品にしたいというのではなく、観客に新しいものを見せたいんです。
かつては、大作映画を鑑賞するたびに「すごい! こんなの見たことがない!」という驚きの連続でした。しかし、現代の映画は昔のように、観客へ新しいことを見せ続けていません。同じことがひたすら繰り返されているように感じます。
そのため、クリーチャーに宮崎駿監督作品の要素を反映させる、昔のコングにオマージュを捧げる、村や島をどうデザインするか?といったことは、新鮮さを出すための非常に重要な要素です。観客は新鮮なものを見る権利があります。
本作では観客に「見たことがない」と思うものを提供するために、あるいは見たことがあると感じるものだとしても、予測とは全然違うものになるように、たっぷり時間をかけました。
――本作にはコング以外にもモンスターがたくさん登場しますが、彼らはどのような存在なのでしょうか?
ロバーツ:クリーチャーたちには聖なる雰囲気を与えたいと思いました。キングコングは島のエコシステムの中にいて、ある意味では宮崎駿監督の映画っぽいです。特に、『もののけ姫』の要素はたっぷり入っていると思います。コングが髑髏島の神なので、同じ島にいるほかのクリーチャーもただの恐竜や醜い存在にはしたくありませんでした。彼らにも気高さと美しさがなければいけません。本作に登場する数多くのクリーチャーたちは、それぞれ島の要素も象徴しています。
ちなみに、『キングコング:髑髏島の巨神』でコングはニューヨークへは行きません。
――日本のエンターテインメントがお好きなんですね。
ロバーツ:私はアニメを見て育ったんです。なので、アニメのメッカである日本には前から行きたくて、『The Kings of Summer』を終わらせた後に、東京、大阪、京都、奈良へ行きました。日本の映画業界は今、興味深いことになっていると感じます。『シン・ゴジラ』が大ヒットしたにも関わらず、ハリウッドの映画はイマイチなんですよね? 私には日本のゲームクリエーターの友だちが何人かいて、彼らによく日本の映画界の状況を聞きます。日本の映画市場は、ものすごく変わりましたよね。――『キングコング:髑髏島の巨神』を製作する上で一番難しいと感じていることは何でしょうか?
ロバーツ:私はインディーズの小作品の出身です。私はいつも何かを作っていて、短編を作らない時期が2カ月も続いたら、狂いそうになってしまいます。それにも関わらず、『キングコング:髑髏島の巨神』には2年半ほどの時間を費やしてきています。それでも、まだ世界にすべてを見せることができていません。大作とインディーズでは製作のプロセスがまったく違います。そこが一番難しいことであり、一番楽しいことでもあります。一方で、映画作りは映画作りです。車の運転ができたら、レースカーの運転だってできます。レースカーを壁にぶつけることはないとまでは言いませんけどね。
私は即興や現場で自然に起こることを重視します。それはインディーズの出身だからというだけではありません。俳優たちがやりやすい環境を作りたいからです。ジョン・C・ライリー、トム・ヒドルストン、トーマス・マン、ジョン・アーテジアンのような役者たちに、ベトナム戦争のまっただなかにいると感じてもらい、リアルなものを生み出してもらいたいと考えています。つまり、私にとって難しいことは、同時に刺激的なことでもあったんです。だからこそ、この映画を作りたいと思いました。成長の苦しみがつきまとうであろうことは、わかっていました。そして、作り方の違う大作に、インディーズ映画の製作の要素を持ち込んでみたいとも思っていました。そうでなければ、ちまたにたくさんありすぎる、典型的な大作映画になってしまうでしょうからね。本作には、人の息吹があちこちに感じられるはずです。スペシャルエフェクトに関しても、「コングがこんなことをしたらすごいと思わない?」といった、インディーズ的な姿勢で挑んでいます。

――インディーズでの製作に比べると、やりたいことの多くが実現できる現場なのでしょうか?
