ソニーが考える「イノベーション」とは? 体験の時代だからこそ、ものづくりを何より大切にしたい #SXSW

ソニーが考える「イノベーション」とは? 体験の時代だからこそ、ものづくりを何より大切にしたい #SXSW

テキサス州オースティンで開催中のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)にソニーが出展した、テクノロジーとエンターテインメントの融合で「WOW!」を生み出す「The WOW Factory」。

古倉庫を改装したポップなブースデザインや技術の説明よりも実際に遊ぶことを重視した体験型展示など、「これまでのソニーとぜんぜん雰囲気が違う!」と話題になりました。

「The WOW Factory」はどのような発想で生まれたのでしょうか? ソニー株式会社ブランド戦略統括部長の森繁樹さんに現地でお話を伺いました。

ソニーがやっと帰ってきた

――近年「ソニー復活」と頻繁に言われていて、実際にそう感じている方も多いと思います。ソニーの変化について、社員としてはどう実感していらっしゃいますか?

森繁樹さん(以下、森):「やっと普通に戻ってきたな」と(笑)。業績が芳しくない時期があって、平井一夫社長が構造改革を2012〜2015年で行ないました。いまは次の成長に向けての年なんですが、これが始まるタイミングで平井社長が「Life Space UX」などの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」をスタートさせました。

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:我々社員にとって、平井社長自らがリードしてくれたっていうのは非常に大きいことだったんです。それまで抑え気味でやらければならない時期もあったのですが、一気に窓が開いたと感じました。「自分たちもチャレンジしていいんだ」とひとりひとりが思い始めたんです。もともと社員が持ってた情熱にちゃんと火がついたんですね。

――2016年から始まった「It's a Sony展」ではかつてのプロダクトを振り返りましたね。これも何か変化のきっかけになったのでしょうか?

:2016年はソニーの70周年で、ソニービルの50周年でした。ソニービルはソニーの歴史をトレースしていると言える象徴的な存在ですから、今までずっとソニーファンでいてくださった方々に昔のソニーとこれからのソニーをお見せしたかった。ただ意外だったのは、来場者に若い方も多かったことです。そして懐かしむ視点ではなく、彼らの若い目から改めてかつてのソニーのプロダクトを見て、「かっこいい」と反応してくれた。これは新鮮でした。

イノベーション」という言葉がありますが、新しい技術が必ずしもイノベーションではないんです。古い技術であっても使い方によって、人の生活を変えたり、気づきを与えたりと価値を生むことができます。技術の新しさはもちろん必要ではありますが、それを競うだけではもう限界になってきている。

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これまでのソニーがあったから生み出せた「WOW」

――「The WOW Factory」全体を見て、役に立つ最新技術というよりはエンターテインメントそのものがテーマになっているのかなと感じました。

:「The WOW Factory」は、ソニーにとって自然な形ではないかと思います。そもそもソニーは生活を便利にするものを作っているというよりは、生活を豊かにするものを作ってきた企業ですから。「WOW」にこめた意味は「感動」です。まったく初めての体験をしたり、想像していたことと違うことが起こったりしたら驚きますよね。お客さまに感動を届けるために「我々のテクノロジーとエンターテインメントを融合させると、どんなことができるだろう?」と考え、さまざまなトライアルが集まったのが「The WOW Factory」なんです。

――VRをテーマにしたものも多かったですが、そのアプローチはヘッドマウントディスプレイ(HMD)に縛られていなかったのが印象的でした。

:VRと言うとHMDを想像しがちですが、一種の表現の仕方にすぎません。映像だけでなく、ハプティクス(触覚)やバイノーラル録音などの聴覚、いろいろな感覚がVRの対象になるはずなんです。視覚は人間の感覚の多くを占めていて、VRの効果が出やすいのでまず視覚に取り組むのは自然なことだと思いますが、我々はそれに加えてセンサーなどの技術をたくさん持っています。

例えば『“Road to Raccoon City” バイオハザード: ザ・ファイナル』の体験では、センサーとスピーカーを使って、スピーカーで振動を起こしています。新しいもの、これまでソニーが作ってきたもの、ソニーの持っているユニークなテクノロジーを組み合わせていろいろなことが実験できます。

ソニーが考える「イノベーション」:モノより体験の時代だからこそ、ものづくりを何より大切にしたい2
『“Road to Raccoon City” バイオハザード: ザ・ファイナル』ではHMDではなく3Dグラスを、そしてゾンビに襲われるのと連動してハプティクス(触覚)を与えるベストを着用した

:今回、エレクトロニクスとエンターテインメントが完全融合したなと感じました。『バイオハザード: ザ・ファイナル』で実際に使用したCGを提供してくれて、一緒にエンターテインメントをつくろうよと言ってくれたり、『スパイダーマン:ホームカミング』をテーマにしたボルダリングもこの技術だったらこう料理したら面白いよねとか、こう料理するんだったらこの技術もうちょっとこうしたら面白いよねとか、相乗効果があって今の形になっているんです。

「ものづくり」はずっと変わらない

――ものから体験へとテクノロジーのあり方が変わっていく中で、ソニーのマインドも変わっていきますか?

:「ものを作る」ということに対する根幹は変わらないと思います。クオリティにこだわるということです。平井社長が「ラスト・ワン・インチ」と提唱していますが、人間が実際に触ったり見たりしたときの感覚はとても大切にするべきです。

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デバイスの周りに流れる空気の動きを音に変換する「モーションソニック」

:「モーションソニック」は動きを音に変えるリストバンド型のウェアラブルデバイスで、社員がコンセプトから作り上げたものですが、最初の実験機は手首のフィット感がいまいちでした。腕を動かすのとちょうど同じタイミングで音が鳴ってほしいのに、手首からずれたときに音が鳴ってしまう。これだけでぜんぜん気持ちよさが違ってくるんです。だからフィット感を突き詰めることがすごく大切で、そこから「バンドの形状は?」「素材は?」といったこだわりが出てきた。

――人間の感覚を左右する最後の接点、ハードウェアへのこだわりが大切だと。

すごく重要です。いくらクラウドの時代になったと言っても、クラウドって頭で想像して見えるものではないですよね。結局は何らかのハードウェアを通して見ることになるわけです。そうなると、そのハードウェアは人間にとって快適だとか驚きのあるものでないと価値を生み出せない。だから「ものづくり」はずっと大切にするべきです。

自己満足で終わらない「感動」のために

――SXSWには実際に開発をされているエンジニアの方が来られているんですか?

:はい、ほとんどの出展スタッフがエンジニアがです。今回、どのブースにもスペック表や技術的説明は一切出していません。これはなかなかやらないことなんです。「何マイクロの計測ができるようになりました」とか「4K、8Kから16Kに進化しました」とか、技術をアピールする見せ方もあります。ただ、それではもうお客さんは感動しないということが彼らにはよくわかっているんだと思います。

「この技術を使ってどういう風にお客さんに提示したらおもしろがってもらえるだろうか?」というところからいろんなアイデアがでてきました。例えば、視界を混ぜて鬼ごっこをする『Superception』では人の視覚を自分が手に入れるとどうなるか?ということをテーマにしています。裏側ではいろんなややこしい処理をしてるけど(笑)、体験者には理解してもらう必要はないんです。

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Super(超)+Perception(知覚)で「Superception」と名付けられた、視界ごちゃまぜ鬼ごっこ

:ただの技術の集まりが、「The WOW Factory」のような体験型のブースになるまでには相当の工夫があったはずですよ。だからエンジニアはみんな目がキラキラしています。自分たちがトライしていることを誰かに見てほしくてしょうがないんです。「The WOW Factory」では完成形を見せることは意識していません。ゆるいR&Dレベルのものについて、さまざまな業界の方からフィードバックをいただくいい機会だととらえています。

――直接、体験者からフィードバックをもらうことは「ものづくり」においてどんな意味があるのでしょうか?

直接フィードバックを聞くことは、とても大切です、すっごく大事。又聞きして仕様化することもできますが、直接フィードバックされたことを自分がどう感じるかというのは、エンジニアリングにとっての宝です。本来はそうあるべきで、昔は実際そうだったんでしょうけど、距離があることが普通だった時代がありました。その中で新しいテクノロジーやソリューションがあふれてきて、みんな何を見ても聞いても驚かなくなってしまった。

だからこそ、もう一度「人がどう感じるか」に戻る必要があります。人がどう感じて、何にどういう反応をして、どういうときには痛いと思って、どういうときに素敵と感じるのか。そこを突き詰めないと、どんな研究開発をしたってものにならないんですよ、自己満足で終わってしまう。そして閉じこもって開発していると、その枠からは出られません。どんどん新しい知見を入れる機会があるから新しいことが生まれます。だから、ソニーもどんどん外に出ていきたいと思っています。

【もっと読む】 WOW!が飛び出すソニー遊びの工場「The WOW Factory」潜入レポート

image: ギズモード・ジャパン
source: SXSW, ソニー

(斎藤真琴)

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