革命的一人称視点映画『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー監督にインタビュー:「映画史上誰も実現していないことがいくつかある作品だと思う」

革命的一人称視点映画『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー監督にインタビュー:「映画史上誰も実現していないことがいくつかある作品だと思う」

全編がFPSゲームかのように一人称視点で撮影された、まったく新しいライド型アクション映画『ハードコア』。

本作はメディアアーティストの落合陽一さんが「これはもう映画じゃない、バーチャルリアリティだ。一人称視点で描かれる浮遊感・血生臭さ・焦燥感・そして映像酔い・映画史に残る先端の試みを噛み締め、全てを愉しむしかない!」と表現していることからもわかるように、斬新な映画体験が魅力の映画です。

そこで今回は『ハードコア』を手がけたロシア出身の新進気鋭、イリヤ・ナイシュラー監督に、製作の裏側、そして日々近づき続けているゲームと映画の表現の未来などについて、お話を伺いました。

『メタルギアソリッド』シリーズでおなじみのゲームクリエイター、小島秀夫監督についての熱い発言も飛び出しています。なお、本編のネタバレがやや含まれていますので、ご注意ください。

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――『ハードコア』はFPSゲーム的な視点で全編が描かれている作品ですが、「映画」として成立させるために一番気をつけたのはどういったところでしょうか?

イリヤ・ナイシュラー(以下、ナイシュラー):映画は90分という時間の間、観客の興味をずっと最後まで引っ張っていく必要があります。

たいていのゲームは、プレイしている最中に止めて途中でどこかへ行ったり、他のことをやって時間をおいてまた戻ってきたりといったことができますが、映画館で上映される前提である映画はそういうわけにはいきません。90分間でストーリーを完全に伝えるために、観客が最後まで飽きないように見せることが、一番難しかった点であり、注意した点です。

――本作の撮影において、何が技術的に一番難しかったでしょうか?

ナイシュラー:GoProで撮影したのですが、GoPro自体は複雑ではありませんし、他のカメラと同じように扱えました。信号をどう送ったらいいのか?といったテクニカルなことは考えれば解決できましたしね。

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ヘンリー役はGoProを搭載した専用のカメラを装着

最も複雑だったのは、レファレンスがなにもなかったことです。普通の映画であれば、たとえば3人が会話しているシーンを撮るというときに、どうすれば上手くいくのか? そして、どうやったら自分なりのひねりを加えられるのか?といったことをいろんな過去の映画から学べます。

『ハードコア』はある意味では運任せでした。何本かのMV、1947年の『湖中の女』、さまざまな映画の中でのシークエンスとして一人称視点の映像は存在しますが、ものすごく上手くいっていると感じられるものはほぼありません。ただし、『ストレンジ・デイズ』のイントロだけはすばらしいと思います。映画作りは常に難しいものですが、『ハードコア』はその中でも特に大変でした。

チームの努力でなんとか実現できましたが、112日間の撮影はジョークではありません。今の映画は撮影にこれほどの時間はかけられないので、私たちがロシアにいて、ビッグバジェットではないものの十分な予算があり、プロデューサーに理解してもらえたのは本当に幸運です。正しい映画の作り方ではなかったと思いますけど(笑)、『ハードコア』に関してはこれしか作る方法がありませんでした。30日間の撮影では絶対に作れなかったですね。

――アクションシーンで一番こだわった、そして苦労したのはどういったところでしょうか?

ナイシュラー:一番大事なのは一人称で撮影しているという意味でも、観客は主人公のヘンリーと同化したままストーリーを追いかけているという点です。それはアクションに関しても同じですね。

自分自身が何で何をしているのか? どういうアクションをしているのか?を観客に体感させなければいけません。殴ったときの気持ち良さみたいなものを感じさせつつも、次に何が起きるのか? 次に自分は何をしなければいけないのか?をちゃんとヘンリーの目線で追いかけられるようにするというのが難しかったので、何度も何度も撮り直しました。

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いくつかのシーンでは監督自身も演じており、合計10人以上もの人間がヘンリー役を務めています

やり方としては、カメラリハーサルをやる余裕がなかったので、殺陣のリハをやった後にいきなり本番のカメラを回しました。そうすると必ず何かがおかしいことに気づくんですね(笑)。その場その場でどんどん変えながら、いろんなアイディアを試しながら、撮っていくという即興性の高い撮影でした。というのも、もともと自分が書いた脚本の中にはセリフだけで、アクションについてのト書きがいっさいなかったんです。

ロシアのモスクワから100キロくらい離れた郊外の廃墟みたいな場所へ行き、ロケハンをした上で、リアルな場所で、リアルに感じられるアクションとはどういうものか?というのを自分とスタント・コーディネーターで組み立てて、アイディアをためこんだ上でリハーサル、そして撮影といった段階を踏みました。それでも撮影中にどんどん変更していったので、アクションに関しては試行錯誤の連続でしたね。

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――監督にとって優れたアクションシーンとはどういったものでしょうか?

