Mate 10もこだわり抜いてくれそう。
昨年、業界のトレンドを先取りする形でダブルレンズカメラを搭載したミドルグレードスマートフォン「P9」を発売、ドイツの老舗カメラメーカー・Leica(ライカ)との共同開発だったこともあって注目を集めたメーカー・Huawei(ファーウェイ)。ファーウェイ製品は手に取ったときの質感も良く、「中国=安かろう悪かろう」はもはやステレオタイプだって思わせてくれます。グローバルで成功しているスマホメーカーでもあり、今年の6月〜7月には売上でAppleを抜き世界第2位になってたりも。
実は今回、そんなファーウェイの中国・深圳(シンセン)の本社でグローバルのエグゼクティブにインタビューし、上海の研究施設を訪問・取材するチャンスを得たので、最近魅力的な製品を出せている理由を探ってきました。
「ネットワークに適したデバイスを作れる」のがファーウェイ独自の強み
まずは、グローバルトップ3のエグゼクティブ・Jim Xuさん(President, Marketing and Sales Service, Huawei Consumer Business Group)のインタビューから。
── 最近、ファーウェイの製品はぐっと良くなったと感じています。どんな経緯で今のような製品が作れるようになったんですか?
Jim Xu:以前はOEMでスマートフォンを製造・販売していたのですが、5年前に自社ブランドでの開発・製造に切り替えました。そのときに、次の3点を重視したんです。
1つ目は製品品質を保証すること、2つ目はアフターサービスを強化することです。
3つ目はほかのAndroidメーカーとの差別化。P9ではライカとパートナーシップを組み、カメラの品質を格段に上げることに成功しました。また、デュアルSIMに対応し、長持ちするバッテリーを搭載するなど、基本的なことをしっかりやってきました。今年は世界初のAI対応チップセットを発表しましたが、高い技術力でほかのメーカーに勝つことを目標としているんです。
── ファーウェイはもともと事業者向けに通信インフラ機器を製造・開発・販売する会社ですよね。コンシューマ向けにスマートフォンを作って売るのは、大変だったのではありませんか?
Jim Xu: ファーウェイはスマートフォンメーカーとしてはユニークな存在かもしれませんね。スマートフォンとネットインフラを同時に手がける会社は珍しいはずです。Apple(アップル)やSamsung(サムスン)、ソニーとの一番のちがいでしょう。
10年前、4Gネットワークを手がけていたファーウェイは、「どうやってカスタマーにモバイルネットワークを使ってもらうか?」という大きな課題に突き当たりました。その解決策は、ドングルのデータカード(編注:USB接続のモデム)を発売することでした。これが大ヒットし、ほぼ寡占状態になったんです。
これから5Gの時代に突入しますが、同じように市場に受け入れられる端末を作り出して、いかに5Gネットワークに移行させるかが重要になってきます。ファーウェイには通信技術の蓄積があり、先行もしています。そうした蓄積との相乗効果・シナジーを利用して世界をリードしたいですね。
コンシューマにVoLTEや動画、ビッグデータ、ゲーム、クラウドストレージをきちんと使ってもらうためには、まずネットワークをきちんと作り、それに合わせてデバイスを作らなくてはいけません。そうすることで、最高のユーザーエクスペリエンスを提供できると信じています。そして、これがまさにファーウェイがほかのメーカーさんと差別化できる点、独自の強みです。
ファーウェイでは、デバイスもネットワークインフラも、同じようなラボで作り、試験をしています。CPUやGPU、画像処理、バッテリーの開発はネットワークの研究開発と連携を取って行なわれるので、相乗効果を起こしやすいんです。ネットワーク側の成果を端末側でも生かせるようになっています。
「自分の使っているデバイスがネットワークに最適化されているか」なんて、ユーザーにはなかなわかってもらえない部分かもしれませんが、ファーウェイはそういった基本的なところから、しっかりとスマートフォンを作り上げていっているようです。


こだわったのは、カメラとAndroidの最適化
一方、開発の現場ではどんな風にプロダクトと向き合ってきたのでしょうか? スマートフォン部門のディレクター・Li ChangZhuさん(Director, Handsets Strategy & Business Development Dept)に聞いてみました。
── 最近のファーウェイ製品は、格段に良くなったと思っているのですが、そのために注力されたテクノロジー分野はなんだったのでしょうか?
