体外受精は成功したが、精子とり違えで罰金判決。親子の「遺伝子の類似性」に価値がつく先例に?

体外受精は成功したが、精子とり違えで罰金判決。親子の「遺伝子の類似性」に価値がつく先例に?

どこかおかしい…。

不妊治療の一環で、体外受精(IVF)による妊娠を治療法として提供する病院も増えています。2010年、シンガポールのThomson Medical Centreで体外受精によって元気な娘が誕生したある夫婦は、このほど同病院を相手取った裁判を起こし、娘の養育費の賠償金を獲得しました。そして、この判例が今後の各種不妊治療に大きな影響をおよぼしかねないと、物議を醸していますよ。

裁判を起こした夫婦は、それぞれ中国系とドイツ系の親から生まれています。ところが、生まれてきた娘はあまり自分たちに似ていませんし、最初に誕生した子どもとも似ていません。これはおかしいと思い、遺伝子検査を受けてみたところ、なんと娘はインド系の父親の遺伝子を受け継いでいることが判明! どうやら病院側が誤って匿名の精子提供者の精子で母親の卵子との体外受精を進めてしまい、子どもの誕生にいたったようですね。そして、夫婦は自分たちの意思とは異なる父親の遺伝子を受け継いで生まれてきた子どもの養育費は、病院側が負担するべきだとの訴えを起こしました。

シンガポールの最高裁判所は、子どもの誕生が誤っていたという意味合いになるような判断を下すことは避けました。用いられた精子取り違えこそあったものの体外受精そのものは成功しているためです。また、もしも出産が間違いであったと認定されるならば、生まれてきた子どもの居場所がなくなってしまうからです。自分の存在を否定される子どもは、精神的に大きな痛手を負ってしまうことでしょう。

そのかわり同裁判所は、病院側は体外受精は成功したとはいえ、親子の「遺伝子的な類似性」を子どもに与えることに失敗したと判断。親が遺伝子的な類似性を有さない子どもを養育することへの損害は、賠償を受けるに値するとの根拠から、養育費の3割を賠償金として支払うように命じました。この判決は、DNAの違いは訴訟事件に発展する先例を作ってしまったとのメッセージを送ることにもなるため、賛否両論が飛び交っていますよ。

今回の判決は、遺伝子的には子どもが誤りを有しているとの印象を与えかねず、しかも遺伝子的な類似性に金銭的な価値を認定するものとなりかねない。医療ミスではなく、子どものDNA構造に損害を認めた。これは受け入れがたい判決であり、さまざまな危険な方向へと発展していく恐れがある。

ノースカロライナ州立大学の遺伝子工学研究施設(Genetic Engineering and Society Center)で研究を進めるTodd Kuiken氏は、次のようにコメントしています。

こうなると養子にも価値などがつくのでしょうか? 将来、親が離婚してしまった場合、子どもの養育費は遺伝子的な類似性に応じて負担が決まったりしないのか? もし、一方の親のDNAに欠陥があり、その欠陥を子どもが受け継いだとき、その一方の親が多くの責任を負うことにもなりうるのでは?

いろいろと深い懸念が表明されていますね。いまや子どもが遺伝子的に3人の親をもつことになる不妊治療法なども誕生しており、体外受精の複雑化が進みつつあります。また、遺伝子編集を可能にする「CRISPR」などの利用が広がれば、昔ならば考えられないような、親と遺伝子的な類似性を有さない子どもの誕生が増えていく可能性もあります。それは以前なら子どもを産むことをあきらめねばならなかった夫婦に希望を与える一方で、倫理的に判断が難しいケースが多々出てくることを意味しているのでしょうね。

イギリスで「3人の親」を持つ赤ちゃんが産まれようとしている
遺伝子技術「CRISPR-Cas9」の特許バトルに裁定、の意味

image: Andrea Danti / Shutterstock.com
source: Asia Times

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(湯木進悟)

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