クスリ漬けの食肉を食べたら人間はラリっちゃうの?
Image: Angelica Alzona/Gizmodo US

クスリ漬けの食肉を食べたら人間はラリっちゃうの?

あらゆる疑問に専門家が答えてくれる「Giz Asks」シリーズ。

今回は食の安全に迫ります。ズバリ、「」について。

私たちがふだん何気なく食べている牛肉や鶏肉の中には、より早く、大きく育てるために抗生物質やビタミン剤などの薬品を与えて育てられた家畜の肉も含まれています。それらの薬品の安全性については長らく議論されてきており、薬の種類も使用頻度もさまざまです。

アメリカではついこないだ、鶏肉加工大手のSanderson Farmsが鶏にケタミンを与えていた疑いで消費者団体から起訴されたとBloombergが報じたばかり。「ケタミン」は麻酔薬として医療的に販売されている反面、「スペシャルK」などと呼ばれて密売されているれっきとした麻薬です。

チキンナゲット食べたら麻薬中毒になった!なんてことは、まずありえないでしょう。でも、もし仮に、薬物を与えられた家畜の肉が適切に処理されないまま食卓に上ったとしたら、それを食べた人も影響されるんでしょうか?

そこで、食物連鎖による薬物の影響を食の安全のエキスパートや科学者6名に訊いてみました。

おおざっぱにまとめると、結論はYES。クスリに影響された動物の肉を食した人間もまた影響されるでしょうとのこと。さらに菌類学者によれば、幻覚作用を持つ「マジックマッシュルーム」を食べた動物を食べた人間も、同じように影響を受けるかもしれないそうです。

以下、今夜の献立のご参考までに。

Rich Sachleben, Ph.D.

アメリカ化学会に所属する化学者。オークリッジ国立研究所に13年在籍し、現在Momenta Pharmaceuticals社にて科学開発に携わる。

物にもよるが、もしその薬物がとりわけ人間に強く作用して、しかもかなりの量だったとしたら、もちろん影響されるだろう

だれかがワザと、またはまちがって家畜を薬物にさらしたとする。濃度が高かった場合、そしてその家畜がまだ薬物を排泄しきっていない状態で摂食されたら、摂食した人間の体に害を与える可能性は充分にある。子どもやお年寄り、もともと病気を患っている人など、敏感な人ほど影響を受けやすい。腎臓病や心臓病患者にとっては命取りにもなりかねない。現実とかけ離れてはいるが、ありえなくはない。

だから、化学物質を与えられた家畜の肉がさばかれて人間の口に入ったら、食べた人はその物質に影響されるかって? もちろんだ

そう言ったうえで考慮しなければならないのは、動物になにかを与えた場合、体内で消化される過程でその物質が変わったり、変わらなかったりする点。人間もそうだが、動物は糖分を二酸化炭素などに分解してエネルギー源としているが、分解後に糖分は残らない。だからといって糖分が体内からなくなってしまうわけではなくて、体は常に糖のレベルをコントロールしている。排泄されるか、吸収されるか、ほかの物質に変えられるか。動物も人間も、食べた物すべてがそのように処理される。

家畜を太らせるためとか、病気を治すために薬が使われてはいるが、アメリカ食品医薬品局(FDA)がきっちりと規制しているし、農務省が検査を実施している。家畜に薬物を与えたり、その家畜を商品として売るためには、まずその薬物が安全だとを証明しなければならない。その点ではFDAと農務省とかなり細やかなモニタリングを実施している。

Peter McCoy

菌類と人類との革新的な関わり方を提唱するNPO法人「Radical Mycology」創始者。エクアドルの原生林で自然環境保全に努める。Open Source Ecology, Permaculture Magazine North America菌類学顧問。

幻覚剤であるトリプタミン系アルカロイドのシロシンやシロシビンを含むキノコ類は世界中に存在しているが、一番有名なのは俗に「マジックマッシュルーム」と呼ばれるミナミシビレタケだろう。シロシンなどの化合物が人間に摂取されると、まず体中すみずみに行きわたり、それからモノアミン酸化酵素(monoamine oxidases, MAO)によりすみやかに分解される。摂取して12時間以内には完全に分解されてしまう。

モノアミン酸化酵素はほかの動物も持っているが、その働き方は動物の種類によって異なっている。人間以外の動物がシロシンやシロシビンを摂取した時、体内でどう処理されるのかは詳細な研究がなされていないため、どのくらいの時間をかけて分解されるのか予測するのは難しい。もし養鶏がシロシンを含むキノコを食べた直後に屠殺されたら、その肉を食べることで幻覚症状を起こす可能性は否定できない。

シロシンのような化合物が鶏から卵に流れるかどうかはわからない。けれども、ほかの(幻覚症状を伴わない)コルジセピンなどキノコに含まれる化合物は、親鳥がキノコを食べた後に産んだ卵には移行することが明らかにされている。

Tom Seymour

ナチュラリスト、採食者。「メイン州の野草」など著書多数。

答えはもちろんYESだ。抗生物質(とほかにもいろいろ)を家畜に与えているからこそ、抗生剤に免疫を持つ新種の細菌が増え続けているんだ。薬が家畜の体内に蓄えられて、人間にも移行してきている。

では、幻覚作用のあるキノコを食べた鶏や牛の肉を食べた人間はどうなるか? この場合の答えはNO、すなわち、幻覚症状は起こさない。なぜなら、キノコから得られる作用は儚いからだ。

薬用作用のある植物を保存しておきたい場合、有効成分をしっかり保存しておく必要がある。植物を採取してしまったら、あっという間に効力が消えてしまう。

たとえば、マリファナ。マリファナをキメてハイになる。吸った後しばらくはその人の血流に微量のマリファナが残るけど、ハイな状態は長く続かない。それと同じように、もし牛や鶏にマリファナを与えたら短期間ハイな状態が続いたとしてもすぐに消えるから、そのあとに人間がその動物の肉を食べたからといってハイになるわけではない。

マリファナや、幻覚症状を引き起こすキノコ類においては、二次的摂取によって人間がそれらの影響を受けることはほぼ不可能だろう。

David Acheson, M.D.