ナイシュラー:アクションそのものは殴ったり蹴ったりという、非常に原始的でシンプルなものでも、誰も見たことがない、新しい何かがあるというのが、私にとって一番魅力的なアクションシーンです。そういう瞬間がある作品こそ、すばらしいアクション映画だと思います。一言でまとめるなら、「驚きがある」ことです。それは、ほんの小さなディテールかもしれませんし、ちょっとしたパンチやキック、環境の使い方かもしれません。

確かロバート・マッキーだったかと思うんですが、「良い映画は常に観客の期待とリアリティーの隙間にあるギャップを扱っている」と言っています。「こうなるんだろな」という想定をわずかに裏切る、超えてくるものが良いシーンや良いセリフです。

殴る、撃つといったシーンの中にはおもしろい、細かいディテールをたくさん加えることが可能です。そういったディテールを通して観客に驚きを与えることに、『ハードコア』は何度か上手くいっていると思います。本作は息継ぎのない、一回のライドのような映画なので、観客を常に驚かせていなければいけませんし、注意を引き続けなければいけません。なので、若いころの自分が観客であることを想定して作りました。もし、少年時代の自分が『ハードコア』を観たら、生涯のベスト映画になっていたと思います(笑)。

15歳のころ、『マトリックス』にぶっ飛んで、友だちと毎週末のようにくり返し観ていました。公開された当時、ロシアではあんまり話題にならなかったので、ひどい海賊版のVHSで毎回観なければいけなかったことにイライラしたのをよく覚えています(笑)。『ハードコア』もそういった、くり返し何度も観ても驚きの感じられる作品にしたかったんです。

本作にはスタントや一人称視点だけでなく、もっと一般的な観点においても、映画史上誰も実現していないことがいくつかあると思います。ふつうのカメラでふつうのセッティングで撮ったシーンでも、息を呑むような緊張感が作れましたしね。

ギャレス・エヴァンス監督の『ザ・レイド』は最高のアクション映画ですが、自分が一生忘れないのは、破れてとがったドアの破片に敵の首を叩きつけて殺すシーン(下の動画参照、閲覧注意)です。映画館で観ていて、観客全体が「Uh...!」と驚きの声を上げたことを覚えています。私が『ハードコア』でやりたかったことは、90分間の「Uh...!」であり、90分間の「Uh...!」こそが本作の意図です。

LegendaryOn99より

――最後のバトルシーンの浮き上がった身体を足場にして飛んでいく姿は、どこか『スーパーマリオブラザーズ』のようなアクションゲームの要素を感じましたが、どういった狙いがあったのでしょうか?

ナイシュラー:グッド! 気づいてくれてありがとう(笑)。あのシーンはまさに『スーパーマリオブラザーズ』を狙いました

私は高所恐怖症なので、自分には怖くて絶対に体験できない、したくない最高にスリリングなシーンを作るにはどうしたらいいのか?と考えたときに、高層ビルの谷間で、しかも浮いているものの上を飛んで渡っていくという最高に痛快なアイディアを思いついて、マリオをイメージしながら作っていったんです。

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――映画とゲームは最終的な出力は「見る」、「プレイ」するという違う表現なものの、技術の進化によって世界観の構築、キャラクターの演技、VFXといった面は、今現在ではほぼ同じになっていると、以前ゲームクリエイターの小島秀夫監督が語っていました。ナイシュラー監督は映画とゲームは似ていると感じているでしょうか?

