映画『ネオン・デーモン』ニコラス・ウィンディング・レフン監督にインタビュー:「承認欲求に対するポジティブな答えはナルシシズムかもしれない」

映画『ネオン・デーモン』ニコラス・ウィンディング・レフン監督にインタビュー:「承認欲求に対するポジティブな答えはナルシシズムかもしれない」

女性たちの「美」への執着と情念が渦巻くファッションモデル業界を舞台にした、サイケデリック魔女ホラー映画『ネオン・デーモン』。今回は本作を手がけた、ニコラス・ウィンディング・レフン監督にお話を伺いました。

過去作の『ドライヴ』や『ブロンソン』、『オンリー・ゴッド』などに勝るとも劣らない、バキバキな映像美とシュールかつ強烈な物語を作り上げた監督に、女性の「美」をテーマにしたホラーを作った理由現代の過剰な承認欲求などについて語っていただいています。

170104neondemonnwrinterview1.jpg

――監督は『ネオン・デーモン』の企画の始まりが、「自分が女性に支配されていることに気づき、危険な『美』についての映画を撮りたいと思った」ことだと語っていましたが、ここで言う危険な美とは一体どういったものなのでしょうか? 監督にとっての「美」の基準とは何でしょうか?

ニコラス・ウィンディング・レフン(以下、レフン):私が興味深いと感じているのは、人の「美」に対する執着心の巨大さです。

現代において、「美しい」の定義はどんどん縮小していて、「若さ」が重視されるようになっています。それによって、どんどん美の寿命は短くなっているので、ある意味では消費していくことだけが唯一の答えになり得るわけです。

そこで、美における「より若く」、「より短く」が交錯したらどうなるのだろう?と考えました。ホラー映画を作るアイディアとしておもしろいと思ったんです。

私にとっての「美」とは不完全であることなので、『ネオン・デーモン』の登場人物たちとは違いがあります。個人的には美の世界は女性が支配していると思うので、門外漢としてはその内側をのぞき込むことは非常に興味深いことなんです。

女性の美は男性のために存在している、美の業界は男性が牛耳っているといったことを言う人は多いですが、そうは思いません。美は男性とは関係のない、女性自身の内にある何かだと私は感じています。

170104neondemonnwrinterview2.jpg

170104neondemonnwrinterview6.jpg

――『ネオン・デーモン』というタイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?

レフン:作品の中に登場する、「ある存在」を表現するための言葉を探していたんです。

「デーモン」という言葉を使っているのはホラー、そして悪魔的な感覚を与えたかったからで、同時に「悪魔」とは矛盾しながらも、悪魔を表現するための言葉として派手で、ファッションライクな言葉である「ネオン」を採用しました。2つの言葉をつなげたら、筋が通ったんです。

――本作はロサンゼルスのファッション業界が舞台ですが、監督がロサンゼルス、そしてハリウッドに感じている印象というのも、派手かつ悪魔的といったイメージなのでしょうか?

レフン:ハリウッドの一部はとても悪魔的だと言えますし、派手だとも言えます。そして、同時にとても魅惑的です。ハリウッドは夢の工場ですからね。

ハリウッドは心の状態なのに対して、ロサンゼルスは巨大ではありますが普通の街です。私はロサンゼルスが大好きですが、ハリウッドで働きたいと強く望むことはありません。ただ、ハリウッドのコンセプトは好きです

170104neondemonnwrinterview10.jpg

170104neondemonnwrinterview5.jpg

――エル・ファニングを主演に起用した理由はなんでしょうか?

レフン会った瞬間に彼女しかいないと思いました。他に選択肢はなかったです。エルとジェシーの出身地が同じだったりするのも、エル自身の人生を役に投影させているからです。

――監督の作品の中で死が身近にない世界が舞台なのは本作が初めてだと思います。ホラー映画を作る上でこのような舞台を選んだのはなぜでしょうか?

レフン美への執着の中に死を感じているからですね。美しくあろうというのは人工的な強い願望であり、死体愛好症のひとつの形だとも言えると思います。

170104neondemonnwrinterview3.jpg

170104neondemonnwrinterview11.jpg

――本作で描かれる美への執着、そして他者の美への強烈な嫉妬と嫉妬に狂った末の行為は、現代の承認欲求が強い、そのために手段を選ばない人々のメタファーにも感じられました。

レフン:実際に現代の承認欲求の強い人たちは、それを満たすために可能なことはすべてやっていると思います。整形手術が普及してからけっこうな年月が経ち、そのプロセスは洗練されましたが、同時に自分を物理的に作り変える可能性には限界があることも明らかになりました。

だからこそ、ソーシャルメディアが登場したときに、より自分をどう見せるかをコントロールできる、自分自身を変化させるためのまったく新しい世界が急に開かれたわけです。これまでとはまったく異なる、美がどのように私たちの文化を定義づけるのか?のキャンバスが生まれました。

私たちが今生きている世界では、しょっちゅう「自分が何ではないのか?」といった自分とは異なるものに気づかされ、それについて考えさせられます。その影響で、あれを良くしよう、これを良くしようとしばしば熱望するので、「他人に認められる何か」を探し続けることは普通になっていると思います。

何かを良くしようと思うことは良いことですが、現代の人々の持つ承認欲求は、自身の個性だけでは満足できなくなってしまうという結果を生むことがほとんどです。多くの人は自分自身のポテンシャルに気づくことにではなく、自分ではない何かになろうとすることに時間をかけすぎています

――監督は自身の作品を「こう見られたい」と感じることはあるのでしょうか?

レフン:ありません。認められるには、自分以外の人々の欲求に自身を決定づけさせる必要があると、かなり前に気づきました。個性や単独性を消すためです。それは皮肉にも、本来は創作のもととなるものですけどね。

現代のエクストリームな承認欲求の進化は、同時にエクストリームなナルシズムも生んでいると思います。それは完全なる自己愛なので、エクストリームな承認欲求へのカウンターになるようにも感じています。

他人からの「こうあってほしい」という欲求、またはそれに応えたいという自分の欲求を解放できるのであれば、現代の承認欲求の問題に対するポジティブな答えはナルシシズムなのかもしれません

170104neondemonnwrinterview15.jpg

170104neondemonnwrinterview9.jpg

――監督が映画の作り手を目指すことになったきっかけが『悪魔のいけにえ』だというのは有名な話ですが、ホラー映画である『ネオン・デーモン』にその時に感じたショックは生かされているのでしょうか?

レフン:『悪魔のいけにえ』は14歳のときに観たのですが、それまでは映画らしい映画しか観ていなかったので、自分がイメージとして持っていた映画とはまったく違う作品だと思いました。映画とはこんなにも映画ではないような表現ができるのか!と初めて感じさせてくれた作品なんです。

私は『悪魔のいけにえ』のホラーな部分というよりも、従来の映画らしくない表現にショックを受けました。ただ、それが『ネオン・デーモン』に直接的な影響を与えているのかどうかはわかりません。

――監督にとっての一番の恐怖はなんでしょうか?

レフン:凡庸でふつうですよ(笑)。飛行機に乗るのが怖かったりしますし、子どもたちが安全でありますように、そして世界が平和でありますようにと、いつも願っています。

――女性の欲望に恐怖を感じたことはないのでしょうか?

レフン女性の欲望は恐怖どころか、逆にウェルカムです。

170104neondemonnwrinterview13.jpg

『ネオンデーモン』は2017年1月13日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか、全国順次ロードショー。
もっと読む
名作映画に学ぶ、感情表現を強調する色使い
最も奇妙なイタリア産ホラー映画9選
映画『悪魔のいけにえ』の貴重かつ不思議なNG集

image: © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
source: 映画『ネオン・デーモン』公式サイト, YouTube

スタナー松井

あわせて読みたい

powered by