センサー内蔵の飲み薬、米国で初認可。飲み忘れが丸わかりの時代へ
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センサー内蔵の飲み薬、米国で初認可。飲み忘れが丸わかりの時代へ

便利そうだけど、プライバシーも心配。

薬もついに、デジタルになる時代がやって来ました。米国食品医薬品局(FDA)が、センサーを内蔵した薬の錠剤を認可したのです。患者がこの錠剤を飲むと、センサーが「飲んだ」というデータを発し、そのデータが患者のスマートフォンや医師に届いて確認できるという仕組みです。

センサー+パッチ+アプリで動作

FDAによると、この「デジタル摂取トラッキングシステム」を内蔵する史上初の薬は、大塚製薬がプロテウス・デジタル・ヘルスと共同開発した「エビリファイ マイサイト」という抗精神薬です。FDAいわく「この薬は、統合失調症の治療、双極I型障害の躁病および混合型症状の急性治療、成人におけるうつ病の補助療法での使用に対し承認されている」そうです。

大塚製薬時事通信によれば、エビリファイ マイサイトの錠剤には3mm程度の極小センサーが入っています。錠剤が胃で溶けてセンサーが胃液に触れると、患者の体に貼ったパッチに情報が送られ、そのパッチがアプリに情報を送信、端末上で確認できるようになります。その情報は、患者が同意にサインすれば医師や看護師にも共有されます。「センサー」っていうと何かケミカルで体に悪そうなイメージもありますが、New York Timesによればエビリファイ マイサイトに含まれているのは銅、マグネシウム、シリコンなど、どれも「食品にも含まれる安全な素材」です。

たしかに薬って、自分でも飲んだかどうか忘れちゃうときがあるし、自動で記録してくれればすごく便利そうです。そしてその情報を医師とか病院が把握していれば、何か問題が起きたときにそれが薬の飲み忘れによるものか、違う原因なのかをきっちり確認できます。さらに患者の立場では「忘れちゃいましたーてへぺろ」であっても、病院とか保険組合とか国とかから見ると「患者の怠慢で治療できなかった」ことになり、その結果世の中にも負担がかかっているんです。米国の場合、そのせいで毎年1000億ドル(約11兆円)が余計にかかっていると言われています。

ただこの仕組みも、飲み忘れを可視化するだけであって、積極的に防いでくれるわけじゃありません。なのでFDAは「この製品によって、患者の投薬計画遵守を改善できる効果は示されていない」と注意書きをしています。またセンサーによる検知が遅れたり、できなかったりすることも追記しています。

抗精神薬からのスタートに賛否も

この史上初のセンサー内蔵の錠剤は統合失調症などの薬なんですが、それが適切なのかどうかについては賛否があります。といっても統合失調症は100人にひとり弱がかかる慢性化しやすい病気で、放っておけば薬物依存や周囲からの虐待といった深刻な事態につながることもわかっており、病気としての優先順位が問われているわけじゃありません。抗精神薬による治療は比較的安全で効果的とされていて、患者本人が薬を確実に飲むこと、それを医師や周りの人が確認できることで、患者やその家族の生活をより楽にできることが期待されます。

ただ統合失調症の症状には、「誰かに見られている」「追跡されている」という妄想や、実在しない声が聞こえてしまう幻覚があります。自分の服薬行為を医師が把握しているという感覚は、そんな妄想を強めてしまうかもしれません。コロンビア大学のlaw, ethics and psychiatry(法、倫理、精神医学)部門ディレクター、Paul Applebaum博士はNew York Timesに対しこう語っています。

患者の行動を監視して、体から信号を出して、医師に通知するシステム?
統合失調症の薬よりは、精神医学でも医学全般でも、ほかのどんな症状でもいいから、違う病気への薬のほうがスタートには適していたと思いますよ

プライバシーへの懸念

また、ある薬を飲んだかどうかがデータで残り、それをあちこち共有可能という状態は、どうしてもプライバシー漏洩の心配につながります。そしてその仕組みを使う最初の薬が、世の中に偏見を持たれがちな統合失調症の薬であるというのも微妙なところです。また米国では精神疾患の治療を裁判所が強制する場合があって、ただでさえ人権的にどうなんだと問題になっているのに、患者の服薬を監視する仕組みができてしまったことで、懸念はさらに広がりそうです。

とはいえ医療データは一般に頑丈に保護されてはいますが、最近いわゆるビッグデータの旗印の下、匿名化された情報がどんどん売られています。個々のデータは匿名でも、複数のデータベースを突き合わせれば個人の特定につながる可能性が高まります。たとえば製薬会社が、そんなデータベースに入った個人の抗うつ薬とか減量薬の利用歴、性感染症治療経験を把握した上で広告を打つ、なんてことも想像できます。または医療保険会社なら、保険契約者が薬を真面目に飲んでいるかどうかを監視して、ちゃんと飲まない人の契約料をアップする、なんてことを考えないとも限りません。

…と、いつものことながら何が起こるかわからない不安感を抱えたまま、薬のデジタル時代が到来してしまいました。30年前とかにはSFだと思われていたことが、またひとつ現実になったんです。最初はこの抗精神薬からスタートしますが、そのうちこれが普通になって、AmazonのAlexaとかiPhoneのSiriとかに「血圧の薬! 飲んでないんですけど!」なんて言われるようになるんでしょうね。

個人的にはサプリとかも買ったまま放置しちゃうことが多いんで、コストが下がればそういう手軽なものも管理したいです。でももうめんどくさいから、その時代飛び越して「ナノマシン一発打ったら薬とか要らない」ってことになるのもいいですね〜。

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Source: FDA, 大塚製薬, 時事通信, IMS Institute, New York Times, 厚生労働省, National Institutes of Health, US News, Stat News , Scientific American

Tom McKay - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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