4週間も子ヒツジを育てることに成功した人工子宮、その仕組みは?

4週間も子ヒツジを育てることに成功した人工子宮、その仕組みは?

保育器や人工呼吸器は未熟児の治療に役立つとはいえ、母親の子宮の心地良さにはまだおよびません。未熟児の死亡率と病気を劇的に減らすため、本物に迫る人工子宮が開発されました。米国フィラデルフィア小児病院のAlan Flake氏が率いる研究チームは、外部の人工子宮でヒツジの胎児の生命を維持し、正常な発育に求められる条件を再現することが可能であることを示したのです。

子ヒツジが液体で満たされた装置の中で成長し、4週間にわたって生命を維持できたのは画期的な新記録です。その後の検査でも、ヒツジの脳、肺、および臓器の正常な発達が見られました。この技術が早産児に適用されるにはさらに10年かかるとしても、この研究結果は大きな一歩です。研究の詳細は、英科学誌Nature Communicationsに発表されました。

米国では毎年、約3万人が妊娠26週以前(通常の妊娠は37週間)の早産児として産まれます。乳児の死亡数の3分の1と脳性麻痺と診断される乳児の数の半分の原因が早産なのです。多くの場合、体重600gにも満たない超低出生体重児が生き延びるチャンスは、およそ30〜50%に過ぎません。生存したとしても約90%は、慢性肺疾患や臓器発達不良に起因する合併症などを患う可能性があります。しかし医療は着実に発展し、子宮外の生存能力の限界を妊娠22〜23週間にまで押し広げています。

早産児や超低出生体重児のためにできる現在の最善の方法は、保育器の中で発達途中の身体機能をサポートすることです。 「従来のケアは、臓器機能、挿管、機械的呼吸やガス交換を基盤とする肺胞換気のサポートが必要です」と、研究の共著者Emily Partridge氏は昨年の記者会見で指摘しています。さらに 「通常、胎児の肺は子宮の液体に浸っているので、ガスを基盤とする肺胞換気は肺の発達を妨げ、生涯にわたる健康上の問題を引き起こすことになる」と述べています。これらの標準的な治療法は、早産児の肺や発達中の臓器の負担となるうえ、幼児を感染性病原体にさらすおそれがあります。

母親の子宮に近い状態をシミュレート

この新たなシステムは、できる限り母親の子宮を再現しようとするものです。実験では胎児のへその緒を用い酸素回路を作り出し、液体に満たされたポリエチレン製の「バイオバッグ」で半閉鎖式の人工環境を使用しました。

帝王切開後、ヒツジの胎児6頭がそれぞれプラスチック製の容器に入れられました。出生前のヒツジの肺の発達はヒトの胎児に近似しているために、ヒツジが用いられています。子ヒツジは、温度を制御された滅菌に近い環境で正常に成長しました。心臓がへその緒を介してバッグの外側にあるガス交換システムに血液を送り込み、羊水のなかで呼吸します。電子モニターがバイタルサイン(生命兆候)や血流、その他の重要な機能を測定しました。

実験開始時は、生物学的に23〜24週目の胎児に相当していた子ヒツジが正常に成長したことは、子宮外で初めて達成した快挙です。 「これほどうまくいったことに驚いている」と、Flake氏は記者会見でコメントしました。

これまでの取り組みとは異なり、新たなシステムは血液循環の促進に外部ポンプを使用せず、胎児自身の力を使います。人工的な弱い圧力でさえ、未発達の心臓には致命的な負荷をかけるおそれがあるため、これは大きな利点となります。さらに人工呼吸器を使用せず、胎児の心臓が母親の胎盤の代わりとなる低抵抗の外部酸素供給器に、へその緒を介して血液を送り込みます。そしてラボで製造された電解質溶液である人工羊水は、母親の体液で満たされた子宮内の状態を再現します。これは肺やその他の器官をより自然に発達させることができ、さらに外界からも保護します。

本物に迫る! 人工子宮で子ヒツジ成長
Figure 1(a): UA/UV Biobag system design Nature Communications

これまでの人工システムにおいて胎児の生命が保たれる最大持続時間は60時間でしたが、実験で使われたヒツジは脳損傷を伴っていました。新しいシステムは少なくとも670時間(28日間)も持続し、23週齢の早産児を、28週の決定的なステージに近づけることに成功したのです。ヒツジの追跡テストでは、バイオバッグから取り出した直後に安楽死させたものを含め、正常な発達を示しました。 Flake氏は「テストでは、子ヒツジの成長は正常な胎児の状態に追いついた」と述べました。子ヒツジは正常な血圧、循環、代謝パラメータ、成長、肺の発達、および脳の発達を示し、1歳になった最年長の子ヒツジはとても元気なようです。

「子宮は不要」にはならない

このシステムの目的は母親の子宮と外界をつなぐ架け橋として胎児をサポートし、在胎月齢23週から28週のヤマを越えさせて、胎児に与える悪影響を最小限に留めることを目指しています。「最終的には、妊娠の瞬間から満期出産まで子宮外で胎児の生命を維持することができるのでは」と推測する科学者もいますが、Flake氏はこのシステムはそのようなビジョンにはほとんど無関係だと強調し、懸念を表明しています。

胚形成期から胎児をサポートできる技術は、今も近い将来にも存在しない。この装置で子宮外での生存能力を伸ばそうとするならば、それは実に憂慮すべきことだ。

このシステムがヒトの胎児でテストされるまでには、まだ多くの作業が必要です。 その一つとして、システムを小型化しなくてはなりません。子ヒツジはほどよくヒトに近似していますが、ヒトの胎児は子ヒツジの3分の1も小さいサイズ。自律型ポンプが、より小さなヒトの胎児の体にも同様に機能することを確認する必要があるとFlake氏は述べました。

最終的な注釈として、新システムは集中治療室の壁に半透明の袋がたくさんぶら下がっている状態にはならない、と強調しました。ヒトに使用できるようになれば、システムは羊水で満たされた房で構成されるうえに、子宮と同様に外界から閉鎖されます。内部に配置された暗視カメラを通し、医療スタッフや両親が赤ちゃんを監視します。

現在の保育器モデルからの抜本的な脱却のようにみえても、研究チームは地に足ついた的確な認識に立っています。少しでも本物の子宮の環境に迫りつつ未熟児を救う新たなアプローチは、今まさに始まったばかりです。

top image: Figure 1(b)(c): UA/UV Biobag system design Nature Communications
source: Nature Communications, Centers for Disease Control and Prevention, The New York Times, National Center for Biotechnology Information(1, 2), Harvard Science Review

George Dvorsky - Gizmodo US[原文
(Glycine)

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