ロバーツ:皮肉なことに、いつだって時間とお金は十分には足りないものなんですよね。日が落ちるまでにやらなければと焦り、一日の最後に必死になって20テイクくらいやっています。スケールは違っても映画作りは映画作りなので、そういったところはインディーズでの製作と似ているかもしれません。もちろん、インディーズのようにとっさにやり方を変えることは難しいですし、飛行機の飛ばし方を突然変えることはできません。私は撮影中にキリギリスを見つけたら「あれをカメラに収めよう!」とか「あの木漏れ日の感じがいい、あそこで撮ろう!」と走っていくのが好きなタイプです。幸運にも、今回のキャストはそういうのを好む人たちでした。ただし、大作でそういった撮り方をどうやるのかは考えないといけませんでした。
『キングコング:髑髏島の巨神』という大作を手掛けたからといって、インディーズの監督にさらに敬意が増したということはありません。すでに彼らのことはすごくリスペクトしていますし、両方を経験した今、インディーズと大作は全然違うものでありながら、驚くほど似ていると私は思います。
――どちらに、よりやりがいを感じているでしょうか?
ロバーツ:どちらも、違った意味でやりがいがあります。『キングコング:髑髏島の巨神』はまだ公開されていなくて、私にはとても気になっている部分があるんです。インディーズでは、その映画が良いかどうか?以前の問題があります。私の『The Kings of Summer』は、ライアン・クーグラー監督の『フルートベール駅で』と同じ年に公開されました。彼の映画は私の作品よりもずっと良いですが、問題そこではありません。問題は、「これらの映画について聞いたことがあるか?」です。
『キングコング:髑髏島の巨神』の背後には巨大なチームがいて、その存在を世界に知らせてくれています。本作のトレーラーは、私の前の映画よりも、もっと多くの人が見ているのではないでしょうか。
――それが恐ろしいと感じることもあるのでしょうか?
ロバーツ:怖さもありますが、刺激的でもあります。なぜなら、私は自分のものだと思っていたものが人のものになることに喜びを感じるからです。最初は自分のものだったものが、手を離れて、他の人々にとって別の意味を持つものになるというのは素敵なことです。これからの4~5カ月の間に、本作がどんな意味を持つものになるのか? 非常に気になっています。好奇心でいっぱいですね。――『キングコング:髑髏島の巨神』のキャスティングは、どのような点を重視して行ったのでしょうか?
ロバーツ:いろいろな俳優の可能性について話しました。私は、その役にすんなりはまる人に演じてほしいと思っています。役を理解し、もともとそのためのDNAがあり、私よりもさらにそのキャラクターをわかっているような人です。そして、彼らと役について話し合いたいと思っています。自分なりの視点をもって、そのキャラクターがどうあるべきか?を提案してくる役者もいます。ジョン・C・ライリーは本作でとても重要な役割を担っていますが、それも私たちの会話や実験の結果なんです。
オープンマインドな状態で来て、私に挑戦してくれて、そこから何かを生み出そうとしてくれる役者を私は歓迎します。今回のキャストはまさにそういう人たちだったので、幸運でした。とても多様性のあるメンバーがそろったと感じてもらえると思いますし、私はそれを誇りに思っています。
――監督がゲーム『メタルギアソリッド』の映画化を手がけるという話もありますが、現段階で語れることがあれば教えてください。
ロバーツ:私はゲームが大好きで、アニメと同時にゲームで育ったとも言えます。ゲームの進化はすさまじく、現在では映画よりも興味深い変化を遂げていると言っていいでしょう。『メタルギアソリッド』のクリエーターである小島秀夫さんは新しいことをやっている、とてもエキサイティングですごい人物だと思います。映画化に関していえば、まだ脚本を作っている段階です。ああいう映画を実現させるためには、そろえなければいけないことがたくさんあります。『メタルギアソリッド』はとても特別で、トーンが独特で、複雑な素材です。だからこそ、正しく映画化しなければいけません。
『キングコング:髑髏島の巨神』を見た人は、『メタルギアソリッド』に通ずる何かを感じると思います。『メタルギアソリッド』はいろんなトーンが混ざっていて、ジャンルというもののコンセプトに遊び心をもって挑んでいるゲームなので、私はほかの何よりも慎重な態度で扱いたいと考えています。小島さんの仕事はとてもオリジナルなものなので、映画もそれを反映するものにならないといけません。最後に、登場する怪獣全員のキャッチフレーズを言ってほしくなる、立木文彦さんのナレーションが熱い日本版予告編をどうぞ。
『キングコング:髑髏島の巨神』は3月25日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
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source: 映画『キングコング:髑髏島の巨神』オフィシャルサイト, YouTube
取材:猿渡由紀
(文・構成・編集:スタナー松井)