Li ChangZhu:ユーザーが頻繁に使うカメラ機能ですね。去年はMate 9で、今年はP10で、ライカとパートナーシップを組むなどして写真の品質を上げてきました。
たとえば、写真を撮るときには絞りが重要です。P9ではF2.2、P10 PlusではF1.8と絞りの性能を向上させてきましたが、絞りを大きくしつつも端末は薄く作らなければならなかったので、とても苦労しましたね。
画像技術でライカの力を借ていますが、ファーウェイで光学面や写真品質を開発・研究し、ライカが主観的・客観的な試験でチェックするという形になっており、試験に合格することでライカの銘を入れられるようになっています。ライカのチェックは、光学の品質・性能と画像の品質を対象としています。
写真についてはいろいろな取り組みをしてきたのですが、ファーウェイのこだわりはポートレートモードによくあらわれているのではないかと思います。Appleが新しいiPhoneが発表しましたが、 同様にポートレートモードが研究されていて、「ともにコンシューマーが求めるものを追求しているのだな」と感じますね。
ほかには、Androidの最適化に昨年大きく投資しました。Androidのスマートフォンは、長期間使っていると遅くなったりカクカクしてきます。メモリが少なくなってくるんです。
オープンソースのAndroidはいろんなアプリに対応していますが、ひとつひとつのアプリへのリソース制限が緩いというデメリットがあります。そのため、アプリを長時間使っているとメモリやバッテリーをたくさん使い、動作がカクついてくるのです。
そこで、システムの最適化に着手しました。具体的には、ファイルやドキュメントを整理し、メモリを効率良く使うようにしました。アプリの権限を管理し、CPUのスケジューリング、バックグラウンド、ウェイクアップ機能の仕組みをどうすればいいのかなど、さまざまな改善を行ないました。当時の目標は「12カ月から18カ月スマートフォンを使っても、パフォーマンス低下が当初の20%以下」というものだったのですが、今のところ達成できています。ファーウェイには、こうした長期間の利用による悪影響を改善するラボがあり、そこで耐用試験を繰り返しています。
改善にあたっては、外部の試験機関とも協働しています。ドイツの有名な評価機関「コネクト」に評価してもらったところ、「12カ月から18カ月経ってもパフォーマンス低下は20%以下」という目標は達成されていました。こうした検証ができるメディアやラボがあれば一緒にやっていきたいですね。コンシューマにもメリットがあることですから。
── デュアルカメラを他社も搭載してきいますが、どう差別化していくつもりですか?
Li ChangZhu:デュアルカメラは確かに大きなトレンドとなっていますが、ファーウェイでもいろんな取り組みをしています。「ユーザーに最高品質の写真を撮って楽しんでほしい」という思いがあるんです。
まずは、光学モジュールの品質を良くしたいですね。この点には日本の企業が長けているので、協業したいです。また、カラーとモノクロ、動画も含めて、画像の品質を良くしていかなければなりません。デジタル処理やプロモーション、スーパー夜景撮影などを向上したいですね。絞りをさらに改善し、奥行きや深度を測定できる機能、3Dスキャン技術も導入していくつもりです。ズーミング機能の改善にもライカとともに取り組んでいます。1〜2年後の新製品で実現していければと思います。
Jim XuさんもLi ChangZhuさんも「品質」という言葉を繰り返しているのがとても印象的。開発研究の話と品質管理の話が常にセットになっているところをみると、普段から自らに厳しい基準を課しているのでしょう。
ファーウェイは2017年10月16日に、新しいフラッグシップスマートフォン「Mate 10」を発表します。特にネットワーク開発と連携されているであろうAI搭載チップセット「Kirin 970」にはファーウェイならではの強みが見てとれそうですね。どれだけ品質を高めてきてくれるか、期待しながら待ちましょうか。
※本記事の取材にあたっては、ファーウェイより取材費・渡航費等の提供を受けています。
Photo: ギズモード・ジャパン
Image: Huawei
Source: Huawei, The Verge
(かみやまたくみ)