「ヒトを食べると何キロカロリー?」各部位のカロリー探る、食人の本当の動機

「ヒトを食べると何キロカロリー?」各部位のカロリー探る、食人の本当の動機

Jim Cooke / Gizmodo US

栄養源とすることより、精神的な意味が重要だった?

人間の肉を食べる行為(=カニバリズム)、って人類最大のタブーのひとつですが、じつは人間は有史以前からさまざまな理由で人肉を食べてきました。その理由は複雑で、よくわかっていない部分も多々あります。文化人類学者の中には、先史時代の食人は栄養の確保が目的だったと考える人もいますが、新たな研究によれば、人間の肉の栄養価はそれほどでもなかったようです。つまり他に食べ物があるなら、わざわざ人間の肉を食べるほどじゃなかったと考えられるのです。

Scientific Reportsに掲載された新たな論文では、人間の体を部位ごとにカロリー計算しています。頭のてっぺんから足の先、皮膚から内臓まで余さずそのカロリーを測ることで、先史時代の食人の理由を考えようとしたのです。この論文の著者であるブライトン大学の考古学者・James Cole氏は、人体のカロリーを、同時代に存在した他の動物のそれと比較もしています。

そこでわかったのは、人間は脂肪やたんぱく質といった点で、同等の大きさの動物と同じくらいはあるということでした。でもより大きな獲物、たとえばマンモスやケブカサイといった動物と比べると、人間ひとりのカロリーははるかに少ないのです。これによって、先史時代の人肉食の動機を読み解くには、栄養といった側面よりも、文化や社会、宗教といった側面を考慮する必要があると、Cole氏は示唆しています。

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チャールズ・E・ゴードン・フレーザー(1863〜1899年)「ニューヘブリディーズ諸島、タンナ島の人食いの宴(image:Cannibal feast on the Island of Tanna, New Hebrides / Wikimedia Commons

「食人の目的は栄養摂取」という主張

今から約260万年前から1万年前までの旧石器時代、古代人や原人たち(絶滅したヒトの種も、我々の直接の先祖たちも)は、食人行為を行なっていたことがわかっています。その証拠としては、人の化石に残る肉を取り去った痕跡や関節周りの切り込み、人間がしゃぶった跡、そして骨髄を取るために割られた人骨などがあります。

人肉食の動機はいろいろ考えられており、宗教的儀式や埋葬のため、敵を脅かすため、または病人や老人を間引くためといったものがありますが、栄養を摂るためだったとする説もあります(たとえばこちらこちらこちら)。でも栄養が目的という主張には裏付けがほとんどなく、また人肉食のメリットを定量的に示す方法もこれまでありませんでした。そこで人肉のカロリーが、食人の目的が本当に栄養だったのかどうか考察することができます。

人間の各部位のカロリー

「私が知る限り、人体のカロリー基準が作成されたのはこれが初めてです」とCole氏は米Gizmodoに語りました。しかもCole氏は、人間のどこにどれくらい可食部があってそれぞれ何キロカロリーか、細かく分析しているんです。

でも人体のカロリーってどうやって測ったんでしょうか? 一般的な食品のカロリー測定方法はいろいろあって、ペースト状にしたり加熱乾燥したりするらしいんですが、今回の研究目的では(幸い)誰もペーストにはなりませんでした。既存の論文で、亡くなった人の献体の化学組成分析したものいくつかあって、Cole氏はそのデータを使いました。

Cole氏は過去の論文に記された男性4人のデータを元に、人体の各部位の平均重量と、脂肪とたんぱく質から得られるカロリーを計算しました。体の大きさや筋肉や脂肪の量には個体差があるし、Cole氏が参照した論文が書かれた1940〜1950年代のヒトの体つきと、旧石器時代のヒトや、我々ホモ・サピエンスより大柄だったとされるネアンデルタール人の体つきには違いがあると思われます。とはいえ、旧石器時代の原人が20世紀のヒトより10倍も大きかったり小さかったりするわけじゃありません。

というわけで、こちらがCole氏の分析結果を表にしたものです。

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人間の各部位のカロリー(image:James Cole - Scientific Reports

見方がわかりにくいんですけど、一番上の「Skeletal Muscle(骨格筋) [total]」は「*Torso and Head(胴体と頭)」〜「*Calves(ふくらはぎ)」までの合計。一番下の「Total*」は、頭に「*」が付いてる項目の合計。下から2番めの「Total」は、「*Torso and Head」〜「Solid(その他の固形部分)」までの合計です。

ざっと眺めると、まず体重66kgの成人男性を頭の皮膚から筋肉、内臓まで全部食べると、14万3771kcal もあるそうです。そのうちいわゆる「肉」っぽい、筋肉の部分は約3万2000キロカロリーです。部位別でカロリーが高いところを言うと、もも肉は約1万3000キロカロリー、上腕部が約7,000キロカロリーと、鶏で言えばモモと手羽元のところが食べ応えがあるみたいです。

