映画の音を生み出すフォーリー・アーティストの仕事とは? 足音で表現された『ブレードランナー2049』のキャラクター像

映画の音を生み出すフォーリー・アーティストの仕事とは? 足音で表現された『ブレードランナー2049』のキャラクター像


映画の効果音として、様々な道具はもちろん自らの身体までもを使って生の音を作り出す「フォーリー・アーティスト」。今回はそんなフォーリー・アーティストとしてハリウッドの第一線で活躍し、映画『ブレードランナー2049』にも参加した小山吾郎さんにインタビューしてきました!

この道に進んだきっかけや、『ブレードランナー2049』でのこだわりのポイントを語っていただき、さらに実際の音作りの実演もしていただきました!

『ブレードランナー2049』のネタバレな内容も少しだけ含んでいますので、鑑賞後に読むことをオススメします!



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Photo: ギズモード・ジャパン

──最初はどういったきっかけで、フォーリー・アーティストを目指したのですか?

小山吾郎(以下、小山):カナダの映画学校に行って仕事を探していた時に、ある人の紹介でサウンド・スタジオに行き、フォーリーの部屋を見せてもらったのがきっかけですね。

特にそれまでサウンドには興味がなかったんですが、その部屋を見た時に「うわ、面白い!」と思って、その場ですぐに働かせてくれとお願いしました。いきなりだったんですが、それからトレーニングさせてもらい、今に至るというわけです。

学生ビザで留学していたので、これがダメだったら日本に帰ろうと思っていましたね(笑)。

──フォーリーってそうやって押しかけで就職するのが普通なんですか?

小山:人それぞれみたいですね。ただ、それは当時の話で、今はちゃんと映画学校の中にフォーリーが学べる環境ができています

──脚本を作り、映像を撮り編集して……といった映画を作るプロセスのなかで、フォーリーはどのタイミングで作業に入るものなのですか?

小山:理想としては映像がきっちり完成してから作業に入りたいんですが……映像が出来上がってない状態で作業をすることもありますね。

特に最近の映画ではCGが出来上がっていないということが多いので、緑色のスーツを着たおじさんの手を女優が撫でてる映像を見ながら、「犬のような生物と触れ合うシーン」を想像してやるなんてこともありました。

これは僕のやり方なんですが、事前に作品を見て考えすぎてしまうことがないように、ぶっつけ本番で映画を見ながら音を作っていきます。びっくりするシーンで驚かされ、感動的なシーンに泣かされ、おかしなシーンで笑わされる、そんな気持ちを音に乗せたいんですよ。

まず最初から最後まで映画を見ながら足音を作って、 その次に小道具を使った音、 それから服同士が擦れて出る「衣擦れ」の音を作っていきます。

足音は完成した作品の中では目立った存在ではありません。誰も足音を聞こうと集中して見ていないですからね。ただ、僕の中では足音は映画を見ながら空間を作り上げていくものなので、録音のプロセスの中ですごく重要なものなんです。

──実際、作業をするスタジオって一体どんな風になっているんですか?

小山:足音のためにタイルだったり、コンクリだったり、さまざまな種類の床が用意されています。音をだすための壁や窓、ドアなんかもありますね。

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Photo: ギズモード・ジャパン
『ブレードランナー2049』で使用した小道具や、フォーリーの定番小道具

いろんな音を作り出すための小道具はいくらあっても足りないくらいで、倉庫はそれらで溢れています。

──スタジオにあるもの以外もいろんなものを持ち込むのですか?

小山:靴は必ず持ち込みますね。あとはとにかく色んなものが必要になるので、日常の中でもいい音がするものを探してしまいますね。子どもたちとスーパーに買い物に行っても野菜を叩いて音を聞いていますよ(笑)。

──そんな風に作った音が大きくカットされるなんてこともあるんでしょうか?

小山:監督によっては音楽を多用する人もいて、足音はいらないという人もいるので、そこは監督のスタイル次第ですね。『ブレードランナー2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はフォーリーが大好きで、足音だけのシーンもたくさんありました。

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──『ブレードランナー2049』ではどれくらいの期間、作業をしたのですか?

小山:30日間ですね。普通のハリウッド映画だと15日くらい、20日やったら大規模なので、30日もかかるのはかなり大きな作品です。でも、仕事は飽きることがなく、ずっとやっていたかった(笑)。

監督から唯一あった指示は、「きれいな音じゃなく、ざらついた生々しい音にして欲しい」というものでした。

この手のハリウッド大作だと、例えばスピナーが爆発するような音はすでにあるライブラリーから持ってきたりするものなのですが、監督は全部フォーリーでやりたいという方針で、廃車置場まで行って車を潰し、その音を撮りました。

一日かけて撮ったのは8秒間の音だけでしたが、フォーリーとして8秒は長めなんです(笑)。そんなことをやっていたので、かなり長い期間をかけて作っていきました。

──監督とのやり取りは指示はそれだけだったんですか!?

小山:テストとして最初に小さなシーンの音をつけたんですが、あの『ブレードランナー』の続編なので気合を入れていつも以上にキッチリやって送ったら、さっきの「ざらついた音にして欲しい」という指示が来て、それだけでしたね。

あとは作ったものを送って、それを聞いてもらって、それに関する細かな修正指示を受ける形でした。

──今回はどれくらいの人数でやったんですか?

小山5人ですね。普通は3人くらいでやってしまうものなので、これでも多いほうです。最近の映画はVFXのスタッフが数え切れないほどエンドロールにたくさん出てきますが、サウンドはすごく少ない人数でやるんですよ。

今回は普通あまりやらない外に出て録音するというのもやったので、人数が多くなっています。

──ちなみに今回の映画では全部フォーリーを使ったということでしたが、前作の音は再利用したりはしていないのですか?

小山:全部自分たちが作りましたね。再利用したのは、回想シーンでのレイチェルの足音くらいじゃないでしょうか。

今回のフォーリーをやるにあたって、『ブレードランナー』や監督の以前の作品の真似はしたくないというのはあって、意識して新しい音を作っていきました。

──今回特に気に入っていて、観客にぜひ聞いて欲しいってシーンってなんですか?

小山:監督はKが淡々と歩く中で静寂を活かすシーンが多くて、フォーリーとしてはすごくやりがいがありました。

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中でも自分の中で会心の出来というのは、冒頭のサッパーが歩くシーンですね。音楽がまったく無くて、スーツを脱ぎながらドアを入って眼鏡を外して手を洗う中、鍋がコトコトいってるなんてシーンでは、全部フォーリーで音を作ったので、完成したものを見た時は非常に嬉しかったですね。

後に続くアクションシーンも面白いんですが、やっぱりああいうシーンにやりがいを感じますね。

──そのシーンの足音にはどんなものを使いましたか?

小山:まず足音ですが、建物の床が世界観的に木ではないので、しならせた石膏の壁材の上を歩く音にしました。そうすることで、木とは違うギッギッという音がするんです。

それを送ると、「サッパーは大きて強いからもっとドスンドスンという音を足してくれ」という指示が来たので、さらに踵を強くぶつけるベース音を足しました。それでも「もっと大きく」という指示がきました。

ただ流石にこれ以上に大きい音にすると怪獣みたいになっちゃうし、キャラクターとしても慎重な人物でガサツに歩いていないので、ベース音を足す代わりに、彼が歩くと部屋の棚の中にある皿の音を立てるようにしました。そしたらだいぶ気に入ってくれましたね。

ちなみに彼がドスンと音を立てて倒れるときも、その背後で皿がカタンと音を立てていますよ(笑)。

──今作で作るのが一番難しかったのは何の音ですか?

小山やっぱり僕は足音ですね。足音はキャラクターの表現と密接な関係を持っていて、同じキャラクターでも場面毎にその足音がどんな意味を持っているのかを考えて作っています。

今作は特に足音が強調されるシーンが多いからこそ大事だなと感じました。Kは同じペースで歩き続けるし、ラヴは無駄のなく危険な足音になっています。特にジョイは実際存在しないデジタルの存在だからこそ、足音はその存在をアピールする重要なものでしたね。

──その足音にはどんな靴を使ったんですか?

小山:Kはこういう普通の靴ですね。

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Photo: ギズモード・ジャパン
Kの足音で使った靴。中敷には「K」と書かれたシールが貼ってあります

ラブやレイチェルがハイヒールを履いて歩くシーンがありましたが、音としてはハイヒールではなくカツンカツン言う男性向けのシューズの方がそれらしい音がするんです。

今回は自分のこだわりで49足の靴を使いました。2049なので(笑)。ただ、それだと奇数になったので、片方だけの靴は金属を蹴るシーンなどに使いましたね。




ハイヒールの音にハイヒールを使わないというのは驚き! そしてインタビューの最後に、『ブレードランナー2049』で実際に使ったのから、フォーリーで定番の音まで、その場で音作りを実演してもらいました……!

映画『ブレードランナー2049』は現在絶賛公開中。これからもう一回観るという人はぜひ足音を気にしながら観てみてはいかがでしょうか!



Photo: ギズモード・ジャパン
Source: 映画『ブレードランナー2049』 | オフィシャルサイト

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