3Dサウンドデザインの第一人者が語る、ロジカルに泣かせる手法と道のり:瀬戸勝之「STAR ISLAND」AfterTalk
Photo: ギズモード・ジャパン

3Dサウンドデザインの第一人者が語る、ロジカルに泣かせる手法と道のり:瀬戸勝之「STAR ISLAND」AfterTalk

僕と家庭用サラウンドの出会いはLD時代。ドルビーサラウンドなスピーカーシステムで「後ろから音がくる! 映画館みたいスゴい!」を体験したのがキッカケ。当時は左右とセンターとリアサラウンドの4ch。そこからDVD時代の5.1chとなり、現在は天井にもスピーカーを設置する(もしくは天井で音を反射させるためのスピーカーを使う)、5.1/7.1chというシステムが主流とされています。

これらホームシアターで使われるサラウンドシステムは、基本的にオーディエンス1人に向けてスピーカーをセッティングします。スイートスポットは各スピーカーの向きが合わさった一点集中型。映画館ではより多くのスピーカーをインストールしてスイートスポットを広げていますが、やはり客席中央部にいてこそバランスの良い立体感のある3Dサウンドを楽しめます。

前後左右に上下まで音が動きまくり。そんなサラウンドを用いた3Dサウンドが、なぜ屋内のものだと思っていたのでしょうか。さらなる可能性があると気がつかなかったのでしょうか。

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Photo: STAR ISLAND

去る5月27日。東京・お台場で未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」が開催されました。キャッチコピーは「3Dサウンドを駆使した最先端ミュージック花火」。壁と天井による反響が見込めない屋外でサラウンドしちゃうんですか? 230台ものスピーカーを使うとはいっても、スイートスポットを広い砂浜全体に広げるって無理があるんじゃあ…

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Photo: 武者良太

と考えながらイベント前の現場にきてみると、波打ち際と、砂浜と歩道の間、そして後ろの林の部分にスピーカーを点在させるというセッティングでした。あ、なるほど。

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Image: STAR ISLAND

台場の砂浜はL字の形状になっているのですが、多くのスピーカーを一カ所に固めて、ピンスポットで音圧を稼ぐのではなく、広い空間全体に音を届けるためのセッティング。

そして波打ち際のスピーカーから奏でられる波の音が、前方向の奥行きを演出。あ、カモメが鳴きながら飛んできている。奥にあるスピーカーから順に鳴き声を鳴らすことで、左右方向の奥行きを出している。と思ったら背後にあるスピーカーから林の葉擦れの音が聴こえてきた。ああ、音に囲まれている感、強いです。

都会のなかの埋め立て地に、VRな自然をサウンドで表現。こんな3Dサウンドの使い方があったのですね。

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Photo: 武者良太
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Photo: 武者良太

そして花火TIMEに入ってからは、花火の打ち上げや爆発、波打ち際で行われるショーと音楽を高度にMIX。ミドルテンポなCLUBサウンドと花火のタイミングを合わせるという、計算としか思えない、でも爆発のタイミング&爆発音の音速も見越したうえで拍を合わせることができる計算力ってなんなの。という気分で胸がいっぱい。これ、どんな人が手掛けたんだろ。

3Dサウンドデザイナー、瀬戸勝之さんのサラウンド人生

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Photo: ギズモード・ジャパン

「STAR ISLAND」のサウンドプロデューサーは、3Dサウンドデザイナーの瀬戸勝之さん(katsuyuki seto)。若かりしころはダンサーで、神戸の大箱だったclub JUNCのプロデュースも手がけていました。

2005年には野外サラウンド音楽イベント「AREA 5.1」を開催。サラウンドDJとしても活動する傍ら、商業施設での音響構築も担当する、屋内外問わずサラウンド・サウンドの可能性を追求している第一人者。音響が、人のメンタルにどのように作用するのかを知るべく、心理学にも着目しているんですって!

瀬戸さん「CLUBのプロデュースをしていた時は音圧で勝負していたんです。その後、26歳の時に上京したんですけど、今までと同じことをしても仕方ないなと。当時、CDからMP3に変わる過渡期で、スタジオクオリティが縮小していく傾向があったんですよ。だから逆に、スタジオクオリティを追求していこうと考えました。

それも音楽のジャンルじゃなくて、音響のジャンルで何かできないかなと思ったんです。音楽を売るというスタンスよりも、新しいもの、面白いものを探すというスタンスでもあったんで、サラウンドにいきました」

時は2001年。iPodが産まれた年でもありましたね。DVDの普及を背景に、デジタルサラウンドも広く知れ渡っていきます。しかしそのほとんどは映像を種としたコンテンツ。音楽方面からのアプローチをしている人は存在せず、テクニックもノウハウも不透明な時代でした。

瀬戸さん「頭の中に音像はあるんですよ。でも技術が追いついていなかった。イメージがあっても、そこにいけない。ある程度スピーカーを足せば立体的になるんですけど、位相とか定位とか、音の出し方、反射のさせ方などなど、やってみないとわからなくて。さらにいうと、スタジオを構えないと計算できなくて」

そして2年間ほど、サラウンドの研究に没頭します。そしてある程度、5.1chの規格に合わせた音場が作れるようになったとき。

瀬戸さん「飽きちゃったんですよ」

多くのお客さんが訪れる商業施設で3Dサウンドを展開するとなると、それぞれの動きがあるため、お客さんを取り巻くスピーカーの位置が等間隔であることは少ない。「ここに立つと最高の音が聴けますよ」とアピールしたとしても、同時に体験できる人は極少数です。

瀬戸さん「だからお客さんを特定の場所に座らせるのではなく、場所によってどう表情が変わるか、場所ごとにどういう音を届けられるかという視点になりました。いる場所によって異なる音を聴いて、真ん中にいくとすべての音が聞こえてストーリー全体がわかる。映画の音響とは違ったベクトルですね。

クライアントさんが何をしたいかということに対して、スピーカーをアサインしていきます。個数の限定がないんですよ。もちろん予算によりますが、このコンテンツをやるにあたって、どんなシステムが必要かを考えて実現する音のコンサルに近いですね」

クライアントから必要とされるものと、アーティストとしてこちらが提案したいもの。その結果、スピーカーの数は100個以上になることもあるし、コンテンツによっては1つでいいというケースもあります。多ければ多いほどいいというのではなく、必要に応じてシステムが変わっていくのですね。

瀬戸さん「0から1になるものを作る感動を知ってしまうと、自分が作ったテンプレートを壊したくなっちゃうんです。すでにあるテンプレートに合わせて仕事をすれば、精度は上がるしスピードも速まるでしょうけど、それは歳を重ねてからもできるかなって。もちろん過去の技術も必要とあらば使っていきます」

新しいことをやるという考えだけだと、最先端によりがちです。でも瀬戸さんは新しいテクノロジーだけではなく過去に培ってきた技術も積極的に取り入れる、前後左右どちらにも動ける姿勢をとっているかのよう。

瀬戸さん「考えてこうなったんじゃないんですけどね。いい音場を作りたいという気持ちからきたものなのかな」

超音波で聴いている人の心を解き放ちたい

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Photo: ギズモード・ジャパン

立っている位置で聞こえる音が違う。伝わるストーリーが違う。そして受け取った時の気持ちが違ってくる。音響による感情の動きを知るために、瀬戸さんは心理学を学びます。

瀬戸さん「ハッピーな気持ちになれる音、怖い気持ちになれる音などを研究しました。約7種類の超音波を使って、聴いた人の心を開いたり閉じたりしています

単純にいい音をかけたから気持ちがアガるというのではなく、どの音の周波数を、どういうメロディでどういうリズムで、そしてどの角度から当てるのかをロジカルにやるんですよ。そうすると笑顔が増えたりとか、緩急つけるために緊張させる場所を作るとか。これは意図的にやっています。奇跡的にできた、というものではないですね」

可聴範囲外の超音波も積極的に活用しているというのはおもしろい!

瀬戸さん「音楽って好みの違いがあるじゃないですか。だから耳に聞こえない音を使うことで、音楽を意識させず、気持ちがリラックスするような空間を作ることもありますよ。

そのために各地のパワースポットを研究しています。どの場所で、どんな可聴範囲外の音があるのかを調べて、その帯域の音を使うんです」

Hi-Fiを追求するハイレゾもいい。けれども超高周波や超低周波を、もっと違った使い方をする人が増えてもいいんじゃないかと瀬戸さんは言います。

時間を圧縮させる「STAR ISLAND」でのチャレンジ

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Photo: ギズモード・ジャパン

「STAR ISLAND」を見ていて感じたのは、軽やかな濃さ。中だるみが一切なく、アクセル開け気味に突っ走ったかのような印象を受けました。

瀬戸さん「花火は75分間打ち上げましたが、これをいかに短く感じさせるかに注力しました。ゾーンに入って気がついたら終わっちゃったというくらいが究極だなと思っているんです。

だから集中力が切れる15分くらいの出来事だったんだと感じてもらうために、空間の使い方や音の使い方をロジカルにコントロールしました。好きな曲は盛り上がるけど、興味のない曲だと白けちゃう。そんなことがないように、全体で盛り上がるためのアプローチですね。

例えばリズムが一定だと聴いているうちに慣れてしまうので、前のスピーカーで曲を鳴らしながら後ろのスピーカーでも鳴らしたりすることで、意識を後ろに持って行かせて覚醒させたりと」

前方向と横方向。前述したように、音による奥行きもあったんです。会場を歩き回ってもその独特の立体感が保たれていて、これはおもしろいアプローチなのだなー、と。

瀬戸さん「台場の海って凪いでいるので、波の音がしないんですよ。そこで前のスピーカーからいろんな波の音を流すのですが、太平洋の沖の音も遠くで鳴っているように重ねたんですね。

またカモメが遠くで泣いていたり、近寄ってきたり。サラウンドも使っていますが、全部のスピーカー、全チャンネルをモノラルで出せるようにもしているんです。そして現場では、風力や湿気に合わせて、230個以上の音量を操作するフェーダーで音の遠さ、近さを表現しました」

ぶっちゃけ面倒そう。僕らがそう漏らすと、

瀬戸さん「でもこういうのが、アーティストとして一段上に行けるか行けないかだと思っているんです。得じゃないですか。努力で他の人との差をつけて、勝てるところなので」

泣き率の高いイベントを手掛けたい

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Photo: ギズモード・ジャパン

「STAR ISLAND」に点数をつけるとしたら100点。すでに他の場所でもやってくれないかという打診も来ているそうです。自分で作ったテンプレートを壊すことも厭わず、音響面で屋外イベントを進化させようとしている瀬戸さん。次に目指したい世界はありますか?

瀬戸さん「僕、イチローさんが好きでリスペクトしていて。世界で活躍されているのを見て、ジャンルは違いますが僕もそうなりたいなと、勝手にライバル意識も持っているんですね。

だから彼の打率を超える感動率を出したいんですよ。お客さんの4割は泣かせられたらいいなと。ここだけは泣けるという周波数に全部の音を持っていく曲があって、冬のイベントの時にどれだけ泣いているかのレポートを見たいんですけど、どう調べていいかがわからなくて。それこそ泣いている人を見つけたらカウントしていくとか(笑)。泣き率だけではなく、抱き合い率とキス率も調べられたらいいですね(笑)」

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Source: STAR ISLAND

Reference: www.ks-side-effect.com

(武者良太)

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