肉以外の部分でいうと、骨髄があるせいか骨が意外とあなどれなくて、全身で2万5000キロカロリーもあるそうです。内臓系も、脳とか脊髄が合計2,700キロカロリー、肝臓も約2,600キロカロリーあって、それぞれ成人男性が1日ちょっとしのげるくらいです。さらには歯にも若干の栄養があって、40グラムで36キロカロリーとのこと、非常時のために知っておいて損はないかもしれません。

そしてCole氏は、これらのカロリーを、食人が行なわれていた地域に存在した別の動物、たとえばマンモスやケブカサイ、原牛、野牛、イノシシ、ウサギ、シカなどと比較しました。その結果、人間の栄養価は同等サイズの動物とは同じくらいなのですが、大きな動物と比べればはるかに少ないものでした。極端なケースでは、体重3トンのマンモスの筋肉量は1.8トン、カロリーにして360万キロカロリーもあります。これだけあれば、200人が1週間食べていけます。マンモスほどじゃないにしろ、ケブカサイなら1頭で126万キロカロリー、野牛なら61.2万キロカロリー、巨大なシカなら16.4万キロカロリーでした。

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人間と動物の、筋肉量とカロリーの比較(image:James Cole - Scientific Reports

カロリー目的の食人は、合理的ではないしリスキー

「この研究によって、人間やヒト科の動物は、ヒトの祖先が常食していたウマなどの動物と比べると、カロリーが特に高いわけではないことが示されました」とCole氏。「なので、食人行為の動機が栄養上の必然だったのか、または資源防衛やそれに類する社会的な理由だったのか、という問題提起をしたいのです」

この論文の背景にある考え方は、カロリー摂取のためには、人間を食べるよりは動物を捕まえるほうが合理的だったのではないかということです。それは食べる相手が同じ集団の仲間でも、部外者でも同様です。

「自分と同じ種の動物は、自分と同じように知的、かつ同じように抵抗可能で、ウマなど他の動物よりも捕獲が難しかったと思われます」とCole氏は説明します。「どちらも難しい行為ですが、ヒト科同士の方がより困難でありえたと考えられます。それに、ウマならば1頭殺せばいいのですが、ヒト科の動物でウマと同じカロリーを得ようとしたら、4人から6人も殺す必要があります」

とはいえ、先史時代のヒトは飢饉のときには生き延びるために食人をした可能性が高いようです。Cole氏も、その手の食人があった可能性を完全に排除はできないと言います。

食人の目的。他に考えられることは?

Cole氏は、ホモ・サピエンス以前の種は我々より多様で複雑だったかもしれないと言います。「たとえばネアンデルタール人は、行動面できわめて複雑で、装身具を作るなど、象徴を使用する種でした。石器の作り方にも文化的多様性があり、死者の埋葬に関しても複雑な姿勢を見せていました」「食人に関しても、同様に複雑な姿勢を持っていたのではないでしょうか?」とCole氏。

この研究には参加していないユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの生物学者、Jerome Whitfield氏は、Cole氏の論文を評価し、人間が古代人の主要な食料源だったとは考えにくいと同意しています。

「(人間は)危険な獲物だったはずです。ただはぐれ者に対しては、それが属さない集団の資源に手出しできないよう、別の集団への警告として殺された可能性があります」とWhitfield氏。「(Cole氏は)他の種と比べてヒト科の栄養価が低いことを指摘しました。つまりほとんどの食人行為は栄養目的ではなく、象徴的な性質があったことを示唆しています」

ただWhitfield氏は、Cole氏はさらに埋葬の儀式や食人に関するチンパンジーの行動を分析した論文をさらに読み込んで、食人行為を進化の視点で整理してもいいのではないかと提起します。

一方こちらもこの研究には参加していないカリフォルニア大学サンタバーバラ校の司法人類学者・Danielle Kurin氏は、この論文は食人行為が人類の歴史に深く根付いていることへの注意喚起になると言っています。

「Cole氏の論文は、この種の行動が単に栄養的な必要性の結果ではなく、象徴性や、人体や体の各部が死に際していかに取り扱われるべきかという信念と深く結びついたプロセスであることを示しています」とKurin氏は言います。

Kurin氏によれば、食人は死別のプロセスと不可分であることも多く、哀れみを示す行為でもあります。または社会から追放された者に向けた行為であったり、敵に打ち勝つための最後の劇的行為であったりします。

またKurin氏はこう語りました。「ヒトより前の先祖が、このように意味深い、儀式的な行為をしていたのです。それは、ホモ・サピエンスの種としての独自性、そして人間性を定義する特性が何なのかを我々が再考すべきであることを示唆しています」

先史時代の人類が何のために人肉を食したのか完全に理解することは多分不可能ですが、とにかくカロリー摂取は主要な動機ではなかったのではないでしょうか。

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image: Gizmodo US, Wikimedia Commons, James Cole - Scientific Reports
source: Scientific Reports
reference: ScienceDirect, University of Chicago, Springer, 文部科学省, The Journal of Biological Chemistry(1, 2, 3

George Dvorsky - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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