ゲームと映画の関係はこれからどうなっていくのか――
ベネディクト・カンバーバッチが主演する、マーベル最強の魔術ヒーローの誕生秘話を描いた映画『ドクター・ストレンジ』。
本作で主人公のストレンジと相対する敵、カエシリウスを演じるマッツ・ミケルセンが先日来日し、『メタルギア』、『Z.O.E』シリーズなどを手がけたことで知られる、ゲームクリエイターの小島秀夫監督と対面しました。
そこで今回は「北欧の至宝」マッツ・ミケルセンと、彼を最新作『DEATH STRANDING』で起用した小島監督に、映画『ドクター・ストレンジ』の魅力、おふたりの出会いのきっかけ、そしてまだまだ謎の多いゲーム『DEATH STRANDING』について、お話を伺いました。
なお、映画『ドクター・ストレンジ』のネタバレが少々ありますので、気になる方はご注意ください。
――映画『ドクター・ストレンジ』の最大の見所はどこでしょうか?
マッツ・ミケルセン(以下、ミケルセン):今回の映画は原作となるコミックスでも描かれた、人類が常に求めつつも疑問を抱かずにはいられない、永遠の命についての物語であり、そこが見所です。そしてコミックで描かれたキャラクターのみならず、アート全体の雰囲気も映像化するという偉業を成し遂げた所も見てほしいですね。
小島秀夫(以下、小島):非常に新鮮な作品だと思います。好きなマーベルの映画はたくさんありますが、その多くが科学の力で生まれた超人や宇宙からやってきたヒーローが悪と戦う、といった話でしたよね。それに対して、本作は今までとは一味違う展開で、西洋医学に見捨てられた人が東洋の神秘に出会ってヒーローとなり、善と悪との対立ではなく時間を扱うという哲学的なところが珍しく、すごく楽しめました。
ちなみに、当時は日本には入ってきていなかったので、もちろん知りませんでしたが『ドクター・ストレンジ』は1963年に刊行されたコミックなので、自分と同い年なんですよね(笑)。
スティーブン・ストレンジという主人公の名前は『ヴィサージ』というバンドのボーカルが「スティーブ・ストレンジ」と名乗っていたのを思い出させます。
ミケルセン:コミックとブルース・リーの映画漬けの子ども時代をおくった私にとって、マーベルは非常に大きな意味があります。だから、今回の映画のオファーはすごく魅力的でした。マーベルの映画でカンフー・アクションができるわけですからね。
特に『ドクター・ストレンジ』は、いわゆるスーパーパワーを手に入れてスーパーヒーローになるというものではなく、自らの内なる力に目覚めるという哲学的なところが魅力です。
小島:私は子ども時代に『ウルトラマン』や『仮面ライダー』を見て育ちまして、最初に出会ったスーパーヒーローはDCの『スーパーマン』でしたね、すいません(笑)。ただマーベルだと、その後アニメでやっていた『スパイダーマン』を見ました。普通の男がヒーローになったり悪党になったりする世界で、もちろんそこにはスーパーパワーによる善と悪の戦いがあるんですけど、最終的には人間のあり方を教えてくれるというのが面白かったです。大人になって改めて見ると、そういった別の構造が見えてきて、子どもの頃に抱いた印象とはまた違うものを感じますね。

非常に古典的な難題であり、映画では永遠の命という形で表現されています。そして、カエシリウスはその目的を達成するためであれば、いかなる犠牲をも恐れない男なんです。
――そして、対立するストレンジが命を救う医者であるというところが、また面白いところですね。
ミケルセン:そうですね。――マッツさんの来日以来、ファンの間では小島監督のTwitterにアップされた、おふたりが仲良く写っている写真が大きな話題になりました。おふたりはどういったきっかけで知り合ったのでしょうか?
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) 2017年1月25日小島:僕が(ゲーム『DEATH STRANDING』の)仕事をオファーしたのがきっかけです。ミケルセン:最初に話したのはスカイプですね。ただ、私は機械に疎いので苦労をしました。それからサンディエゴのコミコンで直接会って、イギリスのスタジオで仕事をしました。
――マッツさんに『DEATH STRANDING』の仕事をオファーしようと考えた理由はなんでしょうか?