ナイシュラー:映画とゲームに共通点はたくさんありますが、両方とも根本的には「エンターテインメント」です。映画やゲームに限らず、音楽や本といったいろんなメディアも最終的にはエンターテインメントであるべきだと自分は思っています。そして、エンターテインメントは観客を楽しませることが最も重要です。

ただ、ゲームは映画ほどストーリー性がそこまでなくても楽しめます。それに対して、映画には最後まで人を惹きつけるストーリー性が必要です。そういった点では少し違うかもしれませんが、ゲームはゲームなりに、映画は映画なりに観客を飽きさせない仕掛けや工夫を制作者たちはたくさんしています。

しかし、最近は自分も含めて注意力が散漫な人が多く、子どもたちに至っては10秒間しか集中力がもたないと言われている世界です。映画を一本最後まできっちり観ることすらできない人々が増えているので、相当内容の濃いものでなければ楽しませることは難しいと感じています。私も制作者として観客の集中力の短さと戦っていますが、まだまだ勝ててはいません。

『ハードコア』も含めて、自分が今後作っていきたい映画は観客の記憶にいつまでも残る、観たらすぐに忘れてしまう作品ではなく、金曜日に観た映画の話を月曜日になっても友だちとまだしている、何年先になっても時たま思い出すような印象深い作品です。それこそが良い映画だと思いますし、それはゲームも同じだと思います。私も初めて『スーパーマリオブラザーズ』をプレイしたときのワクワク感や高揚感は今でも覚えていますから。

――映画とゲームがより近づいていくことで、『ハードコア』のような新しい表現の作品が今後も生まれる可能性はあると思いますか?

ナイシュラー『ハードコア』は10年前には実現しなかった映画だと思います。自分の映画と比べるわけではありませんが、『アバター』といった作品もそうでしょう。

技術の進化やクロスメディア、さまざまな技術やメディアがさまざまな形で交わることによって生まれた新たな表現方法であったり、新たな見せ方であったりというのは、今後もどんどん増えていくと思います。最近ではVRを使ったストーリーテリングなども、いろんなメディアで増え続けていますしね。

自分自身も映画作りにフォーカスはしつつも、その中で映画的な手法を使ったゲーム制作に挑戦する機会があれば楽しいんじゃないかなとは考えています。

すこし本筋とは脱線してしまうんですが、名前を挙げていたのと私が『メタルギアソリッド』シリーズの大ファンなので、少し小島秀夫監督について話しますね(笑)。私は小島秀夫監督にぜひ映画を作ってほしいんです。彼であれば、ゲームの世界観を思いっきり拡大した、クレイジーで観客の度肝を抜くような作品が絶対に作れると思います。小島秀夫監督のゲームのキャラクター描写はとても映画的で、感動してうるうるしたほどなので、彼のゲーム自体を彼が映画化してもきっと上手くいくでしょう。

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――『ハードコア』の続編の製作、または同じ撮影方法での違う作品の製作は考えているのでしょうか? 一人称視点の映画に可能性はまだあると感じているでしょうか?

ナイシュラー:正直なところ、一人称視点の作品はもう作らなくていいかなと思っています(笑)。『ハードコア』とThe Weekendのために作ったMVで、ひとまずはやりきったなと感じているので、次は伝統的な手法のストーリーテリングで作品が作りたいです。

TheWeekndVEVOより

『ハードコア』は112日の撮影、1年半のポストプロダクション、半年のひとりでの編集と、完成までに3年間がかかりました。もし2作目を作るとしたら、ノウハウや理解が深まっているので、おそらく半分くらいの期間で作れるとは思うんですが、もともとスタンダローンな作品として作りましたし、今の段階では続編は必要ないと考えています。

ロシアや欧米に限らず、アルゼンチンやイラン、本当に世界中の人たちから、TwitterやFacebookを通じて『ハードコア』風の短編動画が自分のもとには届いているので、インスピレーションを与えられたと思っていますし、一人称視点の作品に可能性はあると思います。インスピレーションが飛び火して、新しいクリエイターや作品が生まれていくのは驚くべきことですし、とても光栄なことです。

はたして全編一人称視点の長編映画に挑戦する人が現れるのかどうかはわかりませんが、私たちと同じ問題に取り組んで、解いていった作品がどういうものになるのか?は興味がありますし、観てみたいとは思います。

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Klockworx VODより

映画『ハードコア』は4月1日(土) より、新宿バルト9他全国ロードショー。
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FPS体験映画『ハードコア』のVFXビフォー・アフター

image: ©2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
source: 映画「ハードコア」公式サイト, YouTube123
reference: Wikipedia

スタナー松井

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