論文の80%は特許につながっていた。科学的な研究はビジネスを躍進させるアイディアの泉

論文の80%は特許につながっていた。科学的な研究はビジネスを躍進させるアイディアの泉

科学的研究の有効性を、科学的研究が証明しました。

ビジネスを躍進させる発明の多くは科学的な研究から着想を得ていたことを、ノースウェスタン大学のビジネススクール、J. L. Kellogg School of Managementのベンジャミン・ジョーンズ(Benjamin F. Jones)教授と、博士研究員のモハマッド・アフマドプール(Mohammad Ahmadpoor)さんが明らかにしました。

Science誌に発表されたふたりの研究によると、アメリカで過去40年間に発表された科学に関する学術論文3200万件のうち、80%は特許権をもつ発明につながり、逆に特許の61%は最低でも1件の論文を参考にしていたということです。

科学者が世界もあっと驚くような大発見をして、先駆的な技術や発明につなげてビジネスを躍進させる。あたり前というか、頭脳派が切磋琢磨する大学や研究機関からいいアイディアが生まれてこないわけはないですよね。でも、「科学的研究」と「発明」の因果関係を証明するのはなかなか難しいみたいなんです。これまでにも科学者と発明とのつながりを調べた人はいましたが、いずれも科学者自身が大学や研究機関に在籍中に発明品の特許を取得したかや、特許を元に起業したかを調べるのに留まっていました。科学者と発明という1対1の関係のみを対象としていたのです。

そこで、ジョーンズ教授とアフマドプール博士はビッグデータに着目。米国特許商標庁に1976~2015年の間に登録された480万件の特許と、Web of Science学術データベースに載っている3200万件の学術論文をもとに、SNSのような多対多のネットワークを構築して図案化したと、The Conversationで報告しています。

学術論文には参考文献を記載するのがお決まりです。1つの論文で少なくとも20、多くて40も50も既存の論文を参考に挙げていて珍しくありません。ジョーンズ教授たちは、その参考された論文ひとつひとつをハイパーリンクのようにつなげて、どの論文がどの論文に参考され、そこからどのような経緯で発明品までたどり着いたかをマッピングしたそうです。

さらに、アルゴリズムを使って論文から発明に至るまでに通った「最短距離」を調べました。論文1が論文2を参考に挙げている場合の分離度を「1度」とすると、すべての科学分野において論文から発明に至るまで平均して2~4度しか離れていなかったそうです。

分野別に見ると、例えば応用度が高い情報工学(欧米では一般的にComputer Science)系の論文は平均して1度しか離れていなかった…つまり、論文と発明が直結していた場合が多かったそうです。それだけ進化のスピードも速そうですね。それに比べて、数学や物理学などの抽象的な概念を扱う分野では分離度がもっと高かったそう。おもしろいことに、市場価値が高い特許ほどより多くの論文を参考にし、科学的研究と密接に関係していたそうです。

The Conversationによれば、アメリカでは科学的な研究への投資が過去40年間減り続けています。研究への投資については賛否両論で、経済発展に不可欠だという考え方もあれば、科学的な研究は現実社会からかけ離れていて有用な投資対象ではないとの見方もあります。とはいえ、そこは経済大国アメリカ。2013年にはおよそ87.3兆円(The Conversationの記事をもとに著者が概算)を捻出しています。

日本ではどうでしょうか。毎日新聞によると、2013年の研究予算は約18.9兆円。アメリカ、中国に次ぐ3位です。しかも、2013-15年の間に日本の大学が出版した自然科学系の論文数が世界2位(2003-05年当時)から4位に転落したそうです。日本人科学者の物理学、化学、 医学・生理学の分野でのノーベル賞受賞が記憶に新しい反面、日本が担う科学的研究への役割が今後どうなっていくのかとても気になるところです。

ジョーンズ教授たちの研究は、科学的研究の費用対効果が今まで考えられていた以上に大きいことを示唆しました。科学的研究が科学的研究を後押しするかたちで、日米両国において今後の研究予算の増加につながるといいのですが。

Image: Shutterstock

Source: Science, The Conversation, 毎日新聞

(山田ちとら)

あわせて読みたい

powered by