「上司との会話は午前中に」幸せになれる働き方のヒントをくれる、日立のウェアラブルセンサーとAI
Image: jesadaphorn/Shutterstock.com

「上司との会話は午前中に」幸せになれる働き方のヒントをくれる、日立のウェアラブルセンサーとAI

職場での話。

効率的な仕事の進め方じゃないとわかっていても、ついついクセでやっちゃう(もしくはやらない)あんなこと、こんなこと。もしもコンピューターに「こうやってみたら?」と優しくアドバイスされたとしたら、あなたはそのまま実行しますか?

もしも、そのアドバイスに従って行動すれば職場全体の「ハピネス度」と生産性が向上するとしたら?

「ハピネス度」=職場での総合的な幸福感。そんな主観的な概念を科学的な手法で研究している日立製作所が、実証実験でウェアラブルセンサーとAI(人工知能)を組み合わせて自社の職員に働き方のヒントを提案し、ハピネス度も生産性も向上させることに成功しました。

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Image: 日立製作所

AIと聞くとAmazon(アマゾン)、Google(グーグル)、Microsoft(マイクロソフト)などの海外企業を連想しがちですが、日立も長年AI開発に力を注いできました。日立の人工知能「Hitachi AI Technology/H」(以下、H)は従来の「機械学習」を超える「跳躍学習」を得意とし、「1対1」ではなく「1対多」の問題を取り扱えることができると日立のウェブサイトに書いてあります。

日立のニュースリリースによれば、2016年6月~10月にかけて行なわれた実証実験はこんなかんじでした。まず、日立グループ内の営業部門26部署、約600人に上画像の名札型のウェアラブルセンサーをつけてもらい、業務時間内に3種類の行動データを計測します。ひとつは、対面情報。だれとだれが、いつ、どのくらい対面したかを赤外線センサーで測ります。もうひとつは、身体情報。体の動きを加速度センサーで測ります。そしてもうひとつは、場所。どこにいるのかを赤外線ビーコンを使ってトラッキングします。

名刺センサーでデータ収集→AIで分析→アドバイス

それらの膨大な行動データは日立のIoTプラットフォーム「Lumada」を介して人工知能「H」へと送られ、そこでデータの分析が行なわれます。分析の結果、一人ひとりの幸福感の向上につながる行動についての有効なアドバイスが「H」により自動的に作成され、配信されます。

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Image: 日立製作所
働き方アドバイスと行動ログを確認できる専用アプリの画面

「Aさんとの5分以下の短い会話を増やしましょう」

「上司のBさんに会うには午前中がおすすめです」

このようにかなり具体的にアドバイスしてくれます。これらを実行していくうちに、従業員同士のコミュニケーションが活発になったり、モチベーションが向上したりして、職場の全体的な「ハピネス度」が上がりました。実際、同時期に実施した従業員満足度調査の結果とつき合わせた結果、AIで計測したハピネス度が高かった部署では前向きな回答が多かったのです。

さらに、気になるのは生産性ですが、これもハピネス度と共に向上。どのぐらいかというと、実証実験期間中にハピネス度が上がった部署は、下がった部署に比べて翌4半期の受注額が平均27%も上回りました。働いている方々にとっても生産性が上がるのは労働時間の短縮につながりますから、いいこと間違いなしです。

すでに三菱東京UFJ銀行や日本航空などでシステム導入を行なっており、コールセンターでの実証実験では従業員の平均ハピネス度が高めの日は低めの日に比べて1日あたりの受注量が34%も高かったという結果も出ています。

だけど、ちょっと怪しくない?

でも、この実験を知ったとき、筆者の正直な反応は懐疑的でした。だって幸せって人によって定義も感じ方も違いますし、そもそもAIにアドバイスをもらうこと自体にやや抵抗があります。可視化することでプライバシーの問題だってあるかもしれないですし、全体の生産性のために個人の主体性が失われかねないなとも思いました。

だいたい「ハピネス度」ってどう数値化するんだろう? そこが一番知りたいところでしたが、その辺は日立製作所研究開発グループ技師長で物理学者である矢野和男氏の長年に渡る「物理の理論で幸福感を理解できないか?」という研究成果に基づいているそうです。矢野氏自らウェアラブルセンサーを着用し続けて10年超。矢野氏によると人は1日8万回ぐらい動くそうなんですが、そのうち意識的なのはわずか1%~10%。私たちは、知らず知らずのうちに無意識に動いていて、しかも周りの人たちに強く同期して体を動かす傾向にあるのです。

矢野氏が自身の1日8万回の行動データを10年間蓄積し、その膨大なデータを「H」を使って可視化したところ、矢野氏はある特定の身体運動パターンに行きついきました。いわく、「きれいなゆらぎ」。ハピネス度が高い人は、無意識な動きのリズムにバラつきがあり、さらにその動きが周りの人たちの動きと連動しているんだそうです。

人は周りの人に常に影響され、連動している。だから、人は環境で変われる。そして、人は周囲とつながっていないと幸せになれないのかもしれません。

ちょっと納得です。職場のみならず、家庭でも、学校でも適用できる考え方だと思います。

AIのチカラを借りて自分の動作を軌道修正していくことで、どんどんやるべきことをこなし、同時に自分のハピネス度を高められたらまさにWin-Winです。思わずニコニコしちゃって、それがほかの人にも伝染るのかもしれませんね。

AIはテクノロジーとして割り切る

最後に、日立の矢野氏は「AIを擬人化してはいけない」とも語っています。AIはあくまでもテクノロジーでしかなく、AIから送られてくるアドバイスは自分自身の過去の行動データに基づいてエビデンスを一人ひとり個別に示しているだけ、と。

最近やたらと賢くなってきたSiriやAlexaみたいな擬人化AIとやりとりしていると錯覚してしまいがちですが、所詮はプログラム。そこに「人」の気配を感じてしまうと、AIにできることとできないことの区別があいまいになってしまいがちですが、そこはハッキリとテクノロジーなんだと割り切る必要があるようです。

だから、シンギュラリティも起こりえないだろうと矢野氏は言います。日立の未来像は、人にとってもAIにとってもハピネス度が高いですね。

Image: jesadaphorn/Shutterstock.com
Source: 日立グループニュースリリース(1, 2, 3), 日立製作所映像講義ダイジェスト, 日経ビジネスONLINE(1, 2
Reference: 日本航空プレスリリース

(山田ちとら)

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