小島:『DEATH STRANDING』というゲームの主役はノーマン(・リーダス)で、彼という重力で物語が進んでいくんですが、物語をドラマチックに動かす重力がもうひとつ必要だと感じていました。それにはマッツさんしかいないと思ってオファーをしたんです。ミケルセン:(微笑)小島:一緒に作っていきたいと思っているので、マッツさんと仕事しながら、キャラクターをちょっとずつ変えています。そうやって信頼関係を築いていかないと、やっていけないですからね。ミケルセン:私はゲーマーではないので、あまり詳しくはなかったんですが、共通の友人であるニコラス(・ウィンディング・レフン)から秀夫を紹介されたんです。オファーがあった時に私の息子は興奮して、自分も東京に連れて行ってほしい、秀夫に会わせてほしいと言ってきました(笑)。それから秀夫が、ゲームの制作初期段階の映像を送ってくれたんです。
きっと彼は「まだ荒くて見られたものじゃなかった」と言うかと思いますが、本当にすごく良くできていました。今までに見たことがないような詩的かつ美しい映像で、そこにはゲームとは思えない、飛び込んでいきたくなる世界が広がっていたんです。
秀夫はこれまでに出会ったどの映画監督にも負けないクリエイティブな人物だと感じたので、オファーを受けました。
――『DEATH STRANDING』ではマッツさんは操作可能なキャラクターとして登場するのでしょうか?
小島:プレイヤーはノーマンです。ノーマンになるんです。ノーマンと……ちょっとこれ以上は言えませんね。ノーマンになって、マッツさんと何かをするわけです。ちょっとおかしな意味に聞こえるかもしれませんが(笑)。ミケルセン:どうかな。完成してみないとわからないですね(笑)。――近年ゲームを映画化する動きが増えていますが、それぞれ映画、ゲームに関わるおふたかたから見て、このような流れをどのように感じているでしょうか?
ミケルセン:当然のことでしょう。双方向で影響を受けていくものだと思います。映画がゲームに、ゲームが映画に感化されてクリエイティブな作品が生まれていくと感じます。ゲームは比較的新しい芸術ではありますが、かつて音楽が映画に刺激を与えたように、ゲームもまた映画に刺激を与えていくでしょう。新しいアートというのは常に他のアートにインスピレーションを与えるものです。
小島:映画と違ってゲームはインタラクティブですが、それ以外の世界観作りやキャラクターの演技、VFXといった部分は、技術の進化が進んだことによって、今では映画もゲームもほとんど同じになっています。もう同じ素材を両方で使うなんていうこともできるんです。ただ、最終的な出力が「見る」という形の映画と、「プレイヤーが動かす」という形のゲームは違うものなので、そこでの表現の方法には気をつけなければいけません。
本当に融合し始めていると思うので、新しいコンテンツが生まれるのは映画が先でも、ゲームが先でもいいような状態になっていると思います。だからマッツさんが映画に出ても、ゲームに出てもいいわけですよ。
ミケルセン:私も同感です。それぞれ別のメディアなので別のことができますが、融合して影響を与えあっていくものだと思います。小島:そんなコンテンツを一緒につくれたらいいですね。ハンニバル・レクターであり、デス・スターの設計者であり、筆者が大好きな映画『キング・アーサー』にも出演していたマッツ・ミケルセンと、『メタルギア・ソリッド』以来ずっと憧れていた小島秀夫監督と同時に会うという、うれしさと緊張でショック死しそうなインタビューでございました。
なお、映画『ドクター・ストレンジ』はマッツ・ミケルセンとベネディクト・カンバーバッチという名優の共演が見られるだけでなく、「アクション映画界の至宝」といっても過言ではない、スコット・アドキンスがガイバー・キックを披露する素晴らしいアクション・ファンタジー作品でもあります。
アクションだけでなく、師弟関係やトレーニング描写などにもカンフー要素が感じられるので、マッツさんと同じくカンフー映画が好きであれば間違いなく楽しめることでしょう。
そして、気になる『DEATH STRANDING』が一体どんな作品になるのかはまだわかりませんが、はやくノーマンになって、マッツさんと何かしたい!
映画『ドクター・ストレンジ』は大ヒット上映中。
Photo: ギズモード・ジャパン編集部
image: (C)2017MARVEL
source: 映画『ドクター・ストレンジ』公式サイト, コジマプロダクション公式サイト, YouTube1, 2, 3, Twitter
(傭兵ペンギン)