さっそくドナルド・トランプによる移民入国拒否の影響が...。科学者たちの苦悩の声

さっそくドナルド・トランプによる移民入国拒否の影響が...。科学者たちの苦悩の声

こうなることは想像できたとはいえ…。

今年の4月、複数の北極研究者たちがニューヨーク州北部の米国空軍州兵基地に集合し、LC-130輸送機に乗ってグリーンランドへ向かいます。そこから彼らは、一カ月に渡り氷の大地をスノーモービルで移動しながら中継拠点で計測を行い、北極の氷がどれ程の早さで解けているのかを調べているNASAの支援を行ないます。

ただし、そこでひとつの問題が。チームのメンバーであるSamira Samimiさんが米国に入国できないのです。1月27日、ドナルド・トランプ大統領がサインした大統領令により、イラン人であるカナダはカルガリー大学氷河学博士課程学生であるSamimiさんは、チームへの参加を停止されてしまったのです。これにより、春の計測の準備をしていたチームは大混乱に陥り、Samimiさんは自分の研究の未来を案じなければならなくなりました。

ジョークと悪夢の境目にいる気分です」とSamimiさんは米Gizmodoに語ります。「氷河学者になれそうなところにくるまで長い時間がかかったんです。この研究が私の博士課程の全てなのに」とも。

すべてが間違っています。こんなことが科学のために役立つわけがない」と、数年に渡る現地調査を指揮しているコロラド大学の博士課程学生、Mike MacFerrinさんもこの件に憤っています。

イスラム教徒が主な7カ国-イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメン-からの入国を90日間禁じ、その後はより厳格な入国審査を要請する、トランプ大統領による大統領令の影響を受けているのはSamimiさんやMacFerrinさんだけではありません。

米国の大学で研究を行ない、教授を勤めている、海外生まれの科学者や技術者の多くが、今米国を離れたら入国を拒否されてしまうのではと恐れています。Googleなどのテック企業は、拒否される可能性の高い従業員の中で海外に出ている者に対し、可能な限り早く戻ってくるよう要請しています。一方、現在米国にいる研究者の中には、完全に米国を離れようとしている人もいます。

例えば、イラン人の地球科学者であるSarah(仮名)さんは、とある名門大学に勤めています。「本当につらい数日でした」と彼女は米Gizmodoに語ります。

同じくイラン人である彼女の夫と2人、どちらも米国で博士号を獲得し、博士研究員として勤めています。昨年ともにグリーンカード(永住権)の申請をしていますが、まだ何も返答はないとのこと。彼女の夫の奨学金はあと1カ月で失効します。

「既にカナダへの移民を考えています」とSarahさん。「私たちのような人は山ほどいますよ」

その言葉はまさにその通りで、7,000人の学者と40人のノーベル賞受賞者が署名した公開状によると、過去3年間で3,000人以上のイラン人学生が、多くは科学の分野で米国の大学から博士号を受け取っているそうです。当初はグリーンカード保持者は入国拒否されないと思われていましたが、週末を通して多くのグリーンカード保持者が入国を拒否されてしまいました。Sarahさんたちは就労ビザで滞在しているので、米国を一度出れば、再入国できる確率はより低くなるでしょうし、彼女らの両親や知人も米国に来るというのも無理なわけです。

「刑務所にいるみたい」と彼女は言います。

イラン以外の5カ国の科学者も同じように苦しんでいますが、最も苦しいのは内戦で国を追われ、入国が半永久的に禁止されているシリアの方たちです。「救助の受け入れに確実に影響するでしょう」とScienceに語るのは、危険に晒されている学者を救助し、安全な国での研究を援助する基金、Institute of International Education's Scholar Rescue Fundの代表Allan Goodmanさん。

つまり、トランプ大統領の命令は明らかな人種差別である上にほとんど違法であり、幅広い分野の学問で世界の専門家が米国に入国あるいは滞在するのを困難にしているのです。

「この命令は効力が続く限り、間違いなく、そして即座に頭脳流出を起こすでしょう」とMacFerrinさん。

ハーバード大学、Institute for Theory and Computation(ITC)の理事と天文学の主任教授を勤めるAvi Loebさんは、「私たちの博士研究員と客員研究員の半数は海外出身です」と米Gizmodoにコメントしました。

彼の見解では、今回の大統領命令には、米国の科学を脅かす複数の危険性が含まれているのとのこと。まず、即座に現地調査や国際会議、ワークショップなどの研究活動に支障が出ます。次に、在留資格が不透明になった科学者が、任意的か強制的か、他国に移住することで起こる頭脳流出です。

しかし最もみえにくい危険は、命令が持つ長期的な影響です。彼によれば、この命令は特定の社会を疎外するような空気を作り出してしまい、「それが特に若者にとってどれだけ悪影響であるのか、見当もつかない」と言います。

The New York Timesによると、ビザやその他の移民措置は国務省と国土安全保障省によって「ケース・バイ・ケース」で与えられるそうですが、命令の適用があまりにいい加減で、空港を大混乱に陥れたことを考えると、狙われた人々には慰めにもなりません。

スタンフォード大学でコンピュータ科学を専攻し、人権と統計学を副専攻しているRamin Ahmariさんは、学生ビザを捨てて重病の両親のもとに帰るか、米国に留まって卒業するかで悩んでいるそうです。彼はドイツで育ち、現在は難民のためのアプリと、痴呆の老人の介護を行なっている人のためのアプリを開発しています。イランのパスポートも持っていますが、住んだことはありません。

「当面は米国を離れることはできません。再入国できなくなって学士号を諦めることになるし、それでは勉強した分野で就職できなくなります」と彼は米Gizmodoにメールでコメントしました。「一方で私の家族が病気なので、いつ帰国せねばならなくなってもおかしくありません。米国にいる以上、毎日この決断に悩まされています。それと、私はLGBTなので、当初は米国のオープンなところに惹かれたのですが、それも変わりつつあります」

スタンフォード大学の博士課程学生で、校内のペルシャ人生徒協会の一員であるAdam(仮名)さんは、「会員全員が何かしらの形で影響を受けています。最も悪影響を受けているのは、現在国外にいる、そして最近卒業してグリーンカードの承認待ちの(おそらく申請は却下されるので、通知を受け次第出国しなければならない)人たちです」と米Gizmodoにコメントしました。

また、Adamさんによると、彼のクラスメートは大統領令の発令前に両親に会うために出国しており、他のイラン人生徒同様シングル入国ビザしか持っていなかったそうです。これはつまり、入国するためには新たにビザを申請しなければいけないのですが、大使館は現在ビザ面接の予約を受け付けておらず、既に予定されていた面接もキャンセルされています。すなわち、クラスメートは博士課程を放棄するしかないということになります。

イラン生まれの幹細胞研究者で、アイビー・リーグの大学で博士研究員をしているPaisley(仮名)さんによれば、米国での就職を希望しているイラン人は以前から、何カ月もかかる厳しい身元調査を受けなければいけなかったそうです。「今まで何も調べてなかったわけじゃないんです。私の人生のすべては、もう調べられてるんですから」とPaisleyさん。「何もしてないのに罰を受けている気分です。何より心苦しいのは、全てが突発的で、次に何が起こるか全く予想がつかないことです」

彼女が米Gizmodoに語ったところによると、命令の前は米国に定住するつもりだったそうです。しかし、今はカナダやヨーロッパに研究を発表しに行くこともできず、イランの両親にも会えなくなってしまったため、思い直し始めているようです。「『もう一生母には会えないのだろうか?』なんて考えながら、学問のことなんて考えていられません。皆どうしていいかわからなくて、閉じ込められている気分です。大統領令は恐怖を呼び、家庭を壊し、科学の発展を止めるでしょう

Sarahさんにとって、大統領令は皮肉の塊のようなものです。そもそも2人は、宗教差別から逃れるためにイランを出たのでした。しかし今2人は、信者ですらないのにイスラム教との関係で狙われているように感じるのです。

「私たちは無神論者だからイランを出たのです。国籍や宗教の有無を問わない、自由な土地での生活を求めていたのに。今回の出来事はひどく傷つきました」とSarahさん。

さて、最後に冒頭で伝えたカルガリー大学のSamimiさんは、現在、同僚たちと彼女が4月の調査に参加できる方法を大急ぎで模索しています。グリーンランドの交通の拠点であるカンゲルルススアークまで、アイスランドかデンマークを通じて彼女だけが自費で行くという方法はあります。しかし、カンゲルルススアークから調査拠点まで、チームは別の米軍機に乗らなければなりません。大統領令がSamimiさんの乗る米軍機にまで効力があるのかどうか、現在は不透明です。もし搭乗できなければ、グリーンランドまで行く意味もありません。

「16才から氷河学者になりたかったんです。これが私の夢なんです。たった一人の男に、私の夢は潰させません」

トランプの移民入国拒否の大統領令でテック界パニック。一方イヴァンカちゃんは…

image: bakdc / Shutterstock, Inc.
source: TechCrunch, Academics Against Immigration Executive Order, Science, ACLU, The New York Times(1, 2), CNN

Maddie Stone - Gizmodo US[原文
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