「HDR写真」とはまた違う、TVの「HDR対応」って具体的になんのこと?

「HDR写真」とはまた違う、TVの「HDR対応」って具体的になんのこと?

今年のCES 2017でも、主にテレビの目玉仕様のひとつとして「HDR」というキーワードが頻出していました。今年登場する500ドル以下のテレビから1,000ドル前後のモニターまで、「HDR対応」していましたが、実際にどういう意味か知っていますか?

デジタル写真におけるHDRとは、ハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range, HDR)の略で、写真の白飛びや黒つぶれをなくして肉眼に近い表現が可能になる写真の表現技法のひとつです。iPhoneにも「HDR」撮影機能が備わっていますよね。HDR写真にすると、写真の明暗差を無くし、CGのような仕上がりにできるので、風景写真や、建築写真や内観写真に向いています。一方、ビカビカに高彩度で過度なテクスチャーエフェクトを施す不自然で派手な「ザ・HDR写真」もひとつの(嫌われやすい)写真のスタイルとして広まりました。

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しかし映像やTVにおける「HDR」の意味は、映像の「輝度」の幅を拡大する技術のことで、デジタル写真における「HDR」とは似て非なる意味合いです。

テレビやモニターでHDR対応するためには、非常に優れたコントラスト比を実現するディスプレイが必要です。主要ハリウッドスタジオや家電メーカー、映像配信事業者などで構成されるコンソーシアムで、4Kを超える映像コンテンツの推進を目指す「UHD Alliance」は、実際にテレビがHDRに対応するために必要とする最大の明るさと暗さを定義しています。

ディスプレイは、1,000nit(nitは明るさの単位、太陽の下でSamsung Galaxy S7の2倍の明るさ)の明るさで、0.05nitまで暗さまで再現可能である必要がありますが、それはほとんどのLEDのテレビで実現されています。

1 「HDR写真」とはまた違う、TVの「HDR対応」って具体的になんのこと?

Rec.709とは、HDTVのカラーレスポンスに関する国際標準で、Webなどでよく使われるsRGB色空間とほぼ同じ。最近までほとんどすべての映画やビデオゲームに使われている色域です。一般的なテレビやスマートフォン、コンピューターはその色域に調整されていました。しかしながら、Rec.709のカラースペースでは、人間の目で見てとれる色域の34%しか再現できないとされています。

そして新しいテレビやモニターでは、より多くの色を再現できるようになりました。ほとんどのハイエンドTVでは、DCI P3という、カラーフィルムの全色域に近くなるように作られる色域で、人間の眼で見える46%まで色域をカバーできるようになります。これは、2016年以降のすべてのApple製品と、最近発表されたInstagramを含む、昨今とても人気のある色域です。

しかしながら、人間の眼で見える半分以下しか再現できない色域はまだまだ改善の余地がありますよね。そのため2012年に、Rec.2020という新しい規格が導入されました。Rec.2020の色域は、人間の眼で見える67%の色域まで再編できるようになりました。それまでのテレビと比べ、映りはより明るくより鮮やか。でも残念ながら、今のところ、この色域を表示できるモニターは市場の中にはありません。

HDR10

では、HDRのコンテンツはどのような規格で提供されるのか。現状最も主流であるHDRフォーマットは、「HDR10」で、ライセンス料金が安価であることも普及の理由のうちのひとつです。現在、HDR対応テレビをつくるすべてのメーカーは、HDR10のコンテンツを再生可能で、Xbox One Sと、PlayStation 4 Proでも使用されているフォーマットです。NetflixとAmazonのコンテンツも、HDR10で再生することができます。

ただ実際には表現の限界というものがあり、HDR10はまあまあといったところ。他の規格フォーマットは再現可能な最良の画質を提供するべく、テレビのクオリティによって調整されますが、HDR10ではそのようなことはできません。もしあなたのテレビが、HDR10のコンテンツによってもたらされる明るさや暗さが完全に再現できたなら、映像ディレクターが意図したとおりの正確な色味を体験することができますが、そうでないならば、シーンが暗すぎたり、光源が吹き飛ばされたり、色味が鮮やかすぎたりする場合もあります。

またHDR10には、拡張性がありません。実際、明るさと暗さのピークレベルや色の再現性が向上するだろう将来のテレビにおいて、HDR10のコンテンツは逆に画質が悪化して見える可能性があります。標準の映像コンテンツを4Kで見るようなものですね。

Dolby Vision

この拡張性の問題に関しては、他のHDRフォーマットで対処されつつあります。昨年導入された、Dolby独自のHDR技術である「Dolby Vision」は、ダイナミックなメタ情報を映像ストリームに入れることができるので、コンテンツ制作者の間で注目を集めています。撮影からDolby Vision対応の機材を使う必要がありますが、現在では多くの映画のメジャータイトルがDolby Vision対応カメラで撮影されているようです。

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しかしながら、Dolby Visionは、映像コンテンツをマスターするために、高価なモニターを必要としライセンス料も高額です。ですので、潜在的に最高品質の映像を再現できる一番未来的なHDRフォーマットとされつつも、現状は幅広く採用されているわけではありません。

ただDolby Visionでマスターされた映画は増え、今年のCES 2017では、ほとんどの主要テレビメーカーのフラッグシップモデルのテレビにおいて、このフォーマットのサポートを発表しました。さらに重要な点として、NetflixAmazon Videoが、昨年このフォーマットのサポートを選択したこともあります。

さらに、Dolby VisionをひとつのHDRフォーマットととして維持するうえでの問題は、そのダイナミックなメタデータに多くの容量を必要とすることです。そのため、すでにインターネット上で何GBものデータをストリーミングしている人にとってはまだしも、テレビ放送でHDRを採用した場合の影響はかなり大きなものとなります。

HLG

そこで、BBCとNHKが並行して開発した「HLG(Hybrid-Log Gamma, ハイブリッドログガンマ)」が登場します。この規格は、テレビ放送を念頭において開発されたもので、メタデータは完全に無視して、受信した信号の中から再生できるものを正確にテレビが判断します。

「HLG」は最新のHDRフォーマットですが、イギリスと日本の最大の放送事業者であるBBCとNHKのサポートや、オープンソースであること、実装コストの安価さから、このフォーマットの採用が増えています。Samsung、LG、パナソニックは、CES 2017でこのフォーマットのサポートを発表しています。

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しかしHDRには、ホームシアターをセッティングするときなどにやっかいな、大きなハードウェアの制限があります。それはHDMI2.0対応のHDCP2.2が必要であるということ。HDMI 2.0は、一般的なHDMI 1.4と同じように見えますが、ポートは高価、ケーブルはさらに高価で、ほとんどのTVには、1.4と2.0のHDMIポートが混在しています。

つまり、テレビでHDRコンテンツを見るためには、ポートをテストし、テレビのアプリの設定を行ない、HDR配信コンテンツを頑張って探しにいかないといけません。Xbox One SまたはPlayStation 4 Proで再生しようとしても、実際にはHDRで配信されていない可能性があります。

フォーマットの混在や、ポートの難しさといった困難を乗り越えれば、HDRの映像はとても美しく素晴らしい体験を与えてくれます。これまで暗すぎて見えなかった深いシャドー、リアリティ溢れる映像、フットボール選手のヘルメットは輝いて見え、より活き活きとして見える映像は感動的です。

HDRを普及させるための技術的課題が次第に克服されて、明るい映像の未来がすぐそこまで来ていることに期待しましょう。

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images: Gizmodo US

Alex Cranz - Gizmodo US[原文
(mayumine)

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