大きな岐路に立っているのかもしれません。
「wwwの生みの親」「Webの父」などの異名を持つ、ティム・バーナーズ=リー。彼がwww(World Wide Web)を考案してから、決して短くない月日が流れました。
言うまでもなく、我々はWebに計り知れないほどの恩恵を受けているわけですが、それを考案した張本人はその未来に一抹の不安を抱いていることが、イギリスのThe Guardian紙にて発表されました。
今もなお、Webのオープンスタンダードを開発するWorld Wide Web Consortiumを指揮するバーナーズ=リー。はたして彼は、どのようなことを懸念しているのでしょうか。
1. 個人情報を管理しきれていないバーナーズ=リーは、サービス利用の度に同意させられる長ったらしい利用規約が嫌いのようですが、それよりもっと懸念を抱いているのは、利用者の許諾なく個人情報を収集しデータを監視する政府などの活動のようです。彼は、このようなデータ収集がオンライン上での好ましい活動を萎縮させると考えています。2. 誤った情報が簡単に広まってしまう
ウソ、デマ、捏造…。Webには根拠のない偽情報が溢れていますが、先日の米大統領選しかり、残念ながらそれら偽のニュースは、時に本物よりも簡単に広まってしまいます。バーナーズ=リーも、この問題については非常に憂慮しているようです。3. 政治的利用の難しさ
バーナーズ=リーは、政治家が対象となるグループごとにメッセージをころころと変えることに問題意識を抱えており、その要因の1つとしてターゲティングされた広告を挙げています。「ターゲットごとにセグメントされた広告は、その対象ごとにまったく異なる、時に相反するメッセージを伝えることも可能にしています。それは本当に民主的といえるでしょうか」
これら3つの問題は、Webの根底を揺るがしかねない大きな問題です。しかし、ただ未来を憂いているようなティム・バーナーズ=リーではありません。解決策もきちんと考えているんです。以下がそのアイデアたちです。
1.「Data Pods」は、人々がより個人情報を管理しやすくなる1つの方法です。バーナーズ=リーは、MITやQatar Computing Research Institute(QCRI)と協力し、「Solid(Social Linked Dataの略)」と呼ばれるプロジェクトに取り組んでいます。これは、個人情報を利益に変えるような企業からデータを守ることが目的です。具体的には、ユーザーが企業へ情報を提供することと、それを取り消すことがより簡単にできるようになることを目指しています。また、データのアプリケーション間の移動も比較的容易にできるようになるとしています。
2. 少額での決済や寄付を可能にすることで、出版など広告料を主な収入源としているサービスの改善につながると考えています。これにより、トラフィックの増大=広告収入の増加、という現在のビジネスモデルを変え、ターゲティングをするために個人情報を利用することを回避できるとしています。
3. 必要に応じて、政府相手でも裁判で訴えること。これは今でも割と行われていますが。
4. FacebookやGoogleといった「インターネットの巨人」たちがフェイクニュースなどに対し、より毅然とした態度で臨むこと。
5. 我々の生活の透明性を高めるための、新しいアルゴリズムの模索。その一例として、機械学習における公平性、説明責任、透明性の原則をFAT/MLで挙げています。
6. オンラインでの政治的な広告について、テレビやラジオなどと同等レベルの規制を設けること。
これらを実現するのは簡単なことではありません。特に規制が厳しい国の政府などは、これからもオンライン上で強権を振るう可能性がありますし、すでに多くのインターネット企業が独占的な個人データを保有し、それを応用したビジネスを展開しています。
バーナーズ=リーもこれらの諸問題がすぐに解決されるとは考えておらず、彼自身が創立したWorld Wide Web Foundationにおいて向こう5年間、この問題に取り組むと宣言しています。
Webの生みの親がこうした懸念を抱えているのは、非常に憂慮すべき事態かもしれません。インターネットの未来のために、我々自身ができることも考えなければいけませんね。
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image: Wikipedia
source: The Guardian, W3C, FAT/ML, World Web Web foundation
reference: MIT, Qatar Computing Research Institute(QCRI)
Rhett Jones - Gizmodo US[原文]
(渡邊徹則)