Acheson Group創始者兼CEO。アメリカの飲食業会社の経営効率向上、リスクマネジメント、コンプライアンスなどのコンサルティング業務を主導。

食肉から薬物の影響を受けたとしたら、それは明らかに規定を守っていない証拠だろう。もちろん、そういうことが起こってもおかしくはない。でも、起こってはならないことなんだ。

世界的に見て前例がないわけではない。規制がちゃんとしていない国ではそういうこともあるけど、当事者は「知らなかった」で済まされてしまうからね。

抗生物質を例に考えてみよう。抗生物質を経口摂取すると、そのうち腸内に残留するものも、血流に溶けこむものもある。咽頭炎、または気管支炎を治すために抗生剤を飲んでいるとして、その抗生剤はいったいどのように患部まで到達するか? まず腸に消化され、そこから血流に溶けこむんだ。薬を摂取した1、2時間後には血の中に抗生物質を検知できるようになる。血は体中を巡っているから、抗生剤も体中を巡る。

動物に抗生剤を与えたら、2時間後には体中の細胞に薬が行き渡っているのは確かだ。その動物を屠殺したら、その肉には抗生剤が入っている。抗生剤の半減期(薬の全体量が半分になるまでの時間)は2〜3時間。1日1回摂取するような持続性の高い薬物の場合、半減期は12時間だ。体内に取り込まれた薬物が消滅するまでの時間は、人間の場合おおまかに言って半減期を6経過しなければならない(抗生剤であれば12〜18時間)。

それに加えて、ほとんどの国の規制にはより長い「安全域」が設けられている。24時間で消滅しているはずの薬物を使った場合でも、安全をとって10日から2週間の待機期間が設けられている。抗生剤を使用した場合もそうだ。

Kurt Piepenbrink, Ph.D.

University of Maryland School of Medicine博士研究員。

単純な答えはYESだが、規制当局と生産者の尽力により不可能に近いと思う。

家畜に使われる薬物のほとんどは成長を促すホルモン剤と、感染症に有効な抗生剤だ。これらを使用したとしても、屠殺される時にはいずれも人間が食する部位には残留していなかったという研究報告がたくさん上がってきている。ここで大切なのは、食の安全は日ごろの注意と努力の積み重ねによって保たれているということ。食物連鎖により食卓に紛れ込みかねない薬物は多種ある。一方で、現実にはそのようなことが起きていないのはとてもいいことだ。

しかし、肉を食べても薬の影響を受けないからといって、家畜への薬物使用(特に抗生剤)のリスクがないわけではない。抗生剤の使用が多くなるにつれて、抗生剤に対する免疫を持った細菌も増えた。この増加が果たして家畜への抗生剤使用からきているのか、人間の抗生剤使用からきているのかは議論の余地が大いにある。消費者の不安を和らげるために、アメリカの生産者のなかには自主的に抗菌剤の使用を減らしているところもあるし、FDAも最近、抗菌剤使用削減に向けて新しいガイドラインを発表している。

ところが、世界的にみると抗菌剤の使用は増加の一途をたどっている。特に中国は世界の半分の年間抗菌剤使用量で、養鶏をはじめ家畜への使用量がとても高い。

Jeff Kronenberg, M.S.

食品加工専門家。アイダホ大学食品科学部所属。

乳牛は乳腺炎などの病気にかかることがあります。理解ある酪農家はこういう時に炎症を鎮めるための薬を牛に投与しますが、β-ラクタム系抗生物質(ペニシリンなど)は牛の乳に排出されることがあります。このため、獣医薬のビンには必ず「薬の効果が消滅するまで牛乳を出荷しないように」と明記してあります。この決まりを破って搾乳が行なわれると、場合によっては抗生物質が残留している牛乳が、牛乳の二次加工を行う乳製品製造者に渡ってしまうこともあります。

抗生物質の残留については、危険なことがふたつあります。一番大きな懸念は、もし抗生物質にアレルギーがある消費者が知らずに牛乳を飲んでしまった場合、命をおびやかす危険性があること。もうひとつは、抗生物質がヨーグルトなどの乳発酵製品を作るときに欠かせない善玉菌に悪影響を及ぼすことです。

このような事態を防ぐ取り組みは酪農農場から始まりますが、乳製品を扱う工場側でも生乳の検査を実施し、FDAに規定された量より多い抗生物質が検出された場合は受け入れ拒否されます。もしそこで手落ちがあったとしても、工場内で熱処理されることで抗生物質の量を減らすことはできます。

食用牛に関しても同じようなことです。獣医薬が与えられた場合は、決められた待機期間を守らなければ屠殺場に送ったり売ったりすることとはできません。本来なら米国農務省食品安全検査局(USDA Food Safety and Inspection Service)管轄であるはずですが、FDAがこういった施設での薬物検査を行っています。

Image: Gizmodo US

Reference: Bloomberg, 東京都福祉保健局

Daniel Kolitz - Gizmodo US[原文

(山田ちとら)

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