透明の液体の中に、立体像が浮かび上がる。
3Dのディスプレイってもう長年研究されているし、3DTVなんてごく一般的になってしまいました。でも、空間に3Dで描画して、どんな角度から見てもちゃんと立体で見える体積型ディスプレイはまだまだ発展途上です。でも宇都宮大学の熊谷幸汰さんを中心とするチームが、最近興味深い研究成果を発表しました。それは透明の液体の中にレーザーで泡を作って、そこに光を当てて立体像を描き出す仕組み「Volumetric Bubble Display」です。
そのアイデアは、蛍光の液体を使ったスクリーンを作ろうとしていて、強いレーザーで液体の中に小さな泡が生まれることが発見されたことから生まれました。このスクリーンの中身は粘性の高い液体(グリセリン)なので、レーザーでできた泡は移動しません。そのため、この泡を3Dの画素「ボクセル」(Volume+Pixel)として活用でき、光をあてると立体の像ができるというわけです。研究チームはこの方法を使って人魚やイルカ、ウサギといった像を描き、その成果を学術誌Opticaで発表しました。

ただこのVolumetric Bubble Displayはまだ、あくまでコンセプト検証の段階です。描ける像はごく小さなものだし、研究チームによればフルカラーも可能だそうですが、上の動画で見られる例はすべて単色です。また現段階では描かれた像は動かず、静止像しか表現できません。イメージ的には、観光地のお土産でよくある、ガラスの中に立体像を彫ったものを書き換え可能にしたような感じです。このディスプレイで動画を見るためには、液体を動かすとか泡を消すとかして、像を高速で切り替えられるようにしなきゃいけません。
体積型ディスプレイは他にもいろいろ研究されていますが、どれもまだ実用的じゃありません。たとえばボクセルがありありと立体の点描みたいに見えるものもあれば、特定の角度から見ないと立体に見えないもの、やたら大がかりなセットが必要なものなどなどです。一応コンシューマー向けに発売されたものもありますが、999ドル(約11万円)もするわりに、中身の像はぼんやりしています。
熊谷さん自身も、2015年に複数のスクリーンを重ねた体積型ディスプレイ(上)を発表していますし、筑波大学の落合陽一さんとの共同研究では触れるホログラフィー「Fairy Lights in Femtoseconds」を開発しています。体積型ディスプレイの答えは、ひとつではないのかもしれません。
「SF映画で見るような体積型ディスプレイは、我々ディスプレイ研究者の夢です」。熊谷さんは米Gizmodoに対しメールで語っています。彼は、そんなSFの夢の実現まで「あと数年」とも語っています。
「Volumetric Bubble Display」が体積型ディスプレイの未来像なのかどうか、それはわかりません。でも熊谷さんのチームでは、このシステムをより精細にできれば、博物館や水族館といった公共施設の展示物に使えるのではないかと考えています。
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top image: Kumugai et Al
source: Kota Kumagai, Volumetric Bubble Display, Optica, YouTube 1, 2, 3
参考: Columbia University, Engadget
Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文]
(福田